大きなあなたと
あなたの名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昨日、れい君が言っていた通り、今日はとてもいい天気だった。
4月だが、少しばかり日中は暑いくらいだ。
私とれい君は、以前、貝殻を拾いに行った海に来ていた。
私が壊してしまったフォトフレームの貝殻を新たに拾いにきたのだ。
砂浜には、まばらに人影があるくらいでどちらかといえば静かだった。
そんな中、私はれい君の方を向き、拳を空へ突き上げる。
「いざ、出陣じゃ!!」
「どういうテンションですか、それ」
「なんとなくだから、あんまり聞かないでほしい」
冷静な態度のれい君に、ちょっぴり温度差を感じつつも貝殻探しを始めることにした。
穏やかな波の音を聞きながら、浜辺を歩く。
割れてしまった貝殻と似たような色合いの貝殻を探していく。
気になった貝殻をいくつか拾い、流れ着いた海藻を避け、岩場の陰に小さなカニが隠れているのをじっと眺めてみる。
カモメの鳴き声がして、空を見上げれば綺麗な青。
こうやってのんびりするのも気持ちが良い。
そんなことを考えながら、れい君はどうしているだろうかとあたりを見渡した。
少し離れた所で、しゃがんでいるれい君を発見した。
人が少ないこともあるが、なんというかれい君は何もしてなくても目立つ。
そうだよな、あんなイケメン、ここら辺ではそうお目にかかれないもんなぁ…。
そんなことを思っていたら、れい君が顔をあげ、こちらを見た。
そして、私を見つけると手招きをした。
何か見つけたのだろうか。
私は、呼ばれるがままにれい君のところへ向かった。
「れい君、どうしたの?」
「成果はどうですか?」
「まぁまぁ、かなー。れい君は?」
「数はありますね、権兵衛さんが気に入るものがあればいいですが」
小さめのバケツに入っている貝殻をちらりと見る。
思ったよりも量があったため、貝殻拾いはこれくらいで十分なのではないかと思った。
海岸の砂浜に沿った胸壁に二人で腰を掛け、拾った貝殻を並べていく。
フォトフレームに必要なのは割れてしまった3つ分。
必要な分だけ選別して、残りは再び砂浜へ戻す予定である。
どれがいいかな、と吟味し、一つの貝殻を手に取る。
少しだけ薄いその貝殻は、光を当てたら綺麗な気がして太陽にかざしてみた。
すると、すぐ近くからカシャっという音が聞こえた。
音のした方を見るとれい君が私にスマホを向けているではないか。
ん?写真撮られたってこと?
何故写真を撮ったんだろう、と不思議に思い、れい君の顔を見るために視線をあげる。
スマホ越しに目があったれい君は……何故か驚いた顔をしている。
「………え、どういうこと?」
「……………」
私が驚くのは変ではないはずだが、れい君が驚くのは変だろ。
誰かに操られてるとかじゃないんだから。
しかし、呆然としているれい君なんて、珍しい物を見たような気がする。
れい君の様子から考えると、自分の行動に驚いているように見える。
無意識に写真を撮ったということだろうか?
私、そんなに面白いことしてたかな?
私から視線を逸らしたれい君は口元を押さえて下を向いた。
横から見える耳は赤くそまっている。
思わず口元が緩んでしまった私は、にやにやしながられい君を見つめる。
そんな私の視線を避けるようにれい君は両手で顔を覆い、深いため息を吐きながら下を向いてしまった。
可愛い……。
きっとれい君にとってはすごく気まずいというか恥ずかしいことのような気がした。
あまり問い詰めたら拗ねてしまうような気がして、これ以上からかうのはやめることにした。
私は胸壁から降り、座っているれい君の前に立つ。
そして、自分のスマホを取り出し、れい君に向ける。
「れい君、こっち向いてー」
「…………」
身動きすらしないれい君。
しかし、そんなことで私は諦めたりしない。
れい君だって私の写真撮ったんだから、私も撮っていいよね?
照れてるれい君、シャッターチャーンス☆
私は頭の中で古典的な悪役令嬢のような高笑いをしながら、シャッターボタンを押した。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
怒涛の連写にれい君がバッと顔をあげた。
ジトッとした目でこちらを見てきた。
おっと、流石に撮り過ぎたか?
