大きなあなたと
あなたの名前は?
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目を覚ました赤ちゃんを愛でていると、インターホンが鳴った。
時計を見れば、あっという間に一時間経っていたようだ。
可愛いって罪だな。
「ママが帰ってきたっぽいね?」
「うー」
「お兄ちゃんも早く元気になるといいねぇ」
小さな手をぶんぶん振り回しながら、赤ちゃんは返事をしているようだった。
そんな様子に思わず笑みがこぼれた。
扉を開ければ、やっぱり隣の奥さんだった。
先程と同じように捲し立てるようにお礼を述べられ、さらにはお礼にとお菓子の詰め合わせまでいただいてしまった。
そんなに気にしなくても良かったのに…と思いつつも、隣の奥さんは嵐のように去っていってしまった。
玄関でポツンと菓子折りを持ったまま立ち尽くす私。
お菓子の詰め合わせは良いが、一人で食べるのもなんか味気ない。
うーん、と思いつつ、取り敢えずリビングに戻る。
何処に置いておこうかな、なんて考えながらきょろきょろしていると、違和感を感じた。
「ん?」
何か聞こえた気がする。
私はお菓子の箱を机に置いて、音の聞こえた方へ歩み寄る。
音の出所は、浴室へ続く廊下だ。
ドアのガラス越しに、廊下を覗く。
………なんかいるんですけど。
思わず血の気が引いた。
しっかりと確認できなかったけど、なんか廊下に黒っぽいものが…伸びてるっていうか、倒れてる?
一度、キッチンへ引っ込んで、フライパンを持ってくる。
何で倒れてるのかわからないけど、空き巣とか泥棒とかかな!?
あ、留守じゃなかったから空き巣とは言わない?
いっそお化けとかの方がよっぽど怖くない!
お化けの方が諦めがつくよ…!
まぁ、そんなことはどうでもいい…!
ぐっとフライパンを握りしめ、扉をそっと開ける。
黒い物体は何やらもぞもぞ動いているようだ。
……ん?デジャヴ?
時折苦しそうな声が聞こえたかと思ったが、しばらくするとむくりと起き上がった。
しかし、非常にアンバランスだった。
全身黒い服で、黒い帽子をかぶっているのはわかるが……明らかにサイズがあっていない。
向くりと起き上がった物体は、ちょうど私に背を向ける形になっているが、きょろきょろと頭を動かした。
しばらくすると「はぁ」と小さなため息をついていた。
私は目を瞬かせる。
フライパンは床へ置き、その黒い物体の真後ろにしゃがむ。
サイズの合っていない黒い帽子をそっと取ってやる。
びくりっと震える小さな肩。
ああ、私、この後姿知ってる。
「………れい、君………?」
そっと私の方を向いた子はとても複雑そうな顔をしていたが、どう見てもれい君だった。
なんで、どうして、といろいろな疑問が頭の中に一度に押し寄せてきたが、それよりも身体が勝手に動いてた。
私に背を向けているれい君を抱き上げて正面を向かせる。
突然の行動にれい君は抵抗する暇もなかったようで、吃驚してはいたが、されるがままになっている。
それを良いことに、私はそのままれい君が着ている大人サイズの服を脱がしにかかる。
さすがにそれには抵抗をしてきたため、袖や裾をめくり腕や足を確認する。
そしてれい君の頬を両手で包み込んで、れい君の顔をじっとみる。
れい君は居心地悪そうに視線を泳がせている。
そんなれい君に私は真剣な顔で話す。
「………怪我してない?」
私の問いを聞いて、れい君はきょとんとした顔をした。
一応、見えるところはすべて確認したが、怪我している様子はなかった。
背中とかは見せてもらえなかったため、本人にも聞いてみたのだが、隠している様子もないから本当に怪我はしてないんだろう。
「……してないですよ、権兵衛さん」
「……良かったぁ…!」
「ちょっ…!苦しいです…」
照れているのかそっぽ向きながら答えるれい君に私はホッとした。
どさくさに紛れてぎゅーっと抱きしめてしまったが、それは仕方がないだろう。
だって、最初にれい君に会った時は爆弾事件に巻き込まれて怪我をたくさんしてた。
またこっちに来ちゃうなんて変な事件に巻き込まれて怪我したんじゃないかって思った。
だから、怪我がなくて安心した。
どうしてまたここへ来てしまったのかとかいろいろ疑問はあるけれど、とにかくれい君が無事で良かった。
ぎゅうぎゅう抱きしめていたら、さすがに苦しかったようで、背中をパシパシ叩かれた。
抱きしめる腕の力を緩めると、何故かほんのりと顔を赤くし、恨めしそうな顔でれい君が私を見上げた。
まさか、また会えるなんて思ってなかった。
逢えたことは嬉しいけど、こうなると今度はいつ元の世界に帰ってしまうのか。
いろいろ考えてしまう。
うーん、とまずは何を話せばいいのか考えていると、れい君は私から視線をそらす。
……さっきから何でそんなに余所余所しいの。
あ、そうか、さすがに悪いと思ってるのかな?
最終日に私に薬を盛ったこと、まぁ、過ぎてしまったことはもう水に流そうじゃないか。
悪いと思っているのなら、謝る機会を与えるのも大切だよね。
「れい君」
「………」
「れい君?」
「……はい」
「私に何か言いたいことがあるのでは?」
「……………」
ぐっと口を噤んでいるれい君。
そんなれい君に苦笑しながら、頭を撫でてやる。
「怒らないから言ってごらん?」
ね、と顔を覗き込めば、何故か不貞腐れた顔をした。
相変わらず視線は合わない。
「れい君?」
「…………僕の事よりも、あの子の側に居てあげた方がいいんじゃないですか…」
「…ん?」
「…………僕よりも自分の子をみてあげてください」
え、れい君何言ってるの。
これは何ごっこですか。
私の思ってたのと違う…!