大きなあなたと
あなたの名前は?
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しっかりお風呂であったまった私は、ドライヤーで髪の毛を乾かしている。
ただし、頭はスイーツでいっぱいになっているため、本来であればきちんと乾かす髪を中途半端な状態で終わらせた。
足取りも軽く、リビングの扉を開けると、寛ぐれい君を発見した。
どうやらお皿の片付けはすでに終わっているようだ。
れい君にお礼を言って、冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫を開けて、れい君が買ってきてくれたスイーツを見ながら考える。
どれから食べようかな。
プリン、ロールケーキ、チョコレート、苺大福……迷っちゃうなぁ。
れい君が選んできたものはどれも私が好きなものだったから、選ぶのも一苦労だ。
と言っても、一つはもう決まっている。
プリン。
これは確実に、私が好きなスイーツベスト5に入る。
もう好きというレベルじゃない、私はプリンを愛している。
そう考えながら、れい君がこちらを見て苦笑しているのに気付いて、ハッとする。
あまりに好きなものばっかり過ぎてれい君の事をすっかり忘れてしまっていた。
買ってきてくれたれい君の分も出さないと!
「れい君は何食べる?」
「僕はいいですよ」
「えっ……甘いの嫌い?」
「いえ、そうではありませんが……今はそこまで欲しいと」
「えー…うーん……どうしても食べない?」
れい君の返答に私は雷にでも打たれたかのような衝撃を受けた。
食べないって…嘘だろ……?
一緒に食べようぜ、ベイベー…!
私はスイーツから視線を外し、れい君の方をじっと見る。
私のスイーツは食べれないだと…!?
いや、私が作ったのじゃないけど。
美味しいものは誰かと一緒に食べたいと思うじゃない…!
思わず床をバンバン叩きそうになったが、それをグッと堪える。
身体を動かすと言ってトレーニングしてきたれい君は、スイーツをいらないという。
買い物さえもれい君に任せ、家でダラダラしていた私は、スイーツを2つも食べる気でいる。
罪悪感が生まれちゃうじゃないか…私の脂肪が増えると言う点で…!
ん?私も運動したらいいって?
それが出来たらこんなことで悩まない!
いくら考えてもれい君を道連れにしようとしている私が悪い。
ここは諦めて、一人糖分を摂取することを選ぶか……!
「……それじゃあ、権兵衛さんが選んだもの、味見させてもらうっていうのはどうですか?」
「うん!じゃあ、そうしよう!」
そんなことを考えていたら、れい君から提案が出た。
その提案に私は飛びついた。
本当はスイーツ一つくらいは食べてほしかったけど、食べたくないって言ってるのに無理やり食べさせるわけにはいかないよね。
私は冷蔵庫からプリンとロールケーキを取り出す。
足取り軽く引き出しからスプーンも取り出し、ローテーブルへそれらを運ぶ。
ソファを背もたれにして床に座り、両手を合わせて食前の挨拶をする。
ぺリぺリとプリンの蓋を開けると、ふんわりと甘い香りがする。
スプーンで一口分すくって、口に入れる。
「ん~!美味しー!」
食べたいと思っていた時に食べるプリンは格別である。
愛してるよ、プリン!
思わず手足をジタバタさせてしまった。
美味しいプリンを味わっていると、テーブルに紅茶の入ったティーカップが差し出された。
それを持ってきたのは、もちろん、目の前にいるれい君である。
私がスイーツを食べることを見越して紅茶の準備をしてくれたようだ。
本当に……なんて出来る子なんだ!
れい君と紅茶を交互に見ながら、口元が緩むのが止められない。
甘いものは心を蕩かすから仕方ない。
そしてこの蕩けた心では、まるでポアロで安室さんに紅茶を淹れてもらったみたいな状況に、口元が緩むのは仕方ないと思う。
「れい君、ありがとー!」
「どういたしまして…それよりも権兵衛さん」
「んー?あ、一口?
あげるあげる、はい、あーん」
「は……?」
あまりにれい君が出来る子過ぎて、感動していたが、そう言えば一口食べると言わせたことを思い出す。
今、食べてもらわなければ、私は確実にプリンを全部食べ尽くすだろう。
しかし、何故かれい君は目を点にしている。
あれ、一口ちょうだい、じゃなかったのかな?
一瞬、過った不安だったが、まぁ、違ったら違ったでもいいかと思う。
不安な気持ちなどプリンの前では取るに足らぬものである。
「ほら、れい君。
早く食べて?」
「………いただきます」
少しぶっきらぼうな言い方をしたれい君は、私が差し出したプリンをぱくりと食べてくれた。
しかし、何故か食べている間、あらぬ方向を向いていた。
そこで私は、れい君が照れ屋さんであることを思い出した。
そうだよね…あーん、なんてされたら照れるよね…!
れい君はやっぱり可愛いなぁ、なんて思ったら笑いが零れてしまった。
照れていることを指摘したら、れい君は拗ねてしまうだろうから言わないけれど。
「プリンは美味しいよねー。
いろんなのがあるけど、私は硬めが好きー。
歌でも歌いたくなるね!」
「それは良かったですね……というか、権兵衛さん、ちゃんと髪乾かさないとダメですよ?」
「んー!
