大きなあなたと
あなたの名前は?
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今日は天気も良く、浜辺での貝殻探しにはもってこいだった。
少しばかり日差しが強い気もするが、潮風に吹かれるとそれなりに心地よく感じる。
以前、権兵衛さんと来た時とは時期はあまり変わってはいないものの、子どもだった時の目線に比べると別の場所に来たようにも感じた。
しかし、何よりも一番違うのは隣に並ぶ権兵衛さんを見降ろす形になっている点だろう。
権兵衛さんはといえば、涼しげなワンピースにサンダルという格好をしている。
膝下くらいの丈のワンピースなのだが、サンダルを履いているということもあり、肌が見える部分が多いのがどうにも気になって仕方がない。
幸い砂浜にはあまり人もいないため、権兵衛さんの足を他人に凝視されることはないのだが……いや、彼氏でもない自分がそんなことを考えているのはどうかと思う。
そんなことを考えていると、隣にいた権兵衛さんがいきなり拳を空へ突き出した。
「いざ、出陣じゃ!!」
「どういうテンションですか、それ」
「なんとなくだから、あんまり聞かないでほしい」
何故か戦でも始めるかのような掛け声にため息が出そうになった。
この人、本当に普通にしていれば可愛いのに……。
たまに出てくる謎のキャラ設定に先ほどまで考えていた邪な気持ちが綺麗さっぱりなくなっていた。
ここまでくるともはやワザとやっているのではないだろうか、と思いたくもなるが……無意識だな、あれは。
今日の目的を果たすためにそれぞれ貝殻を探し始めた。
権兵衛さんは貝殻を探しながら時々立ち止まって伸びをしたり、岩場の近くにしゃがみこんだと思えばじっとして動かなくなったりしていた。
見ていて面白い。
あからさまに視線を向けては気付いてしまうかもしれないから、貝殻を探しながらこっそりと権兵衛さんの様子を盗み見る。
今度はカモメの鳴き声につられたようで空を見上げていた。
足取りも軽やかで鼻歌でも歌っていそうな様子だ。
時折、権兵衛さんの様子を見ながら、本来の目的である貝殻を探す。
壊れてしまった貝殻の代わりとなりそうなもの…というよりも、権兵衛さんが好きそうなものを選んで、小さなバケツに入れていく。
ふっとバケツの中に目がいった。
「………はぁ…」
権兵衛さんを見ながら集めた貝殻はいつの間にか小さなバケツの三分の二程度ほど入っていた。
権兵衛さんも貝殻を拾っているのだから、これだけあれば十分だろう。
流石に集めすぎだ。
これだと選ぶのにも時間がかかってしまいそうだな。
そう思い、権兵衛さんの方を見ると、どうやらこちらを見ていたようだったので、こちらに来るように手招きをした。
ワンピースの裾を揺らしながら、小走りでこちらに向かってくる権兵衛さんにどうしようもなく胸が高鳴る。
そのまま僕の胸に飛び込んできてくれたら、思いっきり抱きしめられるのに…なんてことを考えて、首を振る。
「れい君、どうしたの?」
すぐ近くまで来た権兵衛さんが尋ねてきた。
先ほどのやましい気持ちは顔に出さないように、にっこりと笑顔を向ける。
「成果はどうですか?」
「まぁまぁ、かなー。れい君は?」
「数はありますね、権兵衛さんが気に入るものがあればいいですが」
