大きなあなたと
あなたの名前は?
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一度は中止になってしまった酒盛りが、今日出来ることに私のテンションは高くなっていた。
お酒が好きとかそういうわけじゃないけれど、せっかく飲める人がいるのだから、いろいろ試してみたいと思うのは普通だと思う。
そう、飲めるかわからないけれど、興味はあるのだ。
今日は、以前に来た酒屋さんに再び訪れている。
歩いても行ける距離ではあったが、生憎の雨模様。
重たいお酒を買って歩いて帰るのは大変なので、車で来た。
あ、大変なのは主に私が。
れい君はきっと全然平気だろう。
体力半端ないから。
店内に入り、カゴを用意しながらふっと疑問に思ったことを尋ねることにした。
「そう言えば、れい君」
「なんですか、権兵衛さん」
「食べ物もあまり変わらなかったからお酒もそうだと思うけど…あるものってあっちと一緒なのかな?」
「そうみたいですね、前回来た時に見た感じではあまり違いはなかったかと思いますよ。
根本的には変わらないと思います」
「そうなんだね、じゃあ、良かった」
持っていたカゴはいつの間にかれい君が持っていて、私は手ぶらのままキョロキョロと辺りを見渡す。
酒屋さんだけあって、本当にいろいろな種類のお酒がある。
味は飲んでみないことにはわからないが、陳列されている商品を眺めるのは好きだ。
特に色の綺麗なものは心惹かれる。
そう、関係ないが私はパケ買いしちゃうタイプだ。
れい君は、いくつか商品を手に取っては何かを考えているようだった。
取り敢えず、好きなものを選んでくれればいい。
私はそれをちょっと味見させてもらえればいいなぁ、なんて思う。
それと同時に、れい君が選んだものが飲めなかった時用に自分の飲める物も用意しておこう。
私はれい君に一言掛け、お目当てのお酒コーナーを目指す。
私が飲めると分かっているのは、カクテルだ。
見た目も綺麗だし、好きだわ。
そんなことを思いながら、主にリキュールが並んでいるコーナーで足を止める。
リキュールの中でも好きというか慣れているのは、カシスやピーチとか果物系の物だ。
飲み会なんかでもカシスオレンジとかピーチウーロンとかよく飲んでいた。
家で飲むから、比率も調節できるし、久しぶりだから慣れてるものでもいいかな、なんて思う。
陳列棚を眺めながら、他の物にも目をやる。
れい君も居てくれるからちょっとくらい冒険してみてもいいかもしれない。
リキュール、見た目も綺麗だし、せっかく酒屋さんまで来てるし…と自分に言い訳しながら、商品を見ていく。
しかし、これと言った決め手に欠けるため、なかなか選ぶことができない。
ふっと思わず遠い目をしていると、近くに来たらしいれい君に声を掛けられた。
「目当ての物はありましたか?」
「あ、うん、取り敢えず……これかなー」
私は無難に飲めるものをれい君の持っているカゴに入れる。
れい君は何か選んだだろうか、と思いつつ、カゴの中に目を向けるが、私が入れたもの以外、入っていなかった。
気に入るものがなかっただろうか?
首を傾げる私に気付いたれい君がにっこりと笑う。
「権兵衛さんは飲んでみたいお酒ありませんか?」
「え」
「僕は何でも飲めるので、せっかくなら権兵衛さんが飲んでみたいと思っている物を選んだ方がいいかなと思いまして」
「でも、それはなんか悪い気が……」
「じゃあ、こうしましょう」
「?」
私が渋るのを見越していたのか、れい君はにっこりと笑みを崩さぬまま人差し指をピンと立てた。
なんぞそれ、可愛いにもほどがある。
変なテンションになりそうな自分の心を宥める。
ここは公共の場、落ち着け私。
「まず権兵衛さんが飲んでみたいお酒を選んでください。
選んだものを見て、それ以外が飲みたいと僕が思えば別の物も買う…というのはどうでしょう」
「………うーん、良いけど…」
「じゃあ、決まりですね」
れい君が遠慮している、と言うわけではないようだ。
何故か楽しそうなれい君に疑問符が頭を過るが、取り敢えずれい君の提案をのむことにする。
「何が良いですか?」
「そうだなぁ……せっかくだから普段だったら、手を付けられないものに…」
そこまで考えてハッとする。
私が飲んでみたいお酒と言ったら…やっぱりコナンに出てくる組織の人間のコードネームになってるお酒で…!
一番飲みたいのはバーボンなわけで!!
ちらりとれい君の方を見る。
私の発言を待っていたのか、バッチリと目があった。
小さく笑ったかと思えば「ゆっくりで大丈夫ですよ」と言われてしまった。
くそ、紳士め…。
小さく「ハイ」と返事を返して再び、陳列棚の商品に目をやりながら考える。
足はウィスキーコーナーへと向かっている。
しかし、私の心臓は早鐘のようにドキドキとしてしまっている。
まだ本人から確実な証言は得られていないが、もしかしたられい君は本物の降谷零…バーボンかもしれない。
そんな彼に「バーボンが飲んでみたい」なんて…ちょっと、恥ずかしくて言えない!
