大きなあなたと
あなたの名前は?
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目が覚めるとそこは真っ白な世界だった。
上も下も右も左もわからない。
わからないから自分で決めてしまえばいいんだけれど、どうにも頭がふわふわしていて方向が定まらない。
「あー…どっちが上ー?」
「こっちだよ、権兵衛ちゃん」
「あ?」
名前を呼ばれた方に顔を上げると、萩原さんが苦笑しながら私を見ていた。
萩原さんの位置から察するに、私はどうやら寝転がっているらしい。
「ほら、手、貸すよ」
「ありがとー」
手を伸ばすと萩原さんが引っ張ってくれて、私は立ち上がることが出来た。
そんな私を見て萩原さんが再び小さく笑う。
「権兵衛ちゃんって酔うとこんな感じになるんだなぁ」
「ああ、そっか…私、酔ってるのかー」
「まだぼんやりしてる?」
「んー……」
萩原さんの話を聞いて、そういえばお酒を飲んでいたことを思い出す。
あれ、夢の中でも酔っぱらったままなの?
そういえば……お酒飲んで……。
「……………ああっ!!」
「ど、どうしたのさ、急に…」
「私……ねぇ、萩原さん、松田さんと諸伏さんと伊達さんもいる?」
「呼んだか」
「ええっと、班長はちょっと今いないけど…」
「いた!
松田さんともろふひ…かんだ……」
名前を呼ぶと、松田さんと諸伏さんが突如として現れた。
相変わらず都合のいい夢だな、と思っていたが、酔っているせいなのか私は夢の中でも諸伏さんの名前を噛んだ。
ぐぬぬ…と苦悶の表情を作っていると、松田さんが何故か不機嫌そうな声をあげた。
「めんどくせーから、権兵衛の好きなように呼べよ。
ほら、さっきゼロと話してた時みたいに名前で呼んでいいぞ」
「え、なんで知ってるの、じんぺーくん」
「切り替えはえーな…」
「え、じんぺーちゃん、そりゃないっしょ!
だったら俺も名前で呼んでよ、権兵衛ちゃん」
「うん、けんじくん」
「はは、一番言いにくいのは俺の苗字みたいだから、俺も名前でいいよ」
「ありがとう、ひろくん」
「じゃあ、俺も権兵衛ちゃんって呼ばせてもらおうかな。
ゼロが聞いたら妬いちゃいそうだけどね」
何故か名前で呼ぶことになったが、私としてはそっちの方が呼びやすいと思っていたので願ったり叶ったりだった。
いや、私の夢の中なのだから当然か。
そもそも私の夢の中なんだからお互いに許可いらないのでは?
…真面目だからな、私。
きっと夢の中でも真面目なんだよ。
それよりも、だ。
「それよりも…たのもう!」
「道場破りかよ」
「れい君が……れい君の……」
「ゼロがどうしたの?」
じんぺー君の突っ込みを華麗にスルーした私は、わなわなしながら、かっと目を見開いて、力強く叫んだ。
「欲求不満の解消法を教えてほしい!」
「「「…………………」」」
3人は無言で顔を見合わせている。
これは、あれだ。
明らかに「お前が言えよ」「いや、お前だろ?」的なことが、彼らの目線で繰り広げられているのだろう。
やっぱり私の夢の中とは言え、言いにくいことだろうか。
いや、そもそも私の夢の中なのだから私の知ってることしか出てこないはず…。
とはいえ、めちゃくちゃハードな答えが返ってきたらどうする?
やだ、私ったら破廉恥。
「あ、もちろん、性的な欲求不満の方で…」
「あー…権兵衛ちゃん?
そんなに詳しく言わなくてもさっきのゼロとの様子見てたら察するっていうか、わかるから」
「じゃあ、教えて」
「………えーっと……」
再び顔を見合わせている3人。
やっぱり言いにくいことらしい。
困ったように頬を掻きながらひろ君が逆質問してきた。
「えーっと、権兵衛ちゃんは、どうしてゼロが欲求不満だと思うの?」
「ひろくん、知らないの?」
「何をかな?」
「キスする場所って意味があるんだよ?」
そういうと、3人は「おっ」と何か驚いた顔をした。
一体、何を驚いているのかわからないが、私は話を続けることにした。
どうせ私の夢なんだから、言いたいこと言ってすっきりした方がいいよね。
「手のキスとかは意味知らないけど、耳はあれだよ…!
誘惑だよ…えっちな!
