大きなあなたと
あなたの名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
簡単な酒のつまみを作った後、ローテーブルに買ってきたお酒を並べると、権兵衛さん曰く酒盛りが始まった。
権兵衛さんは自分で選んだリキュールとジュースを混ぜてカクテルを作っている。
お酒はあまり飲まないと言っていたのに、何故かマドラーは家にあるらしい。
「お酒久しぶりー」
「飲み過ぎないようにしてくださいね」
「うん」
権兵衛さんはこくこくと頷くと、自分で作ったカクテルの入ったグラスを持ち、僕をじっと見てきた。
どうやら乾杯したいらしい。
そんな権兵衛さんの様子に苦笑しながら、自分のグラスにバーボンを注ぐ。
グラスを権兵衛さんの方へ向けると、少しびっくりしたように権兵衛さんが声をあげた。
「おお!言ってないのに伝わった!テレパシー!」
「わかりますよ、権兵衛さんを見てれば」
「……私ってばそんなにわかりやすいのかな…」
権兵衛さんはうーんと唸っていたが、すぐに気持ちを切り替えたらしく高らかに乾杯の音頭をとった。
「かんぱーい」
そして、意外と豪快にカクテルを飲み始めた。
おい、飲み過ぎないようにって忠告したばっかりじゃなかったか?
思わず半眼になって、権兵衛さんを見ていると、へらっとした笑みが返ってきた。
僕が言わんとすることが分かったのか、にこにこしながら得意げにさ権兵衛んは言った。
「大丈夫だよ、だいぶ薄めてるから、ほぼジュースだもん」
「それならいいんですが…」
「ほらほら、れい君も飲んで飲んで!」
お酒を飲みながら、おつまみにも手を伸ばし、他愛のない話をしていく。
カクテルを飲み終えると、権兵衛さんがわくわくしたようにバーボンのボトルに手を伸ばした。
「おー…初バーボン!」
「最初はどんな風に飲みますか?」
「もちろん、最初はストレートで!」
「……大丈夫ですか?」
「わからないけど、お水用意しとくし」
権兵衛さん自身も飲めるかわからないと言ったところだったようで、グラスに注いだのはほんの少しだけだった。
本当に試飲程度の感覚なのかもしれない。
グラスに鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐと「おおー」という声が漏れていた。
「どうしましたか?」
「思ったよりも甘い匂いする…でも…」
それと同時にぎゅっと眉間に皺を寄せた。
不思議に思いながら、権兵衛さんを見ていると絞り出すように唸った。
「…アルコールが……ツンとする…」
「ふっ………匂いを嗅いだだけでその様子だと、飲むのは難しいんじゃないですか?」
「……うーん」
子どもみたいな言い分に思わず笑ってしまったが、そんな僕のことは気にせず権兵衛さんは腕組みしたまま少し考え込んでいた。
躊躇う様子の権兵衛さんにストレートでは飲めないかもしれないな、と思い、カクテルにでもして出してみようかと腰を上げる。
確か冷蔵庫にリンゴジュースが入っていたはずだ。
カクテルもフルーツ系が好みだと言っていたから、多少は飲みやすくなるだろう。
冷蔵庫を開けて目当ての物を取り出し、何気なく権兵衛さんの方へ目を向けると、先程までの迷いはなく、やたらキリッとした顔をしていた。
何となく嫌な予感がして、声を掛けようとしたが、その前に権兵衛さんが動いた。
「飲みます!」
「あ、ちょ…!」
先程のカクテルと同じようにグイッと飲み込んだ。
普段からお酒を飲んでいるわけでない権兵衛さんには、やはりきつかったようで目をギュッと閉じて、グラスを机に静かに置いた。
すぐさま用意していた水を一気に飲むと、そのままパタリと横に倒れた。
大量に飲んだわけではないが、具合が悪くなったのかもしれないと思い、慌てて権兵衛さんに駆け寄り、声を掛ける。
「権兵衛さん?」
僕の声に反応してゆるゆると瞼があがったが、若干涙目になっていた。
そして僕が持っていたリンゴジュースに手を伸ばしてきた。
「……のどがー……やけるー…」