れい君が本人じゃなかったら別にいいんだけど、本人の可能性がある今、とても言いにくいよ…!
だってそんなこと言ったら、すごく好きみたいじゃん?
いや、実際、すごく好きなんだけど。
なにこれ、すごく緊張する。
思わず生唾をごくりと飲み込む。
まだ「好きです」って告白する方が言える気がする。
れい君の顔を見ないように商品を見ていると、見つけてしまった。
お目当てのバーボンを。
しかし、その前を私は華麗にスルーした。
敢えて少し離れたところで止まり、商品を見るフリをする。
バーボンが飲みたいって言うべきか……別の物にすべきか…。
そこまで考えて、れい君が本物かどうか見分ける方法を思いついた。
ここは奇しくも酒屋さん。
種類も豊富。
ジンやウォッカ、ベルモットだってあるわけで…でも、一番、彼が反応をするのは…。
頭の中に浮かんだお酒を見つけた。
手を伸ばしてボトルを取ろうとすると、その手をれい君に掴まれた。
突然、腕を掴まれたことに吃驚して、れい君の顔を見るとにっこり笑っている。
やましい気持ちがあったため、思わず「ひっ」と悲鳴が漏れた。
掴む手にちょっと力入ってるし、目が笑ってませんよ、お兄さん。
さっきとは違う意味でドキドキしている心臓を落ち着かせながら、平静を装う。
「えっと、れい君?」
「まさかとは思いますが、それが飲みたいんですか、権兵衛さん」
「えーっと……ちょっと見てみようかな…と」
てへ、と笑って見せるが、私の腕を掴むれい君の手は離れないし、力も緩まらなかった。
まさか手に取る前から止められるとは思わなかったよ…ライウイスキー。
しかし、これでれい君=バーボン説がより濃厚になる。
ああ、余計に言いにくい…。
いっその事、本人だと言ってくれた方がまだ言える。
「同じ名前だから飲んでみたくて!」とかなんとか言えるじゃない。
この「もしかしたら…」という状況で言うのが一番恥ずかしいよ…。
しかし、いつまでも選べずグダグダしているわけにもいかない。
ライウイスキーへ伸ばしていた手を下ろすと、れい君の手も離れた。
じぃっとれい君の顔を見る。
……相変わらずカッコイイですな。
現実逃避し始める自分を頭の中で叱責する。
現実を見よ。
再び緊張と恥ずかしさでドキドキし始める心臓に手を当て、深呼吸をする。
もうすでに頬が熱を持っている気がする。
顔を見られたくなくて、れい君の袖を引っ張り少し屈むように促す。
不思議そうな顔をしたれい君だったが、私に言われた通りに屈んでくれた。
内緒話をするようにれい君の耳元に顔を寄せる。
よし、これで言ってる時の顔は見られない。
後は私が頑張るだけ!
「権兵衛さん?」
なかなか言わない私が心配になったのか、れい君がこちらを振り向きそうになる。
慌てて私は言葉を紡ぐ。
「あのね!」
「……」
その言葉でれい君は振り向くのをやめる。
そのことにほっとしつつ、本題を切り出すことにした。
心臓がドキドキいって煩いし、頬も熱い。
飲みたいお酒を言うだけなのに、もう酔ってしまったみたいで可笑しい。
内緒話にする必要はないけれど、それでも小さくそっと呟く。
「……バーボンが飲んでみたいの」
言いたいことは言えた!
私は急いでれい君から離れ、バーボンの並んでいる棚の前で商品を選ぶフリをする。
実際にはれい君に顔を見られないようにしたかっただけだから、商品なんて全然目に入らなかった。
ただ飲みたい物を言っただけなのに、こんなに恥ずかしくなるなんて……私、変態かもしれない…。
少し自分に引いていると、後ろからスッと褐色の手が伸びてきて、バーボンのボトルを一つ掴んだ。
思わずその手を目で追うと、目を細めて笑うれい君と目があった。
それと同時に思う。
振り向くんじゃなかった、と。
まだ頬の熱は引いていないのに。
私の顔を見て、れい君がさらに嬉しそうに笑うから余計に体が熱くなってしまった。
なにこれ、恥ずかしい…!
私が一人あわあわと挙動不審になっているとれい君は笑みを崩さぬまま言った。
「では、権兵衛さんリクエストはバーボンだということなので、これにしましょうか」
「お……お任せします…!」
「はい、任せてください……それにしても」
「…?」
れい君が自分の顎に手をあて考えるしぐさをしながら、私の方をちらりと見る。
しかし、実際には何かを考えているというよりも楽しんでいるようにも見える。
嫌な予感しかしない。
「どうしてバーボンが飲みたいのか、是非理由も教えてもらいたいですね?」
「は……」
「覚悟しててくださいね、権兵衛さん」
宣戦布告……死刑宣告だろうか?
思わずれい君から距離を取り、ファイティングポーズを取った。
それを見て、れい君はクスクス笑っている。
絶対に言えない、言えてたらさっきも普通に言えてたよ…!
どんな尋問をされたとしても黙秘することを心の中で静かに決意しながら帰路に着いた。