破廉恥!破廉恥極まりない!」
「ええっと…権兵衛ちゃんは耳にキスされたのが嫌だったの?」
「………………」
ひろ君が変な質問してきた。
キスされたのが嫌だったかなんて、答えは決まってるじゃないか。
「嫌なわけないだろ、良さそうな声上げてたし。
なぁ、権兵衛?」
「んなっ………」
私が返事をする前にじんぺー君がにやにやしながら返事をした。
なんでそんなことを言うんだ、と思うのと同時に、れい君との戯れをみんなが見ていたということに一気に恥ずかしさが込み上げてきた。
私の夢なんだからわかるとは思うけど、改めて言われると恥ずかしいこと極まりない。
だって、自分でもやらしい声出た自覚がある。
「……だって、耳弱いし…あんなの耐えられない!」
「逆切れすんなよ」
「違う!私のことはどうでもいいの!
今は私の話じゃなくて、れい君の欲求不満をどうやって解消したらいいのかを教えて!」
そりゃあ、れい君にあんなことされたら、ちょっとその先まで想像しちゃいますよ。
プレイボーイなれい君に、あんなことやこんなことや…きっとぐずぐずにされてしまう…!
私が悶々と破廉恥な妄想していると、けんじ君から声が上がった。
「ってか、ゼロが欲求不満だったとしても、権兵衛ちゃんがなんかしなくちゃなんねーことはないんじゃね?」
「ん?」
「権兵衛ちゃんが欲求不満解消に付き合うっていうんならいいけどさ、そうじゃないんなら自分で何とかするでしょ」
「………確かに」
ひどく納得した私を見て3人が苦笑している。
「そうだね…私、ちょっと慌ててしまったようだ…。
ご迷惑をおかけしました…」
「まぁ、権兵衛ちゃん、酔ってるみたいだし…ゼロも悪かったかなって思うよ」
「お酒のせいってことね」
「まぁ、そういうことにしといてやれよ」
みんなの言葉にすごく納得した私は、ふっと自分の言動を振り返り遠い場所へ行きたい気持ちになった。
穴があったら入りたい。
「そうだよね…母や姉が息子や弟の性欲処理付き合うなんてAVでの設定くらいしかないよねー」
「権兵衛ちゃん、いくらここが夢の中でも発言には気をつけようね?」
「ハイ」
にっこりと笑うひろ君に怒られました。
そうですね、酔っていても慎みを持ちます。
ひろ君がれい君以上にママです。
話題を変えましょう。
「そういえば、班長は何でいないの?」
「彼女んとこ行ってる」
「はっ…!」
「権兵衛ちゃんが名前出してたから様子見に行ってるよ」
「なるほど…さすが班長!男前!」
「なんでそうなんだよ」
やっぱり二人には幸せになっていただきたい!
きゃはー!とぴょこぴょこ飛び跳ねていると、服の襟首をじんぺー君に掴まれた。
ぐえって可愛くない声が出た。
私は蛙か?
「あんま暴れんじゃねーよ、気分悪くなってもしらねぇぞ」
「どうやら心配されているようだ」
「松田の言う通りだよ、少し落ち着こうね、権兵衛ちゃん」
「確かにいい年の大人がする行動ではありませんでした」
「とりあえず、権兵衛ちゃんの疑問は解決ってことでOK?」
「ハイ、皆々様、まことにありがとうございました」
襟首を離してもらい、深々とお辞儀をして、ふっとれい君とのやり取りを思い出す。
もしれい君が本物の降谷零でだったら、ここにいるみんなも本物なのではないだろうか、と。
私はじっと三人を見つめる。
「みんなは本物?」
3人がきょとんとしながら私を見た。
……どうやら頭で考えていたことが口から飛び出してしまっていたらしい。げふん。
酔っ払いはこれだから困るな!