「………馬鹿か、君は…」
思わずため息が出たが、リンゴジュースを空になったコップに注ぎ、のろのろと起き上がった権兵衛さんに手渡した。
「リンゴジュースうまぁー」と言いながら、コップを両手で持って飲んでいる。
この様子ではバーボンをストレートでなんて夢の夢だろうな、と苦笑してしまった。
「やっぱりお酒はお酒だねー」
「一体、何のつもりで飲んでるんですか…」
「お酒のつもりだけど……」
「……もう酔ってます?」
「まさか」
リンゴジュースで復活したさ権兵衛んは「私にバーボンは早かったかー」と眉を下げながら再びカクテルを作っている。
残念そうな表情を隠しもしない権兵衛さんにバーボンをリンゴジュースで割ったのカクテルを渡す。
不思議そうな顔をしている権兵衛さんに思わず苦笑する。
「これは?」
「さすがにストレートでは無理そうなので、リンゴジュースで割ってありますよ。
水割りと言う手もありましたが、権兵衛さん、味覚も嗅覚も敏感みたいですから水割りも厳しいかな、と。
今飲んでるカクテルも果実系の物ですし、バーボンの量も抑えてありますから、これなら飲めるかもしれないですよ」
「おー……なんか分析されてるけど、ありがとー」
嬉しそうにグラスに手を伸ばしてきた権兵衛さんの腕を思わず掴む。
きょとんと掴まれた腕と僕の顔を交互に権兵衛さんは見ている。
「れい君や?」
「少しずつ飲んでくださいね?」
「ハイ」
にっこりと笑みを作って権兵衛さんに念を押すと、権兵衛さんは背筋を伸ばした。
そしてゆっくりとバーボンのリンゴジュース割りを口に含んだ。
バーボンの量はだいぶ少なくしたが、権兵衛さん的にはどうだったのか、権兵衛さんの様子を見ていると思わず笑ってしまった。
ゆるゆると口元が緩んで、小さく笑っている。
「おいしー」
「大丈夫そうですか?」
「うん、これなら飲めるー」
そう言って権兵衛さんは再び飲み始めた。
再びなんてことない話をしながら、お酒を飲み進めていく。
権兵衛さんはリンゴジュース割りが気に入ったのか、グラスが空くとそれを作っていた。
無茶な飲み方をしないように見ているが、顔色も呼吸も変わった様子はない。
大した量を飲んでいないからなのか、もともとあまり酔わないタイプなのか…まぁ、飲み過ぎる前に終わらせるようにすればいいか。
そんなことを思っていたら、権兵衛さんが急に「おにぎり食べたい」といいだした。
何故急に…とも思ったが「れい君の作るおにぎり好き」とか言われてしまったら断れなかった。
惚れた弱みとはこのことか…取り敢えず米を炊く準備をしようと思ったら、権兵衛さんが言った。
「ご飯もうすぐ炊けるよ!」
「……用意が良いですね?」
「うん、飲めなかった時用に準備しておいた、私、米好き」
するとタイミングよく炊飯器が鳴り、米が炊けたことを知らせた。
権兵衛さんはその音を聞いて、お米の歌を歌い始めた。
……もうすでに酔ってるのでは…とも思いもしたが、権兵衛さんが突然歌い出すのは素面でもある。
今のところ受け答えもしっかりしているため、大丈夫であろう。
お米の歌を歌っている権兵衛さんに一言告げ、準備をするためにキッチンへ向かう。
具をどうするべきか考えるために冷蔵庫を開けると、権兵衛さんの声が飛んできた。
「塩むすびで!」
「わかりましたよ」
権兵衛さんの希望通りに塩むすびをいくつか作る。
そして、塩むすびをテーブルに持っていくと、さっそく権兵衛さんが手を伸ばしてきた。
「わーい、れい君の塩むすびだ―!
いただきまーす」
「慌てなくてもたくさんありますよ」
「おいひー!」
もぐもぐと頬を膨らませながらおにぎりを頬張っている権兵衛さんを見ながら、再びグラスに手を伸ばす。
幸せそうに自分が作ったおにぎりを食べている権兵衛さんを見るのは気分が良い。
普段から表情がころころ変わる可愛い人だが、今日はやけに素直で屈託がない気がする。
そんなことを考えていたら、突然ににこにこした権兵衛さんがおにぎりを両手に持ちながら話しかけてきた。
……ん?両手?
