大きなあなたと
あなたの名前は?
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夜のお花見の為に、お弁当を持って家を出た。
当初の予定では道中で酒屋さんによって、お酒を買っていく予定だったが、れい君に断られた為、ペットボトルのお茶を買った。
酒屋さんに行ったのに、お茶だけ買うことになるとは誰も思うまい。
最初は遠慮でもしているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
お酒はまた別の機会に、とのことだったので、その意見を尊重することにした。
とはいえ、その発言も半分は私のせいではあると思ってはいる。
何故なら……私があまり飲まないことが、れい君にバレてしまったのだ。
隠しているつもりはなかったが、酒屋さんで炭酸が飲めないということをぽろっと喋ってしまったのだ。
そこからのれい君の巧みな話術により、発泡酒類も飲めないことが露呈した。
いや、巧みな話術っていうよりも普通の会話の中でぽろっと言ってしまった。
私がちょろいだけだな。
さらにはアルコール度数の高いお酒はあまり飲んだことが無いということも喋ってしまった、うっかり。
飲めないことはないが、さほど欲しいとも思わない。
ただ、私が飲まないことでれい君が我慢してるとしたら嫌だな、と思っての酒盛り発言だったのだが、ばれたようだ。
でも、お酒、ちょっとは飲みたいと思ったし。
お洒落なBarとかでお酒飲んでみたい、くらいは思っている。
ワインとかウイスキーとかめっちゃ興味ある。
ベルモットとかシェリーとかライとかスコッチとかバーボンとか飲んでみたいって思ってるよ!
コナン観てたら、そう思うよね!
だから、飲めると答えたれい君に美味しいお酒を教えてもらおうと思ったのだが…今回はやめておこうと言われた。
私に気を遣わなくていいと言ったら、またの機会に、と言われ、さらに今日は特に飲まない方がいい、とまで言ってくるので了承するしかなかった。
何故だかわからないけれど。
お弁当はれい君が持ってくれて、私は飲み物を持っている。
最初は両方、れい君が持ってくれようとしたのだが、手ぶらでは居心地が悪い。
それを素直に伝えれば、苦笑しながら軽い飲み物の袋を渡してくれたのだ。
紳士か。
上機嫌な私は、まだ桜が見えていないのにお花見気分で鼻歌を歌っている。
れい君はそんな私を見て笑っている。
「そんなに楽しみなんですか、権兵衛さん」
「そりゃあね」
れい君の隣から少し小走りでれい君の前に出て、れい君の方を見ながら歩く。
れい君と向かい合うような感じで、私は後ろ歩き状態だ。
「ずっとしてみたかった夜桜のお花見だし、お弁当も楽しみ」
「楽しみなのはわかりますけど、ちゃんと前見て歩かないと危ないですよ」
「はーい」
れい君に注意されてしまったので、くるりと前を向いてれい君より少し前を歩いて行く。
しかし、れい君の足が速いのか長いのか、いや、両方だな。
すぐに隣に並ばれてしまった。
「そういえば……今回は着物じゃないんですね」
「え?ああ、そうだね…れい君が赤いウインナー入れてくれないから頭から飛んじゃってたよ」
「ははは……根に持ってます?」
「持ってます……なんて、冗談だけど。
着物の方が良かった?」
「いえ、そういうわけではないんですが」
「れい君が見たいのならいつでも着るよ、他に見せる人もいないことだし!」
クスクス笑いながら「着たら存分に愛でておくれ」と冗談めかして言ったら、れい君はふっと笑って「もちろんです」と宣った。
本気なのか冗談なのかわからないなぁ、と思っていたら、荷物を持っていない方の手にれい君の手が触れそうになった。
そう言えば結構距離が近いな、と思い、れい君の顔を見れば、私が見てきたことが不思議だったのかきょとんとした顔をしていた。
おや?無意識だったんだろうか?
私が首を傾げるのを見て、れい君ははっとしたあと、私から目線を外し、少し気まずそう頬をかいていた。
そんなれい君を見て、自分の手を見る。
もしかして、手、繋ぎたかったのかな?
れい君が子どもの時には問答無用で手を繋いでいた。
迷子防止の意味が大きかったため、大人になった今は不要かと思っていたのだが…手を繋ぐの好きなのかしら。
言ってくれればいいのに、と思いつつも、大人になって恋人でもない相手と手を繋ぐっていうのはハードル高いのかもしれない。
あ、でも私は今、母……は無理あるか、姉にしよう。
お姉ちゃんに甘えてもいいんだよ!、と少し興奮しかけたが、実際にこの歳で手を繋いでる姉弟となるとよっぽど仲良くないとやらないかな、とも思う。
それに、れい君は照れ屋さんだしな。
小さかったれい君の手も今や、私の手よりだいぶ大きい。
私は自分の手のひらをれい君の方に向ける。
そんな私をれい君がきょとんとした顔で見てきた。
「権兵衛さん?」
「れい君、手、合わせてみて」
「こうですか?」
れい君は私に言われるがままに、手を重ねてくれた。
うん、やっぱり随分と大きい。
そしてセクシーな指だな、めちゃくちゃ怪力だけど。
「うん、大きいね。
前は私の手ですっぽり包めちゃったのに、今じゃ逆になっちゃったね」
「そうですね、まぁ、手だけじゃないですけどね」
「そうだね、背だってこんなに大きいとは思わなかったよ」
「権兵衛さんはどちらかと言うと小柄ですから、余計にそう感じるのかもしれませんね」
ふふっと笑いながら、小さなれい君の事を思い出す。
あんなに小さかった子がこんなに大きくなったと思うと感慨深いものがある。
まぁ、私が育てたわけじゃないし、もともと大人だったらしいけど。
「では、れい君」
「何ですか?」
「今日は着物ではありませんが、目的地までエスコートお願いしますね?」
合わせていた手を少しずらし、ゆるく指を絡めると、れい君が少しだけ目を見開いた。
そして眉を少し下げながらも、くすぐったそうに笑みをこぼした。
「もちろんですよ、権兵衛さん」
ああ、やっぱりれい君はれい君なんだな。
子どもの時にも見せてくれた表情と今の表情が被る。
そんな様子に私も思わず笑ってしまった。