「どうした、急に」
「いや……れい君はもしかしたら…というかだいぶ高い確率で本物の降谷零なのではないかと、私は思ってるんだよね。
で、そうなると、ここにいるみんなも本物なんじゃないかって思って。
降谷さんに似たれい君に刺激されて、けんじ君たちの夢見たのかなって思ってたけど……」
今までの言動から、何も関係のないただのそっくりさんだとは思えない。
三人はどっちともつかない顔をしている。
表情からはどっちなのか読み取ることが出来ない。
そもそも私にそんな能力はなかったわ。
「権兵衛ちゃんはどっちだと思う?」
「ん?」
「俺たちのこと、本物だと思ってるのか、ただの夢だと思ってるのか」
ひろ君に尋ねられて、うーんと考えてみる。
どっちかわからないから聞いてるのに。
結局、れい君からも確実な証言は得られなかった。
同じようなことを聞かれている。
唸りながら三人を見ていると、じんぺー君は興味なさそうに欠伸をした。
「別にどっちでもいいじゃねーか」
「じんぺーくん?」
「権兵衛の好きな方にしとけばいいんじゃね?」
「そーそー、権兵衛ちゃんの好きなように考えとけばいいって!」
「うーん…」
本物か偽物かなんて大したことじゃないってことなのかな。
うん、そうかも、大したことじゃないかも。
こうやって話してたら、ちゃんと会話のキャッチボールが出来てればいいか。
それに、きっと、いくら尋ねたところでれい君もけんじ君たちも答えてくれないのだろう。
なんとなくそんな気がした。
「じゃあ、本物ってことにしておくよ」
「ゼロのことも?」
「うん」
「そりゃまたなんでそうなったの」
「これが私の夢でみんなが私の想像だったとしたら……」
私はふっと小さく笑う。
もしこれが本当に私のただの夢だったとしたら、私の希望はすべて叶うはずだもの。
「私の夢だったら、この場にれい君も登場させてるもん。
でも、ここでれい君には一回も会えてないんだよね。
だから、ただの夢じゃないってことにしておくんだー」
「なんだかゼロのことすごく大切にしてくれてるんだね」
「そりゃあね、好きな人だから」
ひろ君の言葉に、ふふんっと得意げな顔をして見せる。
しかし、返ってきた彼らの反応は私が思っていたものと随分違っていた。
ひろ君は目をぱちぱちさせているし、じんぺー君はお化けでも見たみたいな顔しているし、けんじ君はにこにこしながら首を傾げている。
え、私、変なこと言ったか?
三人の様子に私が首を傾げていると、三人は私から少し離れたところに集まり、しゃがみこんでこそこそ何やら話し始めた。
「今のち権兵衛ゃんの発言どういう意味だと思う?」
「俺はてっきりまた降谷ちゃんの母親宣言でもするのかと思ってたからさー、ちょーっと驚いちまったねぇ」
「でも、わかんねぇぞ、母として好きってやつかもしれねぇぜ?」
「まぁ、それもなくはないけど……だとしたらさっきの台詞は『母だから』って言う方が今までの権兵衛ちゃんっぽい気がするよ」
「ってか、もし母としての好きじゃなかったら……降谷ちゃん、報われるってこと?」
「でもあのドヤ顔でいう感じはそういう好きじゃなさそうだぜ?」
……全部聞こえてますがな。
はぁっとわかりやすくため息を吐いて見せると、三人は私の方を見て愛想笑いをしてきた。
今更取り繕えるとでも?
まぁ、私の今までの言動からすると三人の行動はわからなくもない。
でも、取り乱しすぎだ。
私はしゃがみこんでいる三人の目の前に立つと、それぞれの頭をよしよしと撫でてみる。
三人ともぽかんとした顔でこちらを見てきた。
そんな三人に、にっと私は笑みを作って見せる。
「もちろん、けんじ君もじんぺー君もひろ君のことも好きだからね!」
「え、ゼロもそれと一緒の括り?」
「みんなよく頑張りました、れい君のことはお姉さんに任せてー!」
「………やっぱそっちか」
呆れたような残念そうな顔をされたが、ここは年上の私が目をつぶるとしよう。
この子たちは何を期待しているのだろうね?
「まぁ、ちゃんとれい君の面倒は見るし、元の世界に帰れるようにできることはするよ!」
「そこはあんまり心配してないんだけどね」
「つーか、そろそろ起きた方がいいんじゃね?」
「え?」
「お、もうそんな時間?」
時計はどこにもないのに、時間がわかる君ら凄いな。
私はきょろきょろしながら、一体、今は何時なのだろうと考える。
「そんじゃあ、権兵衛ちゃん、またな」
「また、があるの?」
「あと一回くらいはあんじゃねーの?」
「あと一回?」
「うーん、詳しいことは俺たちにもわからないけど、そろそろ時間になるんじゃないかな」
それって、れい君はもうすぐ帰るってことかな。
来たのも突然だけど、帰るのも突然なんだな。
「そっかー…」
「それじゃあ、権兵衛ちゃん目を閉じて」
「こう?」
ひろ君に言われた通り目を閉じる。
しばらくそうしていたが、ひろ君も他の二人も何も言ってこない。
なんの時間だよ…と思っていると、何か聞こえてきた。
耳を澄ませていると、どうやら鳥の鳴き声らしい。
そっと目を開けてみると、見慣れた壁が見えた。