大きなあなたと
あなたの名前は?
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楽しそうに笑っているれい君は可愛いなぁ、と思いながらも、事の発端となったれい君の質問を改めて考えてみる。
確かに、自然と手を繋いでしまっていた。
誰にでもそうするのかな、と。
するとれい君から謝罪の言葉を貰うことになった。
「すみません、そんなに聞きたかったとは思わなかったので」
「いや、恋バナはいくつになっても楽しいからね!特に人のは!」
「そうですか?」
「そうですよ」
ただ、これ以上は、私もれい君も恋バナをしようという気配はなくなった。
そうだな、私の片想い遍歴なんて聞いても面白くないしな。
話せるものと言えば、ああ、初恋とかの方がよっぽど可愛げがあるのでは?
そう思ったが、それはちょっとまずいことに気付く。
だって、もし、このれい君の初恋の人が……年上の女医さんで、逢うために怪我をしてたとかなったら…もうさ、本人確定ですよね?
いっその事聞いちゃおうかな、なんて考えも頭に過ったが、どこかで弱気な私がストップをかける。
違った時は良いけど、もし本人だったらどうするのか。
そんなことを考えていたら、れい君は、私がどうして当たり前のように手を繋ぐのかを推理し始めた。
「子どもの相手をする仕事をしていたことですし、手を繋ぐのは職業病みたいなものですか?」
れい君の言わんとすることも分からなくはない。
でも、それは子どもに対してであって、大人に対してもするかと言われると否だ。
「……うーん、ちょっと違うかも」
「権兵衛さん?」
名前を呼ばれたため、れい君の方を見る。
不思議そうに私を見てくるれい君と目が合う。
何の因果かわからないけれど、私の所へ2回もやってきたれい君。
子どもの姿でも大人の姿でもれい君と一緒に過ごせる時間がとても充実していると思う。
そんな風に思わせてくれたれい君にはとても感謝している。
例えれい君が、本当に『名探偵コナン』の安室さんだったとしても、そうでなかったとしても、私はこの人を大切にしたい。
いつか元の世界へ帰るこの人が、いつも幸せでいてくれたら嬉しい。
そう、れい君が何者であっても、私はこの人の幸せを願いたいんだ。
だって私はれい君の魔法使いだから。
「れい君だからだよ」
自分でも納得のいく答えが出たため、私は自然と微笑んでいた。
そう、れい君じゃなかったらきっと手だって繋いでない。
「なんて言ったって私はれい君の魔法使いだからね。
れい君がしたいことはちゃんとわかるのです。
言ったでしょう?
れい君が望むのならば何にだってなれるんだよーって」
「……あなたって人は…」
ぽつりとれい君が呟いた言葉は、少し強い春の風に消されて私の耳には届かなかった。
もう一度尋ねようとしたが、それは叶わなかった。
春風と共に散っていく桜の花びらに気を取られたからだ。
はらはらと散ってゆく桜の花びらがライトの光に照らされている。
近くの歩道で帰路に着く人は桜を見ておらず手元のスマホに視線が落とされている。
勿体ないことをしているなぁ、なんて思いながらも、去年までは私も同じであった事に苦笑する。
ライトアップされた桜を眺めながら、私はれい君の手を引き、歩いて行く。
少し歩いた先に、休憩所のような場所がある。
平日の夜にそこを使う人はおらず、がらんとしていた。
私はテーブルに飲み物の袋を、れい君はお弁当の袋を置いて、横並びでベンチに座る。
そこから見える桜の風景はとても幻想的で美しかった。
これを毎年、私は見逃していたのかと思うと損をしている気分になる。
「……綺麗だね」
「そうですね…」
ちらりと隣のれい君を見れば、何処か遠くを見るような表情をしている。
