大きなあなたと
あなたの名前は?
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赤ん坊を抱く権兵衛さんを見て、酷く動揺してしまい、しばらくその場から動けなかった。
だが、いつまでもこうしているわけにもいかないと思った途端に、急激な体の熱と痛みに膝をついた。
「ぐっ……!」
世界が回るような感じのめまいに目をきつく閉じる。
以前にも経験したことがある。
以前は体が元に戻る時に感じた痛みだったが、身体が縮む時にも同じような感覚に陥るらしい。
爆発に巻き込まれた影響で最初は痛みを感じる暇がなかったが、健康な状態でのこれは結構つらいものがある。
権兵衛さんも傷だらけの上に熱があったから心配したと言っていたことを思い出す。
身体が縮んだことによる熱だったんだろう。
きつく閉じていた目を開けると、予想した通りの結果になっていた。
服はぶかぶかで起き上がっているのに、視線は低い。
思わずため息が出た。
それと同時に背後に気配を感じる。
ある意味、どの段階から見られていたのか疑問ではあったが、取り乱す様子がないことから僕が小さくなってから扉が開いたのだろう。
後ろから伸びてきた手がそっと僕の帽子をとる。
思わず肩が揺れる。
「………れい、君………?」
少し戸惑いながら、僕の名前を呼んだ。
こうなってしまっては仕方がない。
僕は後ろを振り返って権兵衛さんの顔を確認する。
目をぱちぱちと瞬かせている権兵衛さん。
何を言っていいのかわからないとでも言う顔でしばらく僕を見ていたが、次の瞬間、いきなり抱き上げられて正面を向かされる。
あまりに突然の事だったのと、ぶかぶかの服のせいで身動きが取れなかった。
正面を向かされたまでは良かったが、少し焦った顔の権兵衛さんはそのまま僕の服に手をかけ、脱がそうとした。
久しぶりにあって、いきなり服を脱がしにかかる権兵衛さんに顔が引きつりそうになりながら阻止する。
すると、服を脱がすのは諦めたようで、袖や裾をめくって僕の手足を確認し始めた。
その行動を見て、権兵衛さんが何をしようとしたのかが分かった。
手足を見終わると権兵衛さんは僕の頬を両手で優しく包み込んだ。
眉を下げながら、心配そうに僕に怪我の有無を確認してきた。
最初にあった時に爆弾事件に巻き込まれて全身怪我だらけだった僕のことを、権兵衛さんは思い出したのだろう。
あれから3年は経ったというのに、昨日の出来事のように心配してくれる権兵衛さんにくすぐったい気持ちになる。
「……してないですよ、権兵衛さん」
「……良かったぁ…!」
「ちょっ…!苦しいです…」
僕の言葉を聞いて、権兵衛さんは安心したのか、表情も明るくなった。
それと同時に心配したんだからとでもいうようにぎゅうっと抱きしめられてしまった。
これでもかっていうくらいきつく抱きしめられる。
でも、ちょっと待ってほしい。
心配してくれたのは嬉しいが、ちょっとこの体制は…!
完全に権兵衛さんの胸に顔を埋める形になってる。
抱きしめられた瞬間は驚きの方が勝っていたが、そう長くも続かない。
冷静な頭で今の状況を考えてしまったら、その柔らかさに気付いてしまった。
今はちょっと、いや、かなりしんどいんだが。
いろんな意味で。
なかなか離そうとする気配がない権兵衛さんの背中をたたく。
本当に勘弁してほしい。
いや、勝手に意識してしまう自分が悪いんだが…。
そう思っていると、背中を叩かれたことで腕を緩めた権兵衛さんと目があった。
相変わらず権兵衛さんは、優しく甘い笑みで僕を見つめている。
その視線に耐えられなくて、思わず視線をそらしてしまった。
そんな顔を向けるのは僕だけじゃないことはわかってるから。
先程の赤ん坊を抱く権兵衛さんの姿を思い出す。
彼女の平穏を僕が崩す訳にはいかない。
そう思っているのに、権兵衛さんは僕の決心を簡単に揺らがせる。
「れい君」
「………」
「れい君?」
「……はい」
「私に何か言いたいことがあるのでは?」
「……………」
優しく問われると、すべて話してしまいたくなる。
権兵衛さんだったらすべて受け止めてくれそうな気がしてしまう。
…本当に、一体どんな魔法を使ってるんだか。
頭を撫でる優しい手つきと、すべて知っているかのような視線に、思わずそっぽ向いてしまった。
ガキか俺は…と思ったが、今は子どもの姿だった。
「怒らないから言ってごらん?」
怒られるとは思ってないが、何となく話してしまいたくなった。
でも、素直に気持ちを言うなんてことは出来ない。
「れい君?」
「…………僕の事よりも、あの子の側に居てあげた方がいいんじゃないですか…」
「…ん?」
「…………僕よりも自分の子をみてあげてください」
普段の自分だったらポーカーフェイスであたりさわりなく本音を隠せるのに、権兵衛さんの前では感情も本音もだだ漏れ過ぎる。
自分でも拗ねているのが分かる声色に唖然とした。
身体だけじゃなくて心まで子どもに戻ってしまったような感覚になる。
ただ、これはきっと権兵衛さんの前だけだろうと感じている。
僕にとって彼女は特別だから。
ちらりと権兵衛さんを見やると、想像していたものとは違う反応をしていた。
目をぱちぱちとさせ、首を傾げている。
その様子に僕も首を傾げながら、言葉を続けた。
「結婚して子どももいるんですよね?
さっき、赤ん坊を抱いてるのを見ました」
「………あれは、お隣の赤ちゃんなの。
少しだけ預かってて、さっきお隣の奥さんがお迎えに来て帰ったよ」
「………はい?」
「いや、そもそも私の子だったら吃驚だよ…何処に隠してたのって話になっちゃう」
「でも、3年もあったら結婚して子どもが居ても不思議じゃないですよ」
「ん?3年?」
先程からなんだか会話がかみ合わない。
権兵衛さんは3年と言う言葉に引っかかっているようだった。
そんな様子を見て、僕も違和感を感じた。
「あの……権兵衛さん、僕は元の世界に戻ってから3年経ってるんですが…権兵衛さんは僕が居なくなってからどれくらい経ってるんですか?」
「え……3年!?
3年も経ってるのに……れい君は後半でぐっと身長が伸びるタイプかな?」
「…………」
「大丈夫!
私はどんなれい君も可愛くて好きだから!」
3年経ってるという言葉を聞いて、僕をじっと見つめ、気遣うような顔をした権兵衛さん。
オブラートに包んでいるが、身長が伸びていないことを言っているようだ。
そんな気遣いは不要なんだが、権兵衛さんは僕が大人であることを信じていないため仕方がない。
引っかかる部分がちょっとずれてる権兵衛さんに苦笑する。
権兵衛さんの反応からすると時間にズレがありそうだ。
「……れい君が帰ってから…3日かしか経ってないよ。
だから、私にはついこないだの事なんだけど…」
「………3日…?」
異世界だからなのか、時間の流れは違っているようだ。