これ食べたらやるー!
れい君の淹れてくれた紅茶も冷めちゃうからね!」
「……仕方ありませんねぇ」
出来る子れい君は、私の乾いていない髪の毛が気になる様子。
確かに、れい君はいつもちゃんとしてるもんね!
私とれい君は親子のような会話を繰り広げている。
もちろん、この場合はれい君が母で私が子どもだ。
「宿題あるんじゃないの?」「おやつ食べてからやるー」「もうしょうがないわね」なんて会話に私の中で変換されている。
すぐやりなさいって言わないあたりれいママは優しい。
私がプリンに夢中になっていると、何処かに行っていたらしいれい君が私が背もたれにしているソファに座った。
しかも、私の真後ろに。
何事かと後ろを振り向こうとすると頭を抑えられ、それは叶わなかった。
ただ、ドライヤーの音が聞こえ、れい君が何をしようとしているのかすぐにわかった。
「乾かしてくれるの?」
「まだ食べ終わりそうにありませんからね」
「かたじけない」
ドライヤーの風とれい君の大きな手が頭に触れる。
こうやってれい君に髪の毛を乾かしてもらうのは二度目だなぁ、と考えながらプリンを頬張る。
前の時は、れい君はまだ子どもの姿で、小さな手で丁寧に乾かしてくれた。
手の大きさこそ違えど、触れ方は同じで思わずにまにましてしまった。
あの時は、あまりに気持ちよくて寝てしまったんだよね。
その後、私は朝までぐっすりでれい君はいなくなっちゃってて…ちゃんとさよなら言えなかったんだよなぁ。
プリンを食べ終わり、次のロールケーキの袋を開ける。
口直しの為に、れい君の淹れてくれた紅茶に手を伸ばす。
そう言えば、あの時は……髪を乾かす前に睡眠薬盛られてたんだったな…。
それを思い出し、紅茶を飲む手が止まる。
まさか………これにも入ってるんじゃ……?
いや、そんなはずは…だってあの時だってお水には入ってなかったもんな。
サプリだとか言われて、私が普通に飲んだんだったわ。
それに今回はそんなことする必要ないし、もう半分以上飲んでるから入ってるとしたら手遅れだわな!
うんうんと頭の中で自分を納得させる。
ロールケーキを頬張っていると、ドライヤーの音がやんだ。
「できましたよ、権兵衛さん」
「ん?あー、ありがとう」
終わったという言葉に、私はスプーンを持っていない方の手で自分の髪を触る。
いつもよりさらっさらになっていることに感動して思わず声があがった。
あれ?れい君は美容師だったか?
「すごい、れい君!
さらっさら!」
「お気に召しましたか?」
「すごく!
こんなさらさらだから、明日は出掛けよう!」
「何ですか、それ」
「もともと買い物の予定なんだけど、髪の毛さらさらでテンション上がった!
あ、明日こそお酒買って酒盛りしようじゃない!
いいよね?」
元々出掛ける予定だったが、こんなさらっさらの髪、誰かに自慢したくなる。
あ、自慢と言っても特定の誰かとかじゃないけれど。
ただ単に、髪の毛を風に靡かせて歩きたい。
ぐるっと体の向きを変え、真正面かられい君を見上げる。
私が買い物に行くという時点で、れい君も出掛けることは決定事項なのだが、一応、承諾を得なくては。
「いいですよ」という返事がすぐに帰ってくるかと思えば、何やら真剣な顔でじっと見つめられた。
なんだか口元をじっと見られているような気がする。
不思議に思い、声を掛けてみる。
「れい君…?」
「……そうですね」
「疲れちゃった?
もう寝る?」
「大丈夫ですよ、子どもじゃありませんし」
「それもそうかー。
あ、でも、大人でもちゃんと寝なくちゃだよ!」
少しばかり様子が可笑しいような気がしたが、返事が返ってきてからはれい君はいつも通りだった。
不思議だが、今日はトレーニングに行ったり、途中で雨に降られたりしたから疲れていたのかもしれない。
れい君でもぼーっとすることはあるのだろう。
そう思いながら、紅茶を飲み干して、ティーカップやスプーンを流しへ運ぶ。
スポンジに洗剤をつけ、スプーンを洗いながら、ハッとする。
もしかして……れい君が私の口元をじっと見てたのって……。
私は泡のついていない手の甲で自分の口元をそっと拭う。
手の甲には何もついていないことを確認して、ほっと息を吐く。
てっきり口元に食べかすつけてたのかと思ったが、そうではなかったようだ。
様子が可笑しかったのも、食べかす指摘していいものか考えてたかもしれない、とまで思ったが、違ったようだ。
ふっ………もし、食べかすがついてたら、れい君をママにしちゃうところだったよ…!
………いや、もう十分、私より母親してるかもな…。
ぐっ……負けないっ!