それを見ると、ああ、早くれい君を元の世界に帰してあげなくちゃ、という気持ちがより強まった。
そしてふっと気付く。
桜が散る中は歩いてきたれい君の頭に桜の花びらが数枚乗っている。
私は立ち上がり、れい君の方に少しだけ近づく。
私の行動を不思議に思ったれい君がこちらを向こうとするのを、私は慌てて制止した。
「あ、待って、動かないで」
「…どうかしましたか?」
「花びらついてる」
れい君の髪の毛についている花びらをとる。
全部で花びらは4枚。
それを自分の手のひらに並べてみていると、ふっと萩原さんたちの事を思い出してしまった。
まるでれい君の事を見守ってくれているような気がしたら、思わず笑ってしまった。
そんな私を見て、どうしたのか、という顔をしているれい君。
流石に萩原さんたちの事を言うことは出来ないため、言い方を変えて伝える。
「ふふ…いや、れい君は桜の精にでも愛されてるのかなって」
「どうしてですか?」
「ほら、4枚も頭に花びら乗せてたよ?」
再びれい君の隣に腰を掛けて、手のひらに並べた4枚の桜の花びらを見せる。
れい君は私に言われてきょとんとした顔をしたが、すぐにふっと小さく笑う。
流石に桜の精はファンシー過ぎたかな、と思ったが、れい君が笑った理由はそれではなかったようだ。
「僕よりも、権兵衛さんの方がよっぽど愛されていると思いますよ」
「え?何で?」
「ほら、ここに」
そう言って、れい君は私の頭に手を伸ばしてきた。
もしかして私の頭にも花びらが乗っていたのだろうか、と思い、れい君が取ってくれるのを大人しく待つ。
「花びらどころか、花ごと頭に乗ってますよ。
まるで髪飾りみたいですね…。
……権兵衛さん自身が桜の精みたいですね」
れい君が私の頭に乗っていた桜の花を取ると、花柄をつまんで私の方へ花を差し出してきた。
もともと垂れ目なれい君が、さらに目じりを下げて、微笑む姿に私の心が震える。
告白でもされているのかと思ってしまうほど、甘い雰囲気にあてられ、身体の熱が上がるのを感じる。
自分から言い出した世界観だが、れい君に言われると破壊力が強過ぎて何も言えなくなった。
私が桜の精とかそんな……私は…そう、あれよ!
どちらかと言えば、人間の生き血を吸って美しく咲く方の桜の精ならまだしも…!
いや、それも可笑しいけど…!!
もう……桜の精とか恥ずかしすぎる……!
最初に言った自分をぶん殴りたい…!
今が暗くて良かったと思う。
きっと顔赤くなってしまっている気がする。
れい君の顔をまっすぐ見れなくなり、かと言って顔を背けるのも不自然で、視線が泳いでしまった。
そんな私を見てれい君が嬉しそうに笑う。
「もしかして、照れてます?」
「えっ!?て、照れてないよっ!?」
「耳まで真っ赤ですよ?」
「……っ!!」
見えてないと思ったら、しっかり見えてた。
指摘されたことでさらに顔に熱が集まるのを感じる。
これが漫画だったら私は頭から煙出てるんじゃなかろうか。
私はとっさにれい君から顔を背けて、両手で自分の顔を覆う。
隣からはクツクツと可笑しそうに笑うれい君の声が聞こえてくる。
そんな声を振り切るように私は、立ち上がり、袋からお茶を取り出す。
ついでにれい君がテーブルに置いた袋からお弁当を出し、いそいそと並べ始める。
「ささ、れい君!
お弁当食べましょ、食べましょ」
「照れ隠しですか?」
「あーお腹減ったなー」
「棒読みですよ、権兵衛さん」
れい君に指摘されながらも、お弁当を広げて食べ始めてしまえばこっちのもの。
すぐに私はれい君が作ってくれたおかずにメロメロになっていた。
本当にれい君はお料理が上手である。
胃袋掴まれて困る。
食べるのに夢中の私は、すっかり花より団子状態であった。
そう、夢中になるのはれい君のご飯で十分。
いつかいなくなっちゃう人なんだから。