「…撮り過ぎですよ…」
「おーっほっほっほっほ!
撮ったもん勝ちよー、消せるものなら消してごらんなさい!」
私は高笑いをして、れい君とは反対の海の方向へ走り出す。
ある程度、距離を取ってれい君の方を振り返ると、こちらを見たままぽかんとしているのが見えた。
れい君の様子と、自分で言った台詞が可笑しくて、私は声をあげて笑った。
しかし、私の笑い声で我に返ったれい君は、静かに立ち上がると、こちらに向かって走り出した。
あ、やばい。
少し距離があるが、れい君がマジな顔してるのが分かった。
ちょっとふざけ過ぎた自覚があるだけに、嫌な汗が背中を伝った。
ぐるっと方向チェンジして、私も再び走り出す。
なんか捕まったらヤバイ気がする…!
今までで一番というくらい本気で走った。
しかし、そもそも体力が違うし、私はサンダルでれい君は靴だ。
そんな相手に私が勝てるわけがなかった。
全速力で走ったが、ふっと振り返るとすぐ後ろにれい君が居て、驚いた拍子に私は砂に足を取られ、体のバランスを崩した。
「あ」
「権兵衛さんっ!」
これはすっ転ぶやつー!と衝撃に耐えるために体に力が入ったが、思った衝撃は来なかった。
その代わりに、体制を崩した直後、お腹の辺りに圧迫感を感じた。
しかし、それは一瞬のことで、今は腰辺りに熱を感じる。
こんなようなこと前にもあった気がするなぁ、なんて思いながらそーっと目を開けると、目の前にれい君の顔があった。
やけに真剣な顔をしている。
心配かけてしまったなぁ、なんて思いつつも、その真剣な表情にドキドキしてしまっている自分がいる。
好みの顔だし、好きな表情だから仕方ないよね。
そう思うながら、うんうんと自分を納得させる。
そんなことを考えていたら、いつの間にか腰に回された手は離され、私は自立して立っていた。
れい君はスマホを弄っている。
そして、にっこりと笑うとそのスマホを私へ渡してきた。
「ん?」
「はい、権兵衛さん」
「うん、ありがとう……あれ、これ、私のスマホ」
「ええ」
そういえば、転んだ瞬間、スマホを放り投げた気がする。
どうやられい君がキャッチしてたようだ。
海に投げ入れなくて良かった…と安堵の息が零れたが、先ほどのれい君の行動を思い出す。
つまり、さっき弄ってたスマホは私の物だと?
私は手元のスマホとれい君の顔を交互に見る。
れい君は、そんな私をにこにこして見ている。
「捕まえたので、さっきの言葉通りにしただけですよ」
「…………はっ」
私は慌ててスマホのフォルダを確認する。
さっき連写で撮ったれい君の写真が、ない。
きれいさっぱり消されていた。
いや、待て、暗証番号なんでわかった?
「……」
「………内緒、です」
「え、私の脳内までよめるの?
れい君はエスパーなの?」
「いえ、権兵衛さんの顔にかいてありましたから」
「……おう」
れい君がなんでもできるのか、私がわかりやすすぎるのか…もしかして両方だろうか?
連写した写真はすべて削除されてしまったのは、残念だが仕方がない。
いや、本当に仕方ないことだろうか?
私は腕組みをして、首を傾げる。
そもそも先に写真を撮ったのはれい君の方だ。
「ずるい」
「はい?」
私はびしっとれい君を指さす。
「れい君は、私の写真撮ったから、私もれい君の写真が欲しい」
「…………僕の写真なんて撮っても面白くないですよ?」
「…………いやいや、それを言ったら私の写真だって面白くないでしょ」
「権兵衛さんの写真は………」
途中まで言いかけて、れい君は自分の口元を覆った。
そのまま無言の時間が続き、ある可能性に思い至る。
「……え、もしかして面白かったりするの?」
「……内緒です」
目を細めて小さく笑うれい君に、私は目を瞬かせた。
私、そんなに面白いことしただろうか。
でも、れい君がなんだか楽しそうだから、それでいいかと思ってしまう。
そう、私はれい君に甘々だからね。
ふうと息を吐いて私は、先ほどまでいた胸壁の方を見る。
拾った貝殻をそのまま放置してきてしまった。
私は貝殻を回収するために、胸壁へと足を進めた。
