大きなあなたと
あなたの名前は?
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身支度を整えながら、私の頭の中は寝ている間にれい君に何をしてしまったのかを必死に考えていた。
しかし、寝ていたため、どう思い出そうとしても思い出せるわけがない。
それと同時に昨日のれい君のことを思い出してみる。
私はたぶん酔っぱらっていたと思うが、れい君は酔っていたんだろうか?
酔っていたからやたらベタベタ引っ付いてきたり、キスしたりしたんだろうか?
れい君は酔ったらスキンシップ多めな甘えん坊になるのかな…それとも本当にプレイボーイ…?
コナンの世界とこの世界の常識はあまり違わないと思っている。
でも、それは、れい君が本当に降谷零だった場合の話だ。
もし、そうではない世界からきた人だった場合……もしかしたらキスしたり、抱きしめたりっていうのは、私の思っているものと意味が違ってくるのかもしれない。
れい君がいた世界の常識では、私が思うような破廉恥なあれじゃないかもしれない。
夢の中で萩原さんたちと話した時に言った、本物でも偽物でもどちらでも構わないという言葉に偽りはない。
それによって私が今更態度を変えることはないだろう。
ただ、お互いの常識にズレがあったとしたら…それは、少し気を付けた方がいいのではないかと思う。
れい君はあまりそういうことを言ってこないから、もしかしたら気を使わせて我慢させてしまっていることがあるかもしれない。
やっぱり、確かめる必要がある!
常識が違うとかだったら私もいろいろ考えないと!
キスぐらいで破廉恥だって騒いでたら失礼かもしれない。
でも、もし本物で、常識、貞操観念も相違ないのであれば………。
鏡の前でキリっと決意を決めた自分の顔を見つめる。
大丈夫、もう酔いはさめた。
いざ、戦場へ…!
自室から出ると、れい君が朝食の準備をしてくれていた。
そんなれい君がいるキッチンへと歩み寄り、戸棚からお盆を取り出す。
「れい君、ありがとう。運ぶね」
「ありがとうございます、お味噌汁、熱いから気を付けてくださいね」
「はーい」
私がお味噌汁の入ったお椀と、れい君が昨日の残りで作ってくれたおかずのお皿を運ぶ。
すでにテーブルには、私が昨日れい君に作るように頼んだおにぎりたちが鎮座していた。
昨日、酔っぱらいながらも、2個は食べた記憶がある。
昨日は気付かなかったが………結構、量あるな。
いくつ作ってほしいのかは言わなかったが、私はこんなに食べると思われたんだろうか?
いや、おにぎり好きだけどさ。
複雑な気持ちになっていると、れい君が不思議そうな顔をして顔を覗き込んできた。
「どうかしましたか、権兵衛さん」
「……いや、なんでもないよ」
「ならいいんですが……ああ、それとこれも」
「ん?海苔?」
「おにぎりに」
パリパリの海苔を用意してくれたれい君。
やっぱり気が利くね…!
準備が整ったところで、それぞれ定位置に座る。
お互いにぱちんと手を合わせて、挨拶をする。
「「いただきます」」
れい君が作ってくれたお味噌汁を一口飲む。
程よい温かさに加え、優しい味でほわんと心も口元も緩む。
なんて贅沢な朝食なんだろうか…ああ、れい君が帰っちゃったら、自分の料理で満足できなくなっちゃいそうだ。
「……………ふっ」
「…ん?何か言った?」
「いえ、なんでもありませんよ」
なんでもないと言いつつも、なんとなく機嫌がよさそうなれい君に疑問符が浮かぶが、おにぎりがおいしくて手が止まらない。
気分的には、おにぎりでフードファイトしてる気分。
もぐもぐ食べていたら、ふっと視線を感じ、視線をおにぎりかられい君へと移す。
いつから見ていたのかわからないが、れい君はこっちを見ているようだ。
なんだ?そんなに見られるようなことは……はっ!
私はあわてて口元を手で触る。
しかし、何も米粒がついているわけではなさそうだ。
私の行動を見ていたれい君もきょとんとした顔をしたが、少しすると何か納得したように笑った。
「すみません、視線気になりましたか?」
「米粒ついてたわけじゃなさそうだけど」
「ええ、権兵衛さんの一口が小さいな、って思っただけですよ」
「………そう?」
あまり人の一口と自分の一口を比べたことないから実感がわかない。
でも、まぁ、確かに男の人の一口と比べたら小さいことは確かもしれない。
おにぎり一つを食べ終わった私は、ぺろっと手についた塩を舐める。
そして、れい君に確かめようと思っていたことを思い出した。
「そういえば、昨日、れい君は酔ってた?」
「酔ってはないですけど…」
「私は酔ってたけどさ、質問の答え、もらってなかったなって思って」
「………というと」
「れい君は、降谷零なのかっていう質問」
にっこりと笑みを作ったれい君。
その顔好きだけど、質問はやめないぞ。
しばし、二人の間に沈黙の時間があったが、先に口を開いたのはれい君だった。
「ちなみに……権兵衛さんは昨日のこと、どこまで覚えてます?」
「えーっと最後まで」
「最後、とは?」
「んっと……クッション抱えて床を転がったところまで全部」
至極真面目な顔でそこまでつらつらと言ってのけると、れい君は頭を抱え始めた。
「……ほぼ全部ですね…」
「うん」
はぁ、とため息を吐いたれい君だったが、とても気まずい顔をしている。
昨日の件に関して何かを責めることはない。
とはいえ、れい君は気にしているかもしれないと思うと、さっきまで意気込んでいた心に急ブレーキがかかってしまう。
相変わらず、私はれい君に甘い。
