大きなあなたと
あなたの名前は?
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鳥の鳴き声を聞いて目を覚ましてみると、そこには見慣れた壁が見えた。
毎日見ている光景、つまりここは私の部屋である。
カーテンの隙間からは陽の光が差し込んでいる。
どうやらもう朝になっているらしい。
この時期の朝はまだまだ冷える。
だからと言って暖房を入れておくほどでもないとも思う。
二度寝してもいいかな…なんてことを頭の端で考えながら、瞼は再び落ちた。
ちょっと寒いな、なんて思いながら毛布を手繰り寄せると、ベッドの壁とは逆側がなんとなく温かい。
何故温かいのかなんてことは寝ぼけた頭では考える暇もなく、温かさを求めて、そっちにすり寄る。
こっちに壁はないはずだが、何か温かいものにぶつかった。
温かな何かになるべく密着するように体を寄せる。
…湯たんぽ入りの抱き枕なんて家にあったかな、しかもいい匂い付きの奴…そんなことを思いながら、私は片足でその抱き枕の下の方をなぞる。
ただ単にどれだけ大きな抱き枕だったのかを確かめる為だったが、結構、大きくて端までは足が辿り着かなかった。
それどころか、抱き枕、動いた。
いや、動いたというか、もしかしたらベッドの端に追いやられて落ちそうなのでは?
そんなことを寝ぼけた頭で考えた私は、ベッドから抱き枕が落ちないように抱き枕に足を引っかけ引き寄せた。
引っ掛けた足でそのまま抱き枕を引き寄せようとしたが、うんともすんとも動かない。
ここで違和感に気付いた。
抱き枕にしては……硬くない?
一気に意識が覚醒した私は、そのまま固まるしかなかった。
寝起きとは思えないほど、目まぐるしく頭の中ではいろいろなことが駆け巡っている。
昨日、れい君とお酒を飲んで酔っ払ったことは覚えているが、自分で部屋に戻った記憶はない。
れい君の欲求不満も夢の中のやり取りもすべて覚えているが、クッションに顔を突っ込んで叫んでからの記憶がない。
自分で部屋に戻ったとは思えない。
となると、私を部屋に運んだのはれい君しかいないだろう。
私が夢遊病とかで勝手に歩いたりしていなければ。
そこまでは理解できる。
優しいれい君のことだ、酔った私を介抱してくれたのだと思う。
しかし、だ。
ベッドに運んでくれるまではわかるが、なんで同じベッドにいるのでしょうか。
もしかしてもしかして……私はそーっと目を開ける。
目の前は白。
見間違えでなければ………れい君が昨日夜着てた服ですね。
わぁ、私ったられい君の胸に擦り寄っちゃった。
寝ぼけてたとしても恥ずかしすぎる。
でも、少しホッとした。
私はもちろん、れい君もちゃんと服を着ていた。
……いや、まだ安心はできない。
自分からオオカミ宣言をした男だぞ?
寝ている間にあんなことやこんなことを……もし、そうだったとしたら……覚えてないのが悔やまれる…!
……いやいや、れい君はそんなことはしない。
正義感の強い真面目で優しいれい君は、そんなことしない。
どこぞのAVのような…おっと、脳裏に笑顔のひろ君が。
ハイ、スミマセン。
ふっと息を吐いて、そろりそろりと上を見上げると…れい君と目があった。
れい君は目を細めると、くすりと小さく笑った。
「お……おはようございます…」
「………おはようございます、権兵衛さん」
「……足癖が悪くてごめんなさ……ぎゃっ!」
引っ掛けた足をそろりそろりと外そうとした途端、れい君が動いてベッドが軋む。
それと同時に軽く体を押され、仰向けに転がされた。
ところが私の視線の先にあるのは天井ではなく、にっこにこ笑顔のれい君だ。
何故こうなった?と頭に疑問符が浮かんでいる私を見て、れい君は再び目を細めた。
「あんな風に足を撫でるものだから……朝から誘われてるのかと思いましたよ?」
「ひえ………」
やたらとセクシーなれい君に、どうしようかと考える。
あ、これはバーボンかな?ハニトラかな?
爽やかな朝に似つかわしくないセクシーな展開である。
ひろ君に言いつけてお説教してもらいたいよ、と思っていたら、れい君がとんでもないことを言い出した。
「まだ足りなかったんですか?」
「…ん?」
「一晩中、僕のことを離さなかったんですよ」
「……!?」
れい君が形のいい眉をぎゅっと寄せ、私から視線を反らした。
私は、雷に打たれたような衝撃を受けた。
……え……ちょっと待って…!
