大きなあなたと
あなたの名前は?
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ガンっ!バンっ!パリン!
「~~~っ!!」
鈍い音とともに、体に走る痛み。
私は、その場に蹲った。
しばらくすると、リビングの扉が開けられ、慌てた様子でれい君が入ってきた。
「権兵衛さん!大丈夫ですか!?」
「……れーくん………だいじょばない……」
「…………ぶつけたんですか?」
「………小指……痛い……」
ジンジンと痛む足の小指を手で押さえながら、上から話しかけてきたれい君を見上げる。
少し険しい顔つきになっているれい君。
心配してくれているようだけど、ちょっと呆れてもいるね?
「状況から見て、チェストに足をぶつけて、驚きと痛みで腕を大きく振ったため、チェストの上のものを叩き落としたというところですかね」
「………多分、そうかも…」
「取り合えず、少し移動しましょう。
落ちたものが散らばってますから」
「うう……はい…」
私はれい君に手を引かれ、ソファに移動した。
ソファに座ると、れい君が私の前に跪いた。
その姿が様になり過ぎていて、リアル王子様(笑)と心の中で遊んでいたら、いきなり足を触られた。
「何っ!?」
「小指、念のために診ておきましょう」
「……れい君はお医者さんだったの?」
「違いますよ」
苦笑しながら、れい君は私の足を持ち上げる。
優しく触れられて、少しくすぐったい。
真剣な顔で足の小指を触るものだから、なんだか可笑しくなってきてしまった。
「ふふ……れい君、くすぐったい……」
「大丈夫そうですね」
「まぁ、ぶつけただけだから…痛いは痛いけど、折れたりはしてないと思う」
「念のためですよ。
いろいろ散乱してましたから、ぶつけた以外にも怪我がないか確認したかったので」
「あらまぁ、心配おかけしまして……でも、よくあることだから気にしないで」
「よくある…?」
今回のような何かにぶつかってしまうこともあるし、歩いている途中で足首がぐきってなることもある。
極めつけは、身に覚えのない青痣が出来てることもある。
思いつく限りのよくある痛い経験を述べていると、れい君は腕を組んで何か考えるような仕草をした。
すっと立ち上がったれい君は、カバンの中から何かを取り出すと私の隣に腰かけた。
突如として隣に座ったれい君を見ていると、ふっと笑ったれい君が手を差し出してきた。
「……あれ、これ…」
れい君の手のひらに乗っていたのは、以前、私が渡したパワーストーン付き根付だ。
確かれい君が子どもだった時に渡したものだ。
れい君の世界では、爆弾だの事件だのと危険な出来事がたくさんあると聞いて、お守りとして持たせたものだ。
こちらに来た時にも見せてもらっていたが、ガラス玉もセットになっている。
これは私が付けたものではなかったから、れい君が後から付けたものなのだろう。
前と変わらず綺麗な青色をしている。
しかし、前に見た時と何か違うような気がする。
……じっと見つめてみるものの、一度見せてもらったキリだし、違うと感じたのは私の勘違いかもしれないと深くは考えなかった。
れい君は私の手を取り、根付を乗せてきた。
「ん?」
「これは権兵衛さんにお返しします」
「え、いいよ!
れい君にあげた奴だし…あ、まぁ、効果なくて返品ってことなら受け取るけど」
「効果は…そうですね、あったんじゃないですか?
命に関わるような怪我はしませんでしたから」
にっこりと笑うれい君。
しかし、私は心の中で思うのだった。
命に関わるような怪我なんて普通にしてたらそうそう起きやしないのでは?
しかし、効果がなくて返品というわけではないらしい。
では、何故?
「僕は十分助けてもらったので僕が……いえ、今度は権兵衛さんのことを守ってくれたらいいな、と思いまして」
「れい君が持っててくれた方が嬉しいのに」
「………じゃあ、交換にしませんか?」
「交換?」
「ええ、権兵衛さんがスマホにつけてる方と」
「これと?」
私は自分のスマホを持ち上げながら、れい君に見えるように根付を見せた。
れい君にあげた根付は魔除けの意味があるものだけど、私のは良縁とかだ。
……効果はなかったけどな!