「えっと、本物でもそうじゃなくても別に、れい君はれい君だからどっちでもいいし…私の態度が変わることはないと思うのよね。
あー…まぁ、言いたくないのなら、別に言わなくてもいいし……ただ、少し確かめたいことがあって…」
「確かめたいこと…僕が降谷零か否か以外にですか?」
「まぁ、そうね……むしろ、こっちの方が大事かも…」
「……何を確かめたいんです?」
眉間に皺を寄せながら、私が何を確認したいのか全く分からないという顔をしている。
私はびしっと背筋を伸ばし、れい君の顔をじっと見つめる。
「ズバリ……私たちの常識は同じなのかということです」
「どういう…」
「れい君が降谷零だったとしたら、この世界とそっちの世界の常識ってあまり変わらないと思うのよね。
日常生活をしていく中で、れい君がそういうところで戸惑う姿もなかったし…対して変わらないと思うんだけど…」
「けど?」
「酔ってないのにやたらキスしたり抱きしめたり、同じベッドで一晩あかしたり……まぁ、大抵の場合は相手のことが好きだからすることなんじゃないかなーって思うんだけど」
「…………………」
「でも、れい君が別の世界の人で、貞操観念についてはこの世界とは違う価値観だったとしたら…なんか…破廉恥とか言って申し訳なかったな…って思って」
先ほどまで眉間に皺を寄せていたれい君は、目を点にしていた。
しかし、しばらくすると困ったように眉を下げ、頬を掻きながらぽつりとこぼした。
「……権兵衛さんのいうところと相違はないですよ…」
「……ということは……!」
私はれい君の言葉を聞いて、ぱっと両手で自分の口を押える。
そんな私から目を逸らしたれい君は、片手で自分の口元を押さえている。
れい君の耳が赤くなっている。
これで、はっきりした。
れい君は……。
「……権兵衛さん…実は僕…あ「れい君はやっぱりプレイボーイだったってことね!?」…………は?」
私はテーブルにバンっと手をつき、れい君の方に身を乗り出しながら叫んだ。
れい君は、私が突然叫んで身を乗り出したせいで、体をのけぞらせた。
れい君は相当なプレイボーイだったんだな…!
だからあんなに女子をメロメロにさせるのが上手いわけだ、自分の魅力を十分生かした戦略を…もしかしたら天性のタラシ!?
私に対しては普通に振舞っているのも、一応、私は命の恩人ということもあって遠慮してるに違いない。
そうだよな、私の機嫌を損ねたら衣食住が困る…っていうか、そもそも私が好みじゃないから手を出さなかっただけかもしれないな。
うん、だって私、可愛いわけでも美人なわけでもないし!
モテモテとは全く無縁の人生送ってきてる、一般女子だもんね!
それにあくまでれい君の母、もしくは姉だもんね!
そうそう、昨日は私も酔っぱらっちゃって母、もしくは姉としてのふるまいを忘れてたからね!
謎が解けてすっきりした私は、残りのお味噌汁を一気に飲み干した。
ぽかんとしているれい君を前に、空いたお皿を片付けるべく立ち上がる。
そんな私に気付いたれい君が、慌てた様子で私の手を掴んだ。
「権兵衛さん!ちょっと待ってください、僕がなんでプレイボーイなんですか…!」
「え、だってあんなナチュラルにキスしたりハグしたりしてたのに?」
「………誰でもいいわけじゃないですよ…」
「……それって………」
真剣な顔でれい君に見つめられ、心臓がドキリとする。
ふっ……顔が良い息子を持つと母は大変だわ。
それにしてもプレイボーイの自覚がないということは……照れ屋で可愛いれい君は、やはり天然のタラシだということか……なんと罪深い…。
あ、もしくは酔っぱらった私は自分が思っているよりも、可愛かったとか?
酔った自分を客観的に見ることはできないけど、覚えている限りでは確かにちょっと……積極的だったとは思う。
「つまり……酔っぱらった私は、思わず手を出したくなっちゃうほどかわいかったってことね…!」
「え?」
「OK、分かった。
今度からはお酒の席では、男に気を付けるようにするね~」
「…………そういうことじゃ……」
「え、じゃあ、気を付けなくていい?」
「いえ、気を付けてください」
「はーい」
れい君は何か言いたげに私を見ていたが、しばらくすると諦めたようでため息を吐いて、私の手を離した。
私は、そのまま空いたお皿をキッチンへと運ぶ。
しばらくすると、少し不機嫌そうなれい君が自分の食器を持ってキッチンへやってきた。
そんなれい君からお皿を受け取って、洗い物をする。
結局、どうして一緒に寝ていたのかとか無意識状態に私が何をしてしまったのかはわからないままだが、深堀しない方がいいだろう。
れい君の様子からするときっと大したことじゃないと思う。
私が妄想するようなことが現実に起きていたら、きっとちゃんと顔合わせられない気がするし、体にも異変があるはずだ。
いや、何をしたか、よりも…れい君の気持ちを聞いてしまうことの方が後戻りできなくなる。
ここは無だ……そう、悟りを開くのよ…。
水の音を聞きながら、私は心を無にすることにした。
そして、自分に暗示をかける。
次に目を開けた時には、いつも通りに振舞うのだ、と。
私はれい君の母、だと。
しばらくするとジャージに着替えたれい君は、走ってくると言って家を出た。
そんなれい君を玄関先で笑顔で見送った。
扉が閉まると同時に、ため息が漏れる。
私はあくまで魔法使い。
彼は王子様。
身分違いどころか、世界違いの………余計なことは考えてはいけない。
私の役割は、彼が元の世界に帰れるように協力すること。
それだけ。
それ以外の感情は、いらない。