「ねぇ、れい君」
「何ですか、権兵衛さん?」
「れい君はやっぱり降谷零なの?」
「は………」
思ってもみなかった発言に一瞬固まってしまった。
いや、権兵衛さんのことだから頭の中ではずっと考えていたことかもしれない。
ただ、何故、今それを口に出したのかということだ。
何故、このタイミングで。
もしかしたら、ずっと聞きたかったが勇気が出なかったとか言うことだろうか。
お酒の力を借りたということか?
顔には出さないようにしつつ、権兵衛さんの様子を窺うと…おにぎりを頬張りながらにこにこしている。
……可愛い………じゃなくて、一体、どんな意図が…。
権兵衛さんから視線を外した先に、バーボンのボトルが目に入る。
そこで気付いた。
いつの間にかボトルの中身が半分以上減っていたのだ。
「権兵衛さん、それ、一口もらっていいですか」
「うん、いいよー」
質問に答えていないのに、それに関しては気にした様子もなく自分が飲んでいたカクテルを渡してきた権兵衛さん。
僕がおにぎりを作っている間に彼女が自分で作ったであろうバーボンのリンゴジュース割り。
一口飲んで確信した。
権兵衛さんは酔っている、と。
明らかに僕が作った物よりもバーボンの割合が増えている。
飲み慣れてきて量を増やしたのか、はたまたその前にすでに酔っていて割合間違えたのか。
にこにこしながら僕を見ている権兵衛さんの顔色はあまり変わっていないように見える。
酔っても顔色が変わらないタイプのようだ。
「ね、れい君?
やっぱり降谷零さんなの?」
相変わらずにこにこしながら楽しそうに聞いてくる権兵衛さんに溜息が出そうになる。
権兵衛さんの酔いがどの程度なのかわからないため、迂闊なことは言えない。
しかし、いつかは言おうと思っていたことだ。
いつ言うのかはまだ決めかねていたが…いや、でも、酔った状態の権兵衛さんに話すのも違う気が…。
そんなことを考えながら、何処まで話すべきか思案しながら不自然にならないように会話を続ける。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって見た目も声も、行動も、そっくり」
「………へぇ、そうなんですね。
もし、僕が降谷零本人だとしたら、権兵衛さんはどうするんですか?」
その言葉に権兵衛さんは少し首を傾げると、ゆるゆると嬉しそうに笑う。
「れい君が降谷さんだったら…よしよしする!ぎゅーする!」
どんな答えが飛び出すのかと思っていたが、普段の権兵衛さんと何ら変わりない言動に拍子抜けした。
僕が子どもの姿だった時とあまり変わらない行動だが…いや、むしろそれはそれで複雑なんだが…。
「本人じゃなかったら?」
「降谷さんじゃなくてもれい君ならよしよしする!ぎゅーする!ちゅーする!」
「そうです、か…え?」
結局、権兵衛さんにとってはどっちでもいいのか、と思いきや、最後に追加された言葉に思考が停止した。
どういうつもりで言ってるんだろうか…と少し動揺したが、僕が思っているようなことじゃないと自分に言い聞かせる。
権兵衛さんのことだから、母親目線で言ってるんだろう。
どっちにしろ複雑だな…。
そう思いながらも、そのまま会話を続けることにした。
「権兵衛さんは、降谷零よりも僕のこと好きなんですね」
「そうだねぇ、れい君の方が好きだよ。
うちの子、大事ー!」
「っ………そう、ですか」
さらりと出た「好きだよ」に思わず動揺した。
しっかりしろ、降谷零!
これくらいで取り乱してどうする!
するとおにぎりを一つ食べ終えたさ権兵衛んがぼーっとしながら「そう言えば」と呟いた。
どうしたんだろうかと権兵衛さんの言葉を待っていると、何か思い出すようにしゃべり始めた。
「初登場の時は何とも思ってなかった」
「はい?」
その話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか。