大きなあなたと
あなたの名前は?
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昼食後、私はテレビを眺めながら考えていた。
何か……甘いものが食べたい、と。
いや、食べればいいんだけれど、残念なことに今、うちには甘いものがない。
別になんでもいいんだけれど、無性に甘いものが食べたいのだ。
それも、お昼にやっていたテレビ番組がいけない。
美味しいコンビニスイーツのランキングなんぞ見せられたら…ねぇ?
悶々と考えながらも、出掛けるのも面倒くさいと思う自分が居る。
出掛けるとなると、れい君にもついてきてもらわないといけなくなる。
私の甘いものが食べたいという欲望のために付き合わせるのは、悪い気がする。
きっと言ったら、れい君は「いいですよ」とか言ってついてきてくれると思うけどさぁ…。
でも、明日にはまた買い物に行く予定でいるから、明日まで待てばいいとも思う自分もいる。
しかし、食べたい……ぐぬぬ…。
私が苦悶の表情をしていると、お皿を片付け終わったれい君がキッチンから出てきた。
お昼は、れい君を甘やかしたいがために、食べたい物をリクエストしてもらい作らせてもらった。
お皿も洗うつもりだったけど、コンビニスイーツランキングに釘づけだった私に気を遣ったれい君がやってくれたのだ。
本当に、出来る子だな。
甘やかすつもりが、私の方が甘やかされてるじゃないか。
取り敢えず、れい君にお礼を述べることにした。
「れい君、お皿ありがとー」
「どういたしまして…それはそうと、権兵衛さん」
「ん?なあに?」
「今から出掛ける予定とかありますか?」
「え、特には……」
れい君から予定を聞かれて、思わず「ない」という方向で話を進めてしまった。
ふっ……スイーツは明日かな。
思わず遠い目をしそうになったが、まずはれい君の話に集中することにしよう。
「れい君は何かしたいことでもあった?」
「ちょっと体を動かしに行きたいな、と思ってるんですが…」
「ああ……なるほど」
れい君の言葉に私は遠い目をしてしまった。
子どものれい君と一緒に行った公園での出来事を思い出した。
軽い気持ちで遊具で遊ぶつもりだったのに、遊具の新しい使い方を知った日であった。
そう言えば、初日にれい君の裸を目撃したが、良い筋肉だった……あ、下はタオルで見えなかったけど。
あの筋肉はきっと日々のトレーニングの積み重ねなのであろう。
私の脂肪とは真逆のな!
れい君の体を動かしたいというのが、どの程度の物かわからないが、体力皆無の私には拷問に違いない。
一緒にトレーニングをしようって話だったらどうしよう。
絶対について行けない。
けど、れい君にお願いされたら、が…頑張るしか…!
「ちょっと走り込みでもしようかと」
「ふっ……いいとも…」
「それで、外に出るついでに何か必要なものとかあれば買ってきますよ」
「うん、私、頑張る……ん?」
「頑張る?」
てっきり、一緒にトレーニングをって話かと思ったら、そうじゃなかった。
予定がないと言ったのに、頑張るとか言い始めたから、れい君が首を傾げている。
「ごめん、てっきり一緒にトレーニングしようぜ!ってお誘いかと思った」
「ああ、それで…。
権兵衛さんがやりたいのなら、一緒にトレーニングでもいいですが…権兵衛さん、体力皆無ですから…同じメニューは流石に難しいかと」
「あ、うん、無理、絶対無理。
まだ何するか聞いてないけど」
私が激しく頭を振り、両手で×を作って拒絶の意思を示すと、れい君は苦笑した。
どうやら前に行った公園とかに行くらしい。
まぁ、道も知ってるし、そもそも大人だし、困ることはないだろうと思い、了承の返事をする。
着替えてくると言って部屋を出たれい君を見送りながら、私は思う。
れい君のお言葉に甘えて……甘いもの何か買ってきてもらおうかな…!
思い立ったが吉日!
私はすぐに財布からお使い代の準備をする。
それと同時に、ずっとしまってあった合鍵も引っ張り出す。
一応、私は家にいるつもりだけど、何かあって出なくてはいけなくなった時にれい君を外で待たせるわけにはいかない。
それから、メモ帳に自分の携帯の番号を書く。
何かあった時の緊急連絡用だ。
公園なら公衆電話もあったはず。
私がバタバタと準備をしていると、ジャージに着替えたれい君が部屋に戻ってきた。
「あれ、権兵衛さん、やっぱり出掛けるんですか?」
「ううん、そうじゃなくて、れい君のお言葉に甘えようかと」
「ふふ、じゃあ、帰りにコンビニで甘いもの買ってきますね」
「は…!?
な、何故…それを…!?」
私がぎょっとして変なポーズで固まったのを見て、れい君がにっこりと笑う。
私はいつの間に頼んだだろうか?
無意識に?
やだ、怖い。
「あれだけ熱心にコンビニスイーツのランキング見てたらわかりますよ」
「……………デスヨネ」
「何が食べたいとかありますか?」
「うーん……取り敢えず、何でもいいから3~4種類くらい選んできて」
「具体的に何が良いとかないんですか?」
「今は甘いものなら何でもいい気分。
それと、何を選んできてくれるのかなっていうドキドキ感を楽しみたい」
「ははっ、わかりました」
可笑しそうに笑うれい君に、お金を渡す。
れい君が自分の財布を出した時に、きらりと光るものを見つけた。
「あ……それ」
「え?……ああ、権兵衛さんから貰った根付、大事にしてますよ」
「そっかぁ、ちゃんとれい君のこと守ってるかな?」
「そうですね、僕がこうして今、元気でいるのもこれのおかげかもしれませんね」
「そっかー……あれ、でも、こんなのついてたっけ?」
私があげた根付のお守りになんだかビー玉のようなものがついている。
私が渡した時にはついていなかったが、何故かずっとセットでついていたかのように馴染んでいる。
真ん中から下の方が淡く色付いていて、とても綺麗だ。
「……きれい」
「……………」
「あ、ごめん、思わず見とれちゃった」
「いえ…」
淡く透明感のある青い色がとても綺麗だった。
ただ、何故かれい君はそれを見て眉を顰めていた。
じろじろと見過ぎただろうか。
何か考えるように黙り込んでしまったため、そのビー玉みたいなもののことは、一旦、置いておくことにした。
「あと、合鍵ね。
一応、家にいる予定だけど、何かあって私が家を出なくちゃいけなくなった時の為に。
それから、これ、私の携帯の番号ね、連絡取りたい時はこれに」
「わかりました、ありがとうございます」
れい君がそれらをウエストポーチにいれるのを見届け、玄関までついて行く。
靴を履いたれい君を「いってらっしゃい」と手を振りながら見送る。
そんな私を見て、れい君は一瞬、目を見開いたけど、すぐに目を細めて嬉しそうに笑う。
「行ってきます、権兵衛さん」
ふわっと花が咲いたように笑ったれい君に、心臓撃ち抜かれた。
パタンと扉が閉まると同時に、私は膝から崩れ落ちた。
うちの子が……うちの子が……可愛過ぎる……!!