僕のバケツに目を向けると権兵衛さんは、「おお」と感嘆の声をあげた。
「これだけあれば十分だねー、じゃあ、ちょっと休憩しようか!」
そういって権兵衛さんは胸壁の方を指さした。
権兵衛さんの言葉に頷いて、僕たちは胸壁の方へ向かった。
胸壁へ到着すると、権兵衛さんが腰かけたのを確認し、隣に腰を下ろす。
できればもう少し近くに座りたい所だったが、権兵衛さんが僕との間に拾った貝殻を並べ始めたため、それは叶わなかった。
貝殻の形や色で分けながら、真剣な表情で貝殻を吟味している。
権兵衛さんの邪魔にならないように貝殻を分けていると、ふっと権兵衛さんが一つの貝殻に手を伸ばした。
少し薄い貝殻を手に取った権兵衛さんは、その貝殻を撫でたり、裏返してみたりしている。
そして何を思ったか貝殻をもった手を空へ掲げた。
太陽を見上げる形になり、少し眩しそうに目を細めた。
そして、嬉しそうに口元が緩む。
その姿があまりにも眩しくて。
できればそのまま閉じ込めて僕だけのものにしてしまいたい、と柄にもなく思ってしまった。
そんなことを考えていたからだろうか。
気が付くと僕はスマホのカメラで権兵衛さんを撮っていた。
カシャっというカメラの音に反応して権兵衛さんが不思議そうにこちらを見た。
きょとんとした顔でこちらを見つめる権兵衛さんに、自分がした行為に愕然とした。
確かに独り占めしたいと考えてはいたが…まさか無意識に写真を撮っていたなんて……しかも、誤魔化しようがないくらい堂々と。
盗撮ならもっと気をつけないと…いや、そもそも盗撮するってダメだろ。
反応のない僕に権兵衛さんも困惑したらしく、きょとんとした顔から怪訝そうな顔になった。
「………え、どういうこと?」
「……………」
権兵衛さんの目線と追及から逃げるように視線を逸らし、口元を手で覆ってしまった。
無意識に撮ったなんて知られたくない。
………いやいやいやいやいや!だとしたら、ここで無言はダメじゃないか!?
「嬉しそうにしてたので、つい写真におさめちゃいました」とかなんとか言えば良かったんじゃ…?
頭の中でいろいろ考えているうちに、隣の権兵衛さんの口元が緩み、にまにまとし始めた。
これはまずい、どう弁解すべきか…。
思わず両手で顔を覆い、深いため息を吐く。
すると、権兵衛さんが動く気配を感じた。
胸壁から降りた権兵衛さんは、僕の目の前に来たらしい。
「れい君、こっち向いてー」
「…………」
声と気配からすぐ目の前に立っているらしい。
すぐにでも顔をあげたい所だが、まだどんな顔をしたらいいのかわからない。
何度か権兵衛さんが声を掛けてきたが、無言を貫く。
しばらくすると、権兵衛さんが少し離れたような気配がした。
何処へ行くのだろうか、と思い、顔を上げようとした途端に聞こえてきた音に再び動きが止まる。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
とてつもない量のシャッター音が鳴り響く。
思わず顔をあげ、目の前の権兵衛さんをジトッと見つめる。
いや、先に写真を撮ったのは僕だが、あんなに撮ってない。
撮り過ぎだ。
「…撮り過ぎですよ…」
自分が思っていた以上に拗ねた声が出て、再び顔を覆いたくなった。
しかし、僕が顔を覆うことはなかった。
「おーっほっほっほっほ!
