大きなあなたと
あなたの名前は?
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勢い任せに脱衣場の扉を開けてしめる。
扉が閉まったところで、誰かに見られるわけでもないのに顔を両手で覆った。
ことの発端は権兵衛さんからお風呂に入るように言われた時の事。
権兵衛さんの過保護気味な発言は重々理解しているつもりだった。
だから、「一緒に入る?」と聞いてくるのも分かる。
心配から来る発言で、断られるであろうことは彼女も理解した上で一応聞いてみたという感じのニュアンスだった。
分かってる、彼女の真意は。
なのに、そこで言い淀んだ自分を殴りたい。
何ですぐに断らなかったんだ、俺…!
しかも、誤魔化すために窘めたのも良くなかった。
そう、権兵衛さんは本気で心配して言っていた。
真剣な顔で返事をする権兵衛さんに思わず変なこと聞いてしまった。
「僕が入りたいって言ったら本気で入る気ですか?」って……何を言ってるんだ…俺は…。
しかも、権兵衛さんは即答で「うん」って答えるし。
あまりにもまっすぐに答えた権兵衛さんに動揺してしまった。
気持ちを落ち着けるために黙っていたが、目の前に来てしゃがみこんだ権兵衛さんに顔を覗き込まれ、視線を逸らす。
そんな僕に気を悪くすることもなく、優しく微笑んだ権兵衛さんは再び一緒に入るか聞いてきた。
すぐに否定の言葉を言えば良かったのに、何故か、その言葉が出なかった。
頭を撫でられたかと思うと優しく笑う権兵衛さん。
「今日は一緒に入ろっか」という言葉はひどく甘美だった。
その甘やかな響きに一瞬、何を言われたのかわからなかった。
無言を肯定と受け取ってからの権兵衛さんの行動は迷いがなかった。
すぐさま着替えを取りに行こうとする権兵衛さんの手を必死につかみ、やっとの事で一人で入れることを伝えた。
念押しでもう一度聞かれたが、これ以上、迷ったら、本気で一緒に入りかねない。
止まった権兵衛さんをリビングに残し、脱衣場に飛び込んだわけだ。
ちょっとどうかしているな…。
再び、別の世界に来てしまったことや、権兵衛さんのこと、いろいろ思い出し、まだ動揺しているのかもしれない。
少し頭を冷やした方がよさそうだ。
湯船につかって体を温めると、心も少し落ち着いたような気がする。
そう言えば、ここ最近、ずっと忙しかった。
こんな風にゆっくりするのは久しぶりだな。
……いつもの僕らしく振る舞えなかったのも余裕がなかったからなのかもしれない。
余計なことを考えないように忙しくし過ぎた。
それで心を乱しているようじゃ、まだまだだな、と苦笑する。
湯船から上がり、体を拭いているところで、突然、くらりとめまいがした。
少し長く入り過ぎただろうか。
しばらくきつく目を閉じていると、めまいの不快な感じがなくなっていた。
そっと目を開けて、鏡に映る自分の姿に再びめまいがしそうだった。
元の姿に戻ってる。
じっと鏡に映る自分の姿を確認し、身体を動かしたり触ったりしてみる。
やはり戻っている。
これまでと違うのは、戻る時に感じていた体の熱と痛みがなかったことだ。
めまいは感じたが、それはなかった。
しかも何故このタイミングで戻ったのかも不明だ。
まぁ、そもそも体が縮むこと自体が意味が分からない。
取り敢えずバスタオルを腰に巻き付ける。
ここからどうするべきか。
僕が最初に着ていた服は、リビングに持っていってしまった。
さすがにこの姿のまま権兵衛さんの前に出るわけにはいかない。
知らない男が裸で家にいるっていくら権兵衛さんでも警戒するだろう。
ああ、でも、この顔は知らない顔じゃないかもしれないな…。
きっと『名探偵コナン』の降谷零を思い出すだろうから。
………と言っても、さすがに裸でってのは…。
はぁ、とさっきから堂々巡りの思考にため息が出た。