大きなあなたと
あなたの名前は?
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今日は調べものがしたいというれい君の依頼を承り、家でゆっくりすることにした。
元々、今日は家にいるつもりだった。
本当ならば、昨日の夜の花見でお酒を飲む予定だったため、次の日はどうなっててもいいように予定を入れなかった。
れい君は朝食を食べた後、パソコンを使って調べものを始めていた。
後片付けもしようとしていたれい君だが、それは私が丁寧にお断りさせていただいた。
何故ならば、今日もれい君の方が私よりも早く起きて朝食を作ってくれていたからだ。
私が起きる頃には朝食ができているとは……可笑しい、何故、私より早く起きてるんだ…。
いや、仮に私より早起きなのは別に良いとしよう。
可笑しいのは私が起きる時間にちょうど朝食ができてるってことだ…私は何時に起きるかなんて一言も話をしていないのに。
でも、れい君の料理に胃袋を掴まれている私は、美味しく朝食を頂いた。
だから、せめて片付けくらいはやると強引に押し切った。
お皿を片付け、洗濯物を畳みながら、真剣な顔でパソコンを操作しているれい君をちらりと見る。
いつ見てもイケメンだな…!
何時間でも眺めていられると思いながらも、実際にそれをするとちょっと変態じみてる気がしたため、やめることにした。
無理やり視線をれい君から外すと部屋の隅に置いてあるピアノが目に留まる。
そう言えば、れい君が来てからは全然弾いてなかったな…。
時計を見てみれば、10時を少し過ぎたところだった。
この時間なら、騒音にはならないはず。
そう思ったらピアノを弾きたい欲求が急に高まってきた。
あとは、パソコンで調べものをしているれい君の邪魔にならないかどうかだ。
少しドキドキしながら、パソコンを操作しているれい君の前に座る。
座ってから、別に目の前で正座する必要はなかった気もすると思ったが、もう座ってしまったから仕方ない。
目の前に来た私に気付くと、にこりと笑みを浮かべるれい君。
「どうしましたか、権兵衛さん」
「あのですね、れい君」
「はい」
いちいち返事をしてくれるれい君が可愛いんですが…大人なのに…。
うちの子最高!とか頭の中で叫んでいると、れい君がさらに目じりを下げて微笑んだ。
……昨日も思ったけど、その笑い方は……私の心を酷く揺さぶる。
どんなれい君も可愛くて好きなんだが、この顔をされるとなんか……途中まで考えて出てきそうになった言葉を飲み込んだ。
これは考えてはいけない。
考えた先にある答えは、一線超えてしまう物だろうから。
私は一人、首を横にぶんぶんと振った。
そんな私を見て、れい君は首を傾げる。
そりゃそうだろう、話しかけた相手がいきなり首降り始めたら「どうした?」って思うだろう。
「権兵衛さん?」
「ううん、今からピアノ弾こうと思うんだけど、邪魔じゃない?」
れい君はちらりとパソコンの画面を一度見ると、「問題ないですよ」と首を縦に振った。
れい君の答えを聞いて、私は早々に立ち上がり、ピアノへ向かう。
何を弾こうかと楽譜を選びながら、再びパソコンの画面に視線を移したれい君に声をかける。
「あ、言っておくけど、そんなに上手じゃないからね。
プロ目指してたわけじゃないし、ただ楽しく弾きたいだけだから。
よく間違えるし、もしうるさかったら言ってね」
「大丈夫ですよ」
いくつか楽譜を取り出して、適当に並べていく。
最初は王道のクラッシク系で、久しぶりのピアノを堪能する。
これなら調べもののBGMとしてうるさくないだろう、という考えがあった。
これは比較的昔からよく弾いてきたものだから、準備運動くらいにはなった気がする。
やっぱりピアノを弾くのは楽しい。
だんだん気持ちが乗ってきた為、次はJ-popで好きな歌手の歌を弾きまくった。
元気な曲も好きだが、今回は切ない恋のバラードな感じの曲を選択する。
後から考えればこの時点ですでにれい君が調べものをしているというのは忘れさっていた。
さらにやる気になった私は、以前から弾けるようになりたくて練習している曲の楽譜をセットする。
好きな映画のサウンドトラックの楽譜集で、映画の中に流れる順番に記されている。
つまり、最初から順番に弾いていけば、脳内で映画が再生されるということだ。
ただ、残念なことに少し難しいため、よく間違えるのだ。
猛練習中と言ってもいい。
特にアクションシーンで流れる音楽はかなり激しいものだった。
いきなりフォルティッシモという爆音スタートの曲だ。
そう、私はれい君の存在を忘れて、この爆音スタートの曲を嬉々として弾き始めてしまったわけだ。
力の限り、鍵盤を強く叩く。
自分でやってるけど指折れるんじゃないかって勢い。
しばらく弾いたところで、肩越しに気配を感じてちらっと振り返る。
「!?」
振り返った先には、れい君が居た。
何故かすごく真剣な顔をしていたものだから、何事かと思った。
そして想像以上に近くに居たため、めちゃくちゃ驚いてしまった。
その動揺はしっかりと指先まで伝達され、恐ろしいほどの不協和音を奏でることとなった。
心臓がバクバクしている。
胸に手をあてながら、呼吸を整えてから、後ろに居るれい君の方を向く。
れい君が苦笑していた。
「すみません、何度か声を掛けたんですが…」
「あ…そ、そうだったんだね、ごめんね……流石にこれはうるさかった?」
「うるさかったというか……この前の曲がバラードだったので、少し驚いただけですよ。
あと、一体どんな曲なのかなっと思いまして」
「………落差激し過ぎだよね…」
れい君はやんわりとオブラートに包んで言っているが、要はうるさかったってことだろうな!
選曲ミスだったと、心の中で反省をする。
すると、れい君はさっきまで私が弾いていた楽譜を覗き込んでいる。
「なかなか難しそうですね」
「そうなの、だから練習中。
でも、私、手が小さいから1オクターブ以上の和音が正直きついんだよねぇ……っていうか、れい君、興味あるの?」
「ピアノが出来るってわけではありませんけどね、楽譜は読めますよ」
「何か楽器でもやってた?」
れい君の楽譜が読める発言に私は少しテンションが上がる。
共通の趣味があると言うのは、やっぱり楽しいものである。
例え、住む世界が違えども音楽はやはり人の心を動かす力があるのだろう。
しかし、れい君の言葉で私の思考が一時停止した。
「友人の影響でギターを」
頭の中にヒロ君が一気に通り過ぎた私は、悪くないと思う。
しかし、あくまでも表情には出さないようにする。
だって、珍しくないもんね?
ギターをやってる男の人、珍しくないもんね?
友達がやってるからやってみようって思う人、普通にいるもんね?
れい君がやってても全然違和感ない。
私はうんうんと自分を納得させるために頷いた。
私だって一時ギター頑張ろうとした時期があった。
「いいね、ギター!
私もギター弾けるようになりたくて練習してた時期があるよ。
でも、練習頑張り過ぎて豆とか水ぶくれできてピアノが弾けなくなって困ったから長続きしなかったけどね」
「そうなんですね、僕も結構練習しましたよ。
その友人と一緒に弾きたくて」
「……そっか」
懐かしむように目を細めたれい君。
私の中でれい君=安室さんの構図がより鮮明になってきてしまう。
あ、この場合は降谷さんか?
まぁ、どっちでもいいんだけれど。
頭の中の私が「ヒロくーん!れい君が寂しそうだよー!」と叫んでいる。
そんな頭の中を切り替えるように、はぁっと息を吐く。
「ギターがあったら、セッション出来たのにねぇ」
「ははっ、僕は権兵衛さんが弾いてるの聞くだけで十分ですよ」
「れい君はそうかもしれないけど、私は聞いてみたかったなー。
あ、もしくはピアノ弾く?
れい君が弾けるようになったら連弾できるよ。
れい君ならすぐ弾けるようになりそう」
「買いかぶり過ぎですよ」
「そう?
私、楽器が出来る人はピアノも出来ると思ってる」
「何か根拠があるんですか、それ」
「なんとなくだよ、何となく。
まぁ、できないにしても興味はあると見ている」
私の独断と偏見を展開していると、れい君は可笑しそうに笑った。
そんなれい君を見ながら、私は立ち上がるとれい君の後ろに回り込み背中を押す。
私に背中を押されたれい君は抵抗することなく、ピアノ用の椅子に座る。
私はれい君の隣にダイニングの椅子を持ってきて、そこに並んで座る。
「れい君の好きな曲聴きたい」
ワクワクしながられい君にそう言ってみた。
少し考える素振りをしたれい君は、ふうっと息を吐く。
流石に無茶ぶりだったかなーと思って、「やっぱりいいや」と言おうとしたところで、れい君がこちらを見てふっと笑う。
「まぁ、そこまで権兵衛さんが言うのなら…やってみましょうか」
「…いいの?」
「ええ、権兵衛さんのお願いですからね」
そう言ってウインクしてきたれい君に私は目を瞬かせることとなった。
なんだ、そのキャラは!?
可愛い!ウインク可愛い!
れい君は私を悶絶させるつもりなのだろうか?
この心の中の悶えようでは、れい君のピアノ、ちゃんと聞けないのでは!?
鼻血出さないように気をつけないと…!
これが子どものれい君だったら私は遠慮なくぎゅうっと抱き着いてしまっていたことだろう。
大人のれい君にはしないけど!!
罪な男よな。