まさかの…そっちパターン!?
覚えてないけど、私の方が破廉恥だったってパターン!?
れい君のその言い方だと、私が襲ったってこと…!?
………ああー!!どっちにしても、覚えてないのは悔やまれる!!
れい君の恥ずかしがる顔や善がる顔を見逃したなんて……いやいや、それよりも、記憶ない私がどんなことをれい君にしてしまったのか…!?
離さなかったって…どこをどう……。
思いつく限りの破廉恥なことと、涙目で恥ずかしがるれい君(妄想)が頭の中をぐるぐる回っている。
もはやれい君の顔は見れなくて、両手で顔を覆った。
しかし、記憶ないものは仕方がない。
れい君に聞くしかあるまい。
指の間かられい君の顔をじっと見つめる。
「状況報告求む」
「……そんな顔されるとちょっと……」
「どんな顔をしていると?」
「目が爛々としてますよ…」
「……げふん」
呆れたようにため息を吐いたれい君。
ぎしっとベッドが軋むと同時にれい君が体を起こしたことで、私の視界には再び天井が戻ってきた。
「何を想像したのかは聞きませんが…」
「え、むしろ聞いてほしいんですけど」
「遠慮します」
きっぱりと私の妄想話は拒絶された。
いや、あんな顔するれい君が悪いんだからね?
もぞもぞと私も体を起こし、正座をしてれい君の方を向く。
「………れい君の純情を弄んでしまったのなら責任取ろうかと」
「別に純情でもないですし…」
「はっ………自らプレイボーイ発言……!?」
「プレイボーイって……権兵衛さん、僕のことそんな風に思ってたんですか」
れい君が、ジト目で私を見てきた。
おっと、思わず心の声が出てしまっていた。
ムスッと不満げな顔をするれい君。
流石にこれは私が悪いと思う。
しかし、不満げな顔をしているれい君のなんと可愛いことか!!
これは本当に降谷零なのか?
やっぱり違うかもしれない!
私の知る降谷さんはこんな顔しないもんな、私の妄想の中ではしてるけど。
私が可愛いれい君の顔をガン見しながらそんなことを考えていると、れい君はふと真面目な顔でぽつりとこぼした。
「……………ああ、でも、弄ばれたと言えば弄ばれたかもしれませんね」
「え………話を戻す?」
「なので責任取ってください」
「う、お……え、れい君?」
にっこりと笑ったれい君に両肩をがしっと掴まれた。
不穏な空気に思わず仰け反ろうとするものの、肩を掴まれているせいで体がびくとも動かない。
くっ…そうだった、私がれい君に力で勝てるはずがなかった!
この状態で何をするつもりなのかと、れい君を見ていると、徐々に顔の距離が近付いてきた。
何する……はっ、このままいったら…キス!?マジか!?マジでプレイボーイ!?
あらま、どうしましょ…と思っていたが、徐々に近づいてくるれい君から私は視線を逸らすことが出来ず、れい君の顔をガン見した。
私の視界いっぱいにれい君の整った顔。
これが現実とは思えなくて、私はまだ夢でも見ているのではないかと思う。
近くで見てもやっぱりイケメンだなぁ、と思っていると、ピタリとれい君が止まった。
不思議に思って目をぱちぱちさせていると、はぁっとため息を吐いたれい君が、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。
「どういう状況かわかってます……?」
「綺麗なお顔を堪能しようと思いまして」
「はぁ……ま、分かってましたけど……」
「れい君?」
私を解放したれい君は、額を手で押さえている。
なんだ、二日酔いか?
「もしかして二日酔い?」
「……………わざとやってます?」
「いたって真面目にきいて、ぎゃんっ!」
「そういうことにしときます」
キリっといい顔で返事をしたら、こつんっとおでこに握りこぶしを当てられた。
軽く小突かれただけだから全然痛くないんだけど、反射的に叫んでしまった。
そんな私に苦笑しながら、れい君は立ち上がった。
「とりあえず、朝食にしましょうか」
「え」
「まぁ、昨日のおにぎりの残りがありますし、みそ汁もすぐに用意はできますからね」
本当に気の利く子だな。
はーい、と手をあげて返事をする私を見ながら、れい君は部屋を出た。
そんなれい君を見送りながら、はっとする。
結局、昨日の夜、私はれい君に何をしたんだ…。
取り合えず、れい君は怒っているわけでもショックを受けているわけでもなさそうだから、大したことはしていないと思う。
多分…というか、そうであってほしい。
そう思いながら、身支度をする私であった。