大きなあなたと
あなたの名前は?
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権兵衛さんの発言に思わず、聞き返してしまった。
思わず口元が引き攣ってしまったが、そんな僕の様子を全く見ていない権兵衛さんはそのまま話を続けている。
「初登場は安室さんとしてだったけど、まぁ、かっこいいなーとは思ったけどそれだけだったなぁって。
うーん、コナンの中で誰が好きって言われたらキッドかなーってくらいだったんだけど…あ、でも松田さんも好きだった。回想シーンだったけど」
「……って松田…?」
「そーそー。で、安室さんが組織の仲間だーってわかった時もなんだってー!?って思ったくらいで…」
「……………」
まさかここで松田の名前があがるとは思わなかった。
確かにパソコンで調べた時に名前があったから、権兵衛さんから名前が出ても不思議ではない。
ただ、少し、面白くない。
「へぇ……で?」
「でもねぇ、安室さんでもなくてバーボンでもなくて………本当の彼が分かった時に……」
思い出すように遠くを見ていた権兵衛さんが僕の方を見たため、視線が絡んだ。
視線が絡んだことに気付いた権兵衛さんは、ゆるゆると蕩けるような笑みを浮かべた。
「好きになっちゃった」
権兵衛さんが少し照れたように笑う。
そんな顔を見ていたら堪らなくなって思わず額に手をあて下を向く。
流石に今は顔をあげられない。
酔った権兵衛さんがそれの理由に気付くかどうかはわからないが、いや、きっと気付かれるな…。
権兵衛さんにバレないようにするために深呼吸をし、気持ちを落ち着かせようとする。
流石にマズイ。
好きな相手からそんなことを言われたら、堪らないじゃないか。
一先ず気持ちを落ち着かせようとするものの、なかなかうまくいかない。
「降谷さんのこと知れば知るほどどんどん好きになっちゃうんだよね。
頑張ってる人って大好き、応援したくなる。
もう………何もかもが愛しい」
「………わかりましたから……もう、十分です……」
僕の様子には構うことなく、ひたすら褒めて好きな理由を述べる権兵衛さんに白旗をあげる。
そろそろ黙ってほしい……いろいろ限界になりそうだ。
「ん~?
あ、それとねぇ、やっぱりそうなってくると降谷さんの周りの人のことも大事にしたくなるんだよね」
ぽんっと手を打って権兵衛さんは思い出したかのように再び話し始める。
「そうだ、降谷さんの警察学校の同期もみんな大好きだよ。
みんなカッコイイよねー。
すでに降谷さんのこと好きになってたから一番は降谷さんだけど、同じタイミングで出会ってたら萩原さんが一番好きになってたかも」
「…………ん?」
「萩原くんの声好きなんだよね」
「ほー………」
「もともと好きな声優さんだったのもあるけど、女の子に優しいけんじくんいいよ。
遠目に眺める分には目の保養になる…いや、他の人たちも随分と目の保養になる…」
ふふっとなぜか得意げに笑う権兵衛さんは、そのまま机に置いてあったコップを手にした。
口に少し含むと一度グラスを離した。
中身はお酒ではなく、酔い覚ましのために水が入れてある。
お酒じゃなかったことに気付いてはいるようだが、そのままコップの水を飲みほした。
話は終わりかと思えばまだ続いてた。
「あ、そうだ。
さっきも言ったけど、松田さんもいいよね。
大人になってからの松田くんと警察学校時代のじんぺーくん、ちょっとギャップあっていい…やんちゃで可愛い。
もろふひ……噛んだ……ひろくん、うん、ひろくんもイケメンだ。
お料理上手なひろくん、よいよ……尊いよ、可愛いよ…。
伊達さんもいいねぇ!
