大きなあなたと
あなたの名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
れい君は拗ねたような表情で、少しツンとした声色で言った。
子どもがするような仕草に、胸がきゅんっとする。
母性か、母性がそうさせるのか?
いや、それにしたってきっとれい君でなければ可愛いなんて思えないかもしれない。
イケメンは違うな。
そんな馬鹿なことを考えていたが、れい君の言葉で一瞬のうちにその考えは消え去った。
「……随分と慣れたように指絡めるんですね?」
「………ん?」
「……こうやって自然に手を繋ぐような関係の人が今までにも居たんですか?」
「………え?」
むすっとした様子で、れい君は繋いだ手を私に見せるかのように少し持ち上げた。
手を繋ぐのに慣れてるとか慣れてないとかあるのだろうか、とれい君の言わんとすることが分からず首を傾げる。
私としてはれい君が繋ぎたいのでは?と思ったから繋いだんだが…と思ったが、そこでハッとする。
私の中で「れい君が手を繋ぎたいのでは?」と思ったなんてことは、れい君は知らないわけで。
私が誰とでも手を繋ぎたがる人間か、もしくはれい君が質問してきたように以前の恋人(そんなの居ないが)と良く繋いでいたのではないか、という考えに至ったことが容易に想像できた。
そして、どちらも違う。
そんなことを聞かれると思わなかった私は、非常に焦ってしまった。
大人になってから子ども相手以外でこんなに手を繋いだ人はいないわけで、れい君が初めてなのに…!
何故か浮気を疑われたような気になる、なんでだ。
「いやいやいや!実際にはないよ!?妄想上ならめちゃくちゃあるけど!?」
「…………妄想上?」
「はっ……!」
焦った挙句に、いろいろと口走りそうになり、繋いだ手を離して自分の口を塞ごうとするが、れい君は手を離してくれなかった。
「権兵衛さん?」
「ぐっ……離れない…だと!?」
「離しませんよ」
しっかりと繋がれた手は先程よりも力が入っている。
実際のところ、繋いでいる手を離さなくても反対の手で口を押えれば良かったのだが、飲み物の袋がそれを邪魔した。
袋持つなんて言うんじゃなかった。
何で私の恋愛事情を話さなければならないのだろうか…!
れい君のお願いごとには全力で答えてあげたいけれど、こればかりは…あまりに経験が乏しすぎて話せることがない。
話せるような恋愛なんてしてきてない。
片想いのプロだよ!
片想いのプロって何言ってるの、私!?
むきーっと足の踏ん張りをきかせ、距離をとろうとするも、びくともしなかった。
こんなことに怪力を使うんじゃない!
そんなことを思ったが、そもそも距離をとったところでこの質問を回避できるわけじゃなかった。
結構、テンパっているようだ、私は。
れい君はにっこりと綺麗な笑みを作って、たたみかけてきた。
答えるまで永遠と聞いてきそうなれい君にひくりと顔が引き攣る。
「で、妄想上ではなく実際には?」
「……………………デートくらいはしたことあるもん」
「ほぉー…」
思わず、れい君から視線を逸らし、明後日の方向を向いてしまった。
そんな私をれい君はじっと見つめてくる。
ああ……そんなに見ないでー!
話せるようなものは何もないんだってば、と言おうとしたところで、れい君が眉を下げ、困ったように笑う。
その顔を見た途端に、テンパっていた頭の中が落ち着きを取り戻す。
れい君が何を思ってそんなことを聞いてきたのかわからないが、よく考えれば話しても何ら問題ないことだとも思う。
ほら、友達とは恋バナするじゃない。
その相手が、友達じゃなくてうちの子、もしくは弟(仮)ってだけの話だ。
「ねーちゃんって手ぇ、繋ぐような彼氏居たっけ?」ぐらいのノリだと思えばいい。
そもそも正直に事細かに話さなくちゃいけないなんてことはないだろうし。
私が黙り込んだことで話してもらえないと思ったのか、れい君は苦笑していた。
ダメだ、私はれい君のそういう顔に弱い。
すぐに絆されてしまう。
くっ…こうして弟(仮)を甘やかす姉になってしまうのだな…!
