大きなあなたと
あなたの名前は?
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私はキッチンへと足を運ぶ。
れい君が帰ってきたし、そろそろお昼になる。
今日のお昼はオムライスとスープとサラダです。
仕上げに半熟卵を乗せましょー!おー!
何も考えないように無心で卵と向かい合えば、結構、いい感じに作り上げることが出来た。
綺麗に盛り付けが出来た所で、仕上げにケチャップをかけることにした。
せっかくだから、ケチャップで何か絵を描こうかな。
この間のお弁当のタコさんウインナーのリベンジといこうじゃないか。
定番のにこにこ顔でも描こうかしら…それとも、もっと可愛くうさぎとか…。
よし、可愛くうさぎにしよう!!
私が意気込んでケチャップの蓋に手をかけると、するりと上からケチャップごと抜き取られた。
「!?」
ケチャップ何処行った!?
ぎょっとしてケチャップが抜き取られた方を見れば、いつの間にか私の後ろに立っていたれい君が、ケチャップを持っているではないか。
い、いつの間に…!?
相変わらずこの男は忍んでる…やっぱり忍者か…?
そんなことを考える私はだいぶ落ち着いていると思う。
料理を作り始める前は、漫画を読むれい君の様子が気になり過ぎて、どうにかなりそうだった。
しかし、今はれい君の顔を見ても動悸もしない。
まぁ、れい君がいつも通りだからなのだけれども……というか、なんでケチャップ持っていくの…!
れい君の顔とケチャップを交互にみていると、れい君はにっこりと綺麗な笑みを私に向けた。
「仕上げは僕がしてもいいですか?」
れい君の言葉を聞いて、ハッとする。
そして、れい君にぐっと親指を立てて見せる。
きっとれい君は……オムライスにお絵かきしたいタイプなんだ…!
そうだよね、描いてもらうのもいいけど、自分で描くのも楽しいもんね。
れい君が何を描くのか楽しみだなぁ。
そんなことを思いながられい君の様子を見ていると、れい君はケチャップを冷蔵庫にしまった。
ん?
「え、ケチャップは?」
思わず心の声が漏れていたが、れい君はそんな私を見てくすっと笑う。
まさかとは思うが、ケチャップかけない派ですか?
そんなことを考えていたら、れい君はレンジから何か取り出した。
動揺しすぎて気付いていなかったが、私が無心で卵を焼く前から入れていたようだ。
まさか…!
「デミグラスソース!」
「正解です、よくわかりましたね」
「お店みたい…!」
「そんな本格的なものじゃないですけどね」
確かに今日のオムライスの卵は半熟にしてたからケチャップで絵を描くよりもソース系をかけた方がよいと思う。
いつの間に用意してたんだろうか。
まぁ、途中までは作ってたから、れい君が帰ってきた時点でメニューはわかっただろうから作ってくれたのか。
なんだ?れい君はどこかのシェフかなんかか?
とろりとしたソースが半熟の卵の上に掛けられた。
「おおー…」
「……はい、できました」
「すごーい!」
私はデミグラスソースのかかったオムライスのお皿を掲げ、嬉々として見つめた。
お家でデミグラスソースなんて作ろうと思ったこともなかった!
オムライスは自分で作ったものだが、ちょっと特別感が出て嬉しい。
テンションあがるー…!
「……ふはっ……!」
声のした方に勢いよく振り返れば、れい君が口元を手で押さえながら、斜め下の床を見つめている。
肩が揺れているのを見れば、噴き出したのは明らかだ。
………ちょっとはしゃぎ過ぎたかも…。
れい君が笑いをこらえようとしているのを見たら、一気に恥ずかしさが込み上げてきた。
私は恥ずかしさを隠すために、急ぎ足でオムライスをテーブルへと運んだ。
全て運び終えて、私は一足先に定位置に座る。
しかし、れい君はいつまでたっても現れない。
キッチンの方をじっと見ていると、れい君が胸の辺りをさすりながら出てきた。
まさかとは思うが、今の今まで笑ってたんじゃなかろうな。
思わずジト目になってしまったが、これ以上、れい君の笑いのツボを刺激するわけにはいかない。
れい君が座ったのを見て、挨拶をする。
「「いただきます」」
まず最初に半熟卵にデミグラスソースがかけられたオムライスに一口食べる。
れい君は本格的じゃないって言っていたけれど、想像以上に美味しくて吃驚した。
「んー………おいひい……」
思わず感想が口から零れ出てしまった。
一心不乱に食べていると、ふっと視線を感じ顔をあげる。
するとまるで微笑ましい光景を見ているかのように目を細めて笑みを浮かべるれい君を目があった。
……そんなに見つめられたら穴が開いてしまいますよ。
視線に耐えられなかった私は、れい君に声をかけた。
「何か変?」
「はい?」
「だから……穴が開きそうなほど見てくるから何か変なところあったかなって」
「ああ……相変わらず美味しそうに食べるな、と思っただけですよ」
「そりゃ、れい君に作ったデミグラスソース、美味しいもん」
「はは、それはありがとうございます」
実際に美味しいから、そう見えても仕方がないとは思う。
しかし、だ。
いまだに私を見続けてくるのはどういうことなのだろう?
それになんだか、少しだけ、寂しそうに見えるのは私の気のせいだろうか。
小さな違和感を抱えたまま、オムライスは私の胃袋へと消えていった。