男前だねー、頼りになるねー、私も班長と呼びたい。そして彼女とラブラブしてるところが見たい…ナタリーと班長幸せになってー!」
うんうんと一人頷く権兵衛さんを頬杖をついて眺める。
随分と前から僕の相槌がなくても勝手にしゃべり続けている。
同期のことを良く思ってくれるのはいいが…それにしても褒めすぎじゃないだろうか。
悪く言ってほしいわけじゃないが、なんとも言えない気持ちになる。
グラスに注いだバーボンを少し飲み、瞼を閉じる。
というか、権兵衛さんは気付いているだろうか。
途中からあいつらのことを名前で呼んでることに。
酔った状態でそんな呼び方が出てくるなんてことは普段からそうやって呼んでる可能性が高い。
もちろん、権兵衛さんにとっては漫画の中のキャラクターにすぎないのだから、なんと呼んでいても問題はないはずだ。
僕だけじゃなかったってだけの話だ。
こんなことで嫉妬するなんてどうかしてるな。
想いを伝えたわけでもない、伝えるわけにもいかない相手に……いっそすべて伝えてしまおうか。
本当の名前も、僕の想いも、君への欲望も、全て。
すぐ近くで気配を感じて瞼を上げれば、思った以上に近い位置に権兵衛さんがいた。
目を閉じた僕に気付いて近くまで来ていたらしい。
目をぱちぱちとさせながら僕の顔を覗いている。
権兵衛さんの瞳に不機嫌そうな僕が映っている。
手を伸ばして抱き寄せて、キスしてしまおうか。
そうしたら、僕しか見えなくなるだろう。
僕が手を伸ばすよりも早く権兵衛さんの手が伸びてきた。
そして僕の頭を優しく撫で始めた。
「……権兵衛さん?」
「よしよし」
「何してるんですか?」
「うん、れい君が元気ないから」
酔っていてもそういうことには敏いらしい。
元気がない、というのは少し違うが、異変は感じ取っているようだ。
僕の頭を撫でている権兵衛さんの手首を掴み、彼女の腰を抱き、引き寄せる。
「お?」と不思議そうな声を上げるものの、されるがままになっている権兵衛さん。
…なんでこの人はこう無防備なんだ。
僕が一体どんな想いを抱いているのか、考えたことないだろ。
酔っ払いに対してそんなことを思ってしまう僕は…どうかしてる。
「……権兵衛さんのせいですよ」
「私のせい?」
「はい」
僕の顔を見ながら「んー……」と唸ると、権兵衛さんはにんまりと笑った。
「もしかしてやきもち?」
「……」
「私が他の子のことばっかり褒めるから」
「……そうだと言ったら?」
「………もうっ、れい君、可愛いっ!」
そう言うと権兵衛さんの方から抱き着いてきた。
ぎゅうぎゅうと抱き着きながら「れい君は特別だからー!」と権兵衛さんは叫んでいる。
酔っぱらっていてもそういうことに目敏い。
というか、そこまで気付いているのなら、もう少し先も考えてもいいものじゃないんだろうか。
肝心な部分は読み取ってくれない。
手が届きそうで届かない、この関係がもどかしい。
そんなことを考えながら、彼女に問いかける。
「特別だっていう証拠は?」
「しょーこ」
「僕だけが特別だっていう証拠」
「れい君ってば…欲張りだなぁ」
「ええ、僕は欲張りですから」
うーんと少し考えた様子の権兵衛さんが、何かを思いついたように抱き着く手を離す。
それを名残惜しく思いながら、権兵衛さんの行動を見守る。
権兵衛さんはその場で立ち膝をすると、僕の肩に手を置いた。
頭頂部に権兵衛さんが顔を近づけたかと思うと、軽いリップ音と触れられた感覚がした。
パッと顔を上げると、ふふっと小さく笑った権兵衛さんが自分の額を僕の額に合わせる。
「こういうことするのはれい君だけ」
確かに愛しく思ってもらってはいるようだが、それは僕の気持ちとは違うということを改めて感じる。
親が子どもを宥めるような、そんなキスだった。
キスをする場所によって意味が変わる、なんて物から心理を推察するのであれば、頭へのキスは相手のことを愛おしく思っているという思慕の気持ちからくるものだ。
そこには、性的な意味合いは含まれていない。
最初の出会いが子どもの姿だったことも大きいのだろう。
子どもだったり弟だったりとやたらと家族としての枠に入れようとすることが多いのもそのせいだろう。
ただ、僕はそれだけじゃ物足りなくなってる。
まぁ、いろいろと考えていても仕方がない。
