大きなあなたと
あなたの名前は?
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権兵衛さんに言われ、着替えをすることにした。
両手を広げる権兵衛さんに嫌な予感がしたが、わざわざ確認をとってきたので僕は回避することができた。
着替えだけ持ってきてもらうように言うと、権兵衛さんは残念そうな顔をしていた。
権兵衛さんが持ってきた服に腕を通しながら、考える。
もう着ることはないと思っていたのに、また子ども服を着ることになるとは。
服を着たところで、体の変化について考えてみる。
確実に元の世界では3年が経っている。
もともと大人ではある為、体の変化についてはそれほど大きく変わってはいないだろう。
しかし、ここへ来てまた子どもの姿に戻ってしまった。
子どもの姿では、権兵衛さんの世界の時間軸なのかもしれない。
権兵衛さんが指摘したように、服のサイズもぴったりなことから以前と変わっていないようだ。
自分が着ていた服を畳んでいるとリビングへの扉の近くにフライパンが置いてあるのを見つけた。
身体が縮む前には置いていなかったことから、権兵衛さんが此処へ来るときに持ってきたものだろう。
フライパンでどうするつもりだったのか…権兵衛さんの考えそうなことを想像して、思わず苦笑してしまった。
ここに置いておくわけにもいかないため、自分の着替えとフライパンを持って権兵衛さんの待つリビングの扉を開ける。
扉が開く音を聞いて、権兵衛さんが僕の方を見る。
そして、僕が持っているフライパンを見て、はっとした顔をしていた。
どうやら完全に存在を忘れていたみたいだ。
「あ、フライパン」
「何に使うつもりだったのか何となくわかりますけど…そういう時は、わざわざ向かっていかないでくださいね。
一人で何とかしようと思わないように」
「はーい」
「……本当にわかってます?」
気のない返事に思わずこちらも脱力してしまう。
本当にわかってるんだか…。
権兵衛さんはフライパンを受け取るとキッチンへ向かった。
権兵衛さんの後姿を見ながら考える。
再び、この世界に来てしまった。
今度はいつ戻れるのか、まだわからない。
最初の時と、今回では、僕が居た場所は関係性のない場所だったが、たどり着いたのはどちらも権兵衛さんの部屋だった。
この部屋には何かあるんだろうか?
権兵衛さんの事だから、僕が言わなくてもこのままここに住まわせてくれそうだが、一応、言っておくことにした。
お菓子と飲み物を持って戻ってきた権兵衛さんに僕はここに居させてほしい旨を伝える。
権兵衛さんはきょとんした顔をして、言われなくてもそうするつもりだったと当然のように言った。
思っていた通りの反応に苦笑してしまう。
そんな僕を見ていた権兵衛さんは、小さく笑うと僕の名前を呼んだ。
「れい君」
「はい」
「ここはれい君の第二の家です」
「は?」
「だから………おかえりなさい」
そんな風に言われるとは思っていなくて少し驚いた。
権兵衛さんが自覚しているのかわからないが、いや、きっと無自覚なんだろう。
すべてを包み込むような優しさを纏った空気に、心が震える。
ああ、相変わらず権兵衛さんはとことん子どもに甘い。
「ただいま、権兵衛さん」
いつかは別れの時が来る。
ただ、ここに居る間だけは、彼女の事を想っていたい。
ただいま、と口にした僕を見て、権兵衛さんは満足そうに微笑んだ。
そして、僕の頭をよしよしと撫で始めた。
頭を撫でられるなんて久しぶり過ぎて、少し複雑だった。
急に抱きしめられるよりは気持ち的には平和だが。
「取り敢えず、ご飯にしましょうかねぇ」
「手伝います」
「相変わらず、お手伝いしたいなんてえらいねぇ、れい君」
「……褒めても何も出ませんよ?」
「純粋に褒めてます!」
「そうですか……」
「不服そう…!」
しっかりと子ども扱いされた。
権兵衛さんとの久しぶりのやり取りだったが、彼女は全く変わっていない。
まぁ、こっちでは3日しか経ってないから変わっているわけがないか。
もし、変わっているとしたら僕の方だろう。
権兵衛さんの事を思い出すと同時に、『名探偵コナン』という漫画の事も思い出した。
以前は文字化けしていて見ることができなかった部分が、3年経った今なら見ることができる部分が増えているのではないだろうか。
そこが分かれば、その漫画の世界と自分の世界が同じものなのか、ただ似ている別の物なのかが分かる気がする。
ただ、わかったところで過去は変わらない。