「…………困らせるつもりはなかったんですが」
「ううん、こっちこそ……なんていうか、その……うーん……取り敢えず、手を繋ぐのが当たり前みたいな人はいなかったよ。
そもそも大人になってからはろくに恋愛なんてしてないからねー、残念なことに」
「そうなんですか?」
「仕事始めてからは仕事忙しかったし、まぁ、職場は女の人ばっかりだったし…目の前の子どもたちの事で頭いっぱいだったから。
それに……」
「…………権兵衛さん?」
言葉を区切るとれい君の視線がこちらに向くのを感じた。
れい君が来たことで頭から忘れていたけれど、仕事をしていた時の事が思い出される。
今思い出すことじゃないな、なんて思いはしたものの、頭の中を過ってしまったのだから仕方がない。
子どもたちの事はもちろん、同僚のことも、どうして辞めてしまったのかも。
別に酷いことをされたとか、人間関係が悪かったとか、そんなことは全くなかった。
誰も悪くない。
いや、誰が悪いのかと聞かれれば、私自身なのだろう。
その理由は、自分自身が一番分かっている。
そこまで考えて、ああ、今はれい君と話をしている途中だったと気持ちを切り替えようとする。
ただ、うまく笑えるかわからなかったため、れい君の方は向かずに、声だけでも明るく振る舞う。
「うん、だから大して私の恋愛話なんて聞いても面白くないよ。
学生時代だって片想いばっかりだったし」
「……ちょっと意外ですね」
「……れい君は私をなんだと思ってるのかな?」
れい君の返答に思わず眉間に皺が寄る。
意外とは、何か。
手を繋ぎ慣れているほど男をとっかえひっかえしてるとでも思われたのだろうか。
いや、もしそうだったら現在進行形で彼氏が居るはず…あ、自分で考えてちょっと虚しくなった。
するとれい君は少し考えたのち、つらつらと話し始めた。
「権兵衛さん、優しくて明るいですし、相手の立場を考えて行動できるので基本的には人には好かれるタイプですよね。
たまに変な行動してますが、それを差し引いても魅力的な女性だと思いますよ。
なので、彼氏が居たとしてもおかしくはないかな、と。
まぁ、他の人とどんなふうに過ごしているのか知らないので、僕が知っている権兵衛さんは、ということになりますが」
「………………そ、そう…?」
めちゃくちゃ褒められた…!
気になるワードも混ざってはいたが、変な行動の自覚はあるので触れないことにする。
遊んでいると思われたわけではなさそうなことにほっとしつつも、少し照れくさくもある。
こんなイケメンに褒められたら、惚れてしまいそうだわ。
私はこれ以上、れい君の口から褒め言葉が出ないうちに話題を切り替えることにした。
「えっと……………その……どうもありがとう?
そ、それよりもれい君の方がモテそうだよ。
どっからどう見てもモテる気配しかしてない。
前の買い物の時も、女性陣の視線を独り占めしてたし!
私よりも経験豊富なんじゃないでしょうかね?」
「気になりますか?」
「え……き、気になると言えば気になるけど……」
何気なく聞いたことだったが、れい君が目を細めて笑った。
少し…いや、かなりセクシーなその様子に私の中でれい君遊び人説が再び浮上してしまった。
これでれい君の口からとんでもないエピソードが出てきたらどうしよう…!と嫌な汗が流れる。
しかし、どんな恋愛をしてきたとしても、れい君はれい君であることにかわらないはずだ。
うん、どんなれい君でも、れい君はうちの子だから受け止めてみせる…!
私の母親魂に火がついた。
「OK、聞く準備は出来た。どんとこい!」
「……うーん…そうですねぇ…」
「……………」
「……………」
「………れい君?」
「ふっ……権兵衛さんがすごく気になってるみたいなので…内緒にしときます」
「な……なんですと…?」
れい君は小さく笑って、内緒だと言った。
あんなに時間を使っておいて、教えてもらえなかった私は思わずあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
そんな私を見て、れい君は明後日の方向を向いたかと思うと肩を震わせているではないか。
おちょくられたということか。
納得がいかないが、肩を震わせ笑いをこらえるれい君が楽しそうなので、怒る気にもなれなかった。
そう、私はれい君に甘い。
甘々である。