異性として見てもらえていないのなら、異性として見られるようにしたらいいだけだ。
少しくらい僕の気持ちに気付いてほしい。
「権兵衛さん、それじゃ足りないですよ…」
「足りないの?」
「もっと欲しい」
「んー?」
僕の答えを聞いて引っ付けていた額を離すと、権兵衛さんは「もっと…?」と唸り始めた。
僕の手ですっぽりと包み込んでしまえるほど小さな権兵衛さんの手を捕まえる。
権兵衛さんは僕が手のひらをじっと見ているのが不思議なようで、首を傾げている。
そんな彼女の手のひらにキスをする。
「れい君、くすぐったい…」
「大人しくしててください」
「むずむずするー」
キスされた手を引っ込めようとする権兵衛さんを制し、そのまま手首へキスを落とす。
ふふっと小さな笑い声が聞こえる。
やはりくすぐったいようで権兵衛さんは肩を震わせながら笑っている。
「もう、れい君、くすぐったいよ…」
「…まだ足りないな」
「え?……うわっ」
「おっと」
僕から離れてソファに座りなおそうとした権兵衛さんだったが、僕が手を離さなかったことでバランスを崩しよろめいた。
権兵衛さんが転ばないように体を支えると、背中から抱きしめるような形になった。
そのまま離してしまうのは惜しい気がして、権兵衛さんを抱き寄せたままソファに座り、膝の上に彼女を横抱きに乗せる。
きょとんとした様子の権兵衛さんを見つめながら、掴んだままの手の指一本一本にキスを落としていくと、少し戸惑った声色で名前を呼ばれた。
「れいくん…?」
「何ですか……?」
「えっと……?」
ただただ権兵衛さんの指や手にキスを落としていく。
さっきまではくすぐったいと笑っていた権兵衛さんも、少し戸惑った顔をしている。
この距離でそんな上目遣いされると唇にもキスしたくなるところだが、さすがにそれをしたらキスだけで終わらせることが出来ない気がしている。
今の僕は彼女にどんな風に見えているんだろうか。
こんなことをしてる僕は相当酔ってるな。
まぁ、酔っているのは酒ではなく権兵衛さんにだが。
そんなことを考えながら、いつの間にか何かを考えるように目を閉じて唸り始めた権兵衛さんの耳元に顔を寄せる。
「もっとしていいですか?」
「ひゃあ……!」
「…………」
「うーん」と唸っていた権兵衛さんの耳元で囁けば、思ったよりも色っぽい悲鳴があがり、思わず権兵衛さんを凝視した。
権兵衛さんは空いている方の手で自分の耳を押さえている。
お酒では変わらなかった顔色も、今では紅潮しており、大きな目はこぼれそうなくらい開いている。
その表情からは戸惑いと、羞恥の色が見える。
腹の底が騒めくのを感じつつ、さらに彼女の弱い部分を攻める。
「……そういえば、耳は弱いんですよね」
「ちょ、れい君、や、やめ…んっ」
以前にも似たようなことがあったな、と思いながら、慌てる権兵衛さんの耳元で囁いて、キスを落とせば再び甘い声がこぼれる。
あの時は脱兎のごとく逃げられてしまったが、今回はそうはいかないだろう。
権兵衛さんはわたわたしながら掴まれている手を動かしたり、僕から離れようとしているようだが、大した力ではなく、逆に煽られているような気になる。
このまま後のことは何も考えず、欲望のままに…なんて考えが頭の中を過ったが、これじゃあ、僕が欲しいものは手に入らない。
このまま続けたとしても、お酒のせいにされてしまいそうだし、酔った権兵衛さんがどこまで覚えているのかも定かではない。
拘束していた権兵衛さんの手を放して、にっこりと笑みを作る。
「権兵衛さん、もう少し警戒心を持ってくださいね。
無理強いするつもりはないのでここで止めますが……そうじゃなかったら大変ですよ?
それに僕も男なので…何かの拍子にオオカミになるかもしれませんよ」
「……………うん…………はっ…!」
ぽかんとした様子で僕を見ていた権兵衛さんは、しばらくする何かに気付いたような顔をした。
そして、再び頬を染めながら、ちらちらと僕を見てくる。
その表情は結構可愛いのだが、何か嫌な予感がしてならないのは気のせいだろうか。
「れい君…」
「……はい?」
「……欲求不満なの?」
「………は?」
「……ごめん…気付いてあげられず……」
「いや…権兵衛さん…?」
話の流れが怪しくなってきた。
何か勘違いしている。
「うんうん、男の人だもんね!