自分に突っ込んで、少し残念な気持ちになった。
それが顔にも出ていたであろう。
不服そうな顔をしている私にれい君が苦笑する。
「こっちのは効果ないよ?」
「効果は…まぁ、どっちでもいいです。
取り合えず、権兵衛さんは大きな事件に巻き込まれるようなことはないかもしれませんが、今日みたいなことはよくあるみたいなので」
「そんなに心配しなくても」
「権兵衛さんが根付交換してくれたら、安心できそうですね」
「………そんなに言うなら仕方ないかー」
交換しないとれい君は安心できないらしい。
なんと脅されているのか?
もしかしてさっきの話のせいで私がとんでもなくおっちょこちょいってことになっているのかもしれない。
しかし、れい君が魔除けの方を私に持たせたいのなら別に持っても構わないか、とも思った。
良縁の方は、私には効果なかったかもしれないが、れい君には効果あるかもしれないし。
スマホから根付を外して、れい君の手のひらに乗せる。
「これで安心できるかな?」
「……はい、ありがとうございます」
「うんうん、良縁あると良いね~」
「……そうですね」
れい君であれば、こんなものがなくても選び放題だと思うけどなぁ、と思いながら、ちらりとれい君を見る。
れい君は、受け取った根付をしばらく眺めた後、ぎゅっと握りしめた。
そしてすごく嬉しそうな、困ったような顔をした。
………なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がする。
私は不自然にならないように視線を正面へ戻す。
そして、先ほど足をぶつけたチェスト周辺を見る。
見事な荒れっぷりに渇いた笑いが零れる。
足の痛みはだいぶ引いたため、普通に立ち上がり、散らばっているものを片付けようとする。
チェストの上に戻しながら、私は思わず声をあげた。
「あっ…!」
「権兵衛さん?大丈夫ですか?」
大きな声を出してしまったがために、れい君が心配そうな声をあげた。
また怪我でもしたのかと思われたのだろうか。
れい君ったら心配性だな。
取り合えず怪我をしたわけではないが、私的にショックな出来事が起きたのだ。
しゃがみ込んだまま、れい君を振り返り、私が声をあげる原因となったものを見せる。
「貝殻割れちゃった」
「前作った奴ですね」
「うん…あー…これ、薄い貝殻だったから落ちた衝撃で割れちゃったのかな…」
れい君が子どもの時に作った貝殻のフォトフレームだ。
れい君と一緒に取った写真をいれている。
写真はもちろん無事だったが、フレームの付けた貝殻がいくつか割れていた。
取れただけならまたつければいいが…これだけ割れてしまうと直す方が大変だ。
れい君と一緒に作ったものだから、気に入っていたのについてないなぁ…思わずため息が零れる。
「あーあ……気に入ってたのに……」
せっかく子どものれい君と一緒に作ったものだったのに、こんな形でダメにしてしまうとは…。
しかし、貝殻が割れてしまっただけでフレーム自体が壊れたわけではない。
じっとフレームを見つめながら、考える。
壊れてしまった貝殻の部分に別の物でもつけようか。
そんなことを考えていると、れい君から声がかかった。
「権兵衛さん」
「ん?」
「明日、海に行きませんか?」
「……ん?」
れい君は私が持っていたフレームの貝殻が壊れた部分を指さしながら言葉を続ける。
「もう一度、貝殻拾いに行きませんか?」
にこりと笑みを浮かべながら、れい君は優しい声でそう言った。
その言葉に、私の心臓はきゅんと音を立てるのだ。
つまりは、もう一回貝殻探しに行って作り直そうってことだよね?
れい君の優しさがとても嬉しい。
「…れい君……」
「幸いにも明日の天気は晴れですし……まぁ、無理にとは言いませんが」
「……ううん、無理じゃない!
行こう!海!貝殻の旅へ…!」
私が明後日の方向を指さしながら高らかに宣言した。
そうと決まれば、海に行く準備を今日のうちに済ませておかなければなるまい。
私とれい君は、散らばったものを片付けながら、明日の打ち合わせをするのだった。