撮ったもん勝ちよー、消せるものなら消してごらんなさい!」
突如、空を見上げ、仁王立ちで高笑いをし始めた権兵衛さんを思わず見つめてしまったからだ。
何処かで権兵衛さんの変なスイッチが入ったらしい。
再び不自然な高笑いをしながら、海の方へと走り出していた。
小さくなっていく権兵衛さんを見つめていると、ふいに権兵衛さんが振り返った。
「ふふっ、あははは!」
先ほどの不自然な高笑いと違い、いつもの自然な笑い声に我に返る。
思わず忘れていたが、連写で大量に写真を撮られたんだったな……権兵衛さんは「消せるものなら消してごらんなさい!」と言ったか。
どんな写真が撮れているのか確かめないとな…。
僕が立ち上がると同時に、権兵衛さんの笑い声は止まり、口元に手を当てているのが見えた。
どうやら何かを感じ取ったらしい。
くるりと向きを変えると、先ほどよりスピードを上げ、走り出した。
「………僕から逃げられるとでも?」
再び走り出した権兵衛さんを追いかける。
そもそも体力もそんなにない権兵衛さんが、サンダルで砂浜を速く走れるはずがなく、あっという間に権兵衛さんに追いついた。
手を伸ばせば届く距離まで来たところで、権兵衛さんがふいに振り返った。
心底、驚いた表情をしたのは一瞬で、次の瞬間には権兵衛さんの体が傾いた。
僕に気を取られて、砂に足を取られたらしい。
「あ」
「権兵衛さんっ!」
倒れそうになっている権兵衛さんの体を抱き抱える。
それと同時に権兵衛さんがバランスを崩した際に放り投げたスマホも、無事キャッチすることが出来た。
ふう…と安堵のため息が漏れる。
僕の腕の中で権兵衛さんはぎゅっと目を閉じている。
そんな権兵衛さんの顔を見ていると、あまりにも可愛らしくて思わずキスでもしたくなってしまいそうだったが、耐えた。
権兵衛さんの顔から視線を外し、スマホを操作する。
フォルダから先ほど撮ったであろう写真を探し、消去していく。
どれだけ撮ったんだ…という思いと、完全に顔も隠している状態のこの写真を権兵衛さんはどうするつもりだったのだろう、という疑問が頭の中を駆け巡っていた。
そのうち、権兵衛さんが目を開けたのか視線を感じたが、そのまま写真の削除を続ける。
途中から権兵衛さんは、何故か首を縦に振って頷いていた。
写真はすべて消去した。
名残惜しいが腕の中で大人しくしていた権兵衛さんを解放し、スマホを差し出す。
「ん?」
「はい、権兵衛さん」
「うん、ありがとう……あれ、これ、私のスマホ」
「ええ」
きょとんとした様子の権兵衛さんは、不思議そうにスマホを受け取った。
しばらくスマホを見つめた後、眉を顰め、怪訝そうな顔でスマホと僕を交互に見始めた。
そんな権兵衛さんに思わず笑みがこぼれてしまった。
「捕まえたので、さっきの言葉通りにしただけですよ」
「…………はっ」
僕の言葉で、僕が何をしていたのかに思い至ったらしく、慌ててスマホを操作し始めた。
確認が終わると、不服そうな顔で僕を見つめてきた。
そんな表情すら愛しく見えてしまうんだから……困ったな…。
残念そうな様子の権兵衛さんだったが、しばらく何かを考えているような表情になり腕を組んで首を傾げた。
何だろうと思ってみていると、思ってもいない言葉が飛び出した。
「ずるい」
「はい?」
びしっと僕を指さして、権兵衛さんはさらに言葉を重ねた。
「れい君は、私の写真撮ったから、私もれい君の写真が欲しい」
「…………僕の写真なんて撮っても面白くないですよ?」
「…………いやいや、それを言ったら私の写真だって面白くないでしょ」
「権兵衛さんの写真は………」
確かに権兵衛さんの言い分もわからなくはない。
ただ、どんな気持ちで写真を撮ったのか、なんて権兵衛さん本人に言えるわけがない。
自分だけのものにしてしまいたかった、なんて……言ってしまったら、止まらなくなるのは容易に想像できる。
本音は隠して、どんな言い訳をしようか…そんなことを考えながらも、心の何処かで正直な気持ちを伝えたい自分に気が付き、苦笑する。
「……え、もしかして面白かったりするの?」
「……内緒です」
大した時間は経っていなかったが、僕が無言になってしまったため、権兵衛さんが声を掛けてきた。
僕の気持ちにはこれっぽっちも気付いていなさそうな権兵衛さんを見て、思わず笑みがこぼれてしまった。
やはり何も言わないまま、このままの関係で居た方がいいだろう。
権兵衛さんの一挙一動、全てを閉じ込めて僕だけのものにしてしまいたい…叶うことのない衝動を笑顔で覆い隠した。
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