ムラムラすることもあるよね…えっと、さ、さすがにオカズになるようなものを用意するのは無理だけど…私がいないとき…というか見てない時に楽しめばいいよ…!
あ、でも、れい君がどういうのが好みなのか教えてくれたら、それっぽいのは調べて用意しましょうか!?
ちょっと興味ある…あ、さすがに一緒に観ようとか言われたらご遠慮願うかもしれないけれど、ああ、でも、プレイボーイなれい君も見てみた…じゃなくて!
あっ、生身の人間が良いって言われたらさすがに私はお相手してあげられないから、あの、その、そういうお店とか行ってもらってもいいよ、軽蔑しないしない!
ああ、でも、ちょっと……」
僕が口をはさむ隙を与えないくらい早口で権兵衛さんは捲し立てたかと思うと、途中で言葉を詰まらせた。
自分で言ったことに明らかに動揺しているようで、更に顔を赤くした。
「あ、やば…想像しちゃった…えっろ…」
「………権兵衛さん…」
「私がムラムラしちゃう…!」
「………違う……そうじゃないだろ……」
男として意識はしてもらえたようだが、僕が権兵衛さんを好きだということは1ミリも伝わっていないことに思わずため息が出た。
誰でも良いわけじゃなく、権兵衛さんが良いんだが……というか、権兵衛さんは何を何処まで想像したんだ…。
ジト目で権兵衛さんを見たが、当の本人は「はれんちー!」と叫んで、クッションに顔を突っ込んでいた。
そのままゴロゴロとクッションを抱えたままソファから落ちて床を転がる権兵衛さんを見ていたら、いろいろ考えるのが馬鹿らしくなってきた。
そうだった、この人は一筋縄ではいかないんだった。
少し頭を冷やすために、空いたグラスやお皿を洗うことにした。
水道水の冷たさと、洗剤の匂いに少し頭もすっきりしたところで、再び権兵衛さんの所へ戻れば、いつの間にか移動したようでクッションを抱きしめたまま再びソファに座っていた。
少し時間が経ったことで興奮状態も落ち着いたみたいだが、それと同時に眠気も襲ってきているようだ。
「権兵衛さん?」
「…………ん…」
僕の声に反応して、少しだけ瞼があがる。
ただ焦点はあっていないようで、少しだけ上がった瞼もすぐに下がってしまった。
そんな様子に苦笑しつつ、再び声をかける。
「権兵衛さん、眠いのなら部屋に戻ってくださいね。
そこで寝たら風邪引きますよ」
「……うん……」
「………返事だけだな」
返事だけして権兵衛さんはそのまま眠ってしまった。
規則正しい寝息が聞こえる。
相変わらず無防備というか…まぁ、酔った彼女に言ったところで仕方がない。
権兵衛さんの背中と膝裏に手を回して抱き上げる。
日中は暖かくなってきたとは言え、夜はまだ冷える。
彼女を自室へと運ぶことにした。
権兵衛さんの部屋に入るとふわりと甘やかな香りがした。
そういえば、この姿になってからは初めて入るかもしれない。
そんなことを思いながら、権兵衛さんをベッドに下ろす。
時折、眉間に皺を寄せる権兵衛さんに苦笑しつつ、そっと頭を撫でてやれば何か夢でも見ているのか権兵衛さんが小さく笑う。
「………おやすみなさい、権兵衛さん」
僕の夢を見てくれたらいいのに、なんて思いながら権兵衛さんの額に軽くキスを落とす。
そんなことを思ってしまうくらい僕は君に酔っている。
ふうっと息を吐いてベッドから立ち上がるとくいっと服が引っ張られた。
「……参ったな…」
引っ張られた場所を確認したら、いつの間にか権兵衛さんが服を掴んでいた。
はぁ、とため息を吐きながらも、再びベッドに腰を下ろした。
眠っている権兵衛さんにとっては何の意味もない行動なのかもしれないが、引き止められているようでなんとなく口元が緩んでしまう。
「…引き止めたのは君なんだから、責任取ってくれよ?」
眠っている権兵衛さんには聞こえていないだろうが、起きた時の彼女の顔を想像しながら彼女の横に寝転がる。
はっきり言ってこの状況で眠れるかわからないが、権兵衛さんの寝顔ならいつまででも見ていられる気がした。