大きなあなたと
あなたの名前は?
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私とれい君は夜の花見に向けてお弁当を作っている。
そう、お弁当を作っていたはずなのに…一体、何故こんなことになってしまったのだろうか。
私はれい君が着ているエプロンの裾を少し引っ張りながら、れい君を見上げる。
れい君はと言えば、そんな私から視線を外すようにそっぽ向いてしまっている。
「れい君………お願い」
「………権兵衛さん…ダメです」
私のお願いをれい君は頑なに拒んでいるのだ。
まさか断られるとは思っていなかったため、私は引くに引けなくなった。
変なところで負けず嫌いが発動してしまった。
「れい君……お願いだから……いれて?」
「……何度言われてもダメですよ」
「…いれてほしい……」
「…………ダメです」
「どうしてもダメ?」
れい君がそっぽ向く方に移動し顔を覗き込むが、すぐに反対に顔を向けられてしまう。
私の方はいれる準備万端なのに、れい君はなかなか受け入れてくれない。
いっそのこと無理やりいれてしまおうかしら、なんてことを考えながら、いや、無理強いは良くないと考えなおす。
せっかくだから、お互いに良い気持ちで挑みたいじゃない?
そう思いながら私は粘る。
「もう準備しちゃったし……いれた方が絶対にいいよー?」
「……………」
「ね?少しだけでもいいから、いれよう?」
「……………………はぁ……」
距離を詰めながら、粘り続ければ、れい君はちらりと私の顔に一度視線を向け、ため息を吐いた。
しかし、次の瞬間、にっこりと笑みを浮かべるれい君。
その笑みに何かよからぬものを感じ取った。
詰めていた距離を戻そうと後ろに下がると、驚いたことに私の背中は壁にぶつかった。
いつの間に壁際に追いやられて…?
いや、れい君の顔の向く方に私が動いてたんだった。
そして私の顔の隣の壁にはれい君の手が伸びていて、抜け出すことができなくなった。
これは……いわゆる壁ドンと言うやつでは?
「仕方ありませんね…権兵衛さんがそんなに食べたいんなら食べさせてあげます」
「ん?いやいや、いれてほしいだけで食べさせてほしいとは言ってない…。
食べるのはまだ先の話だし…えっと……れい君…?」
「権兵衛さんが言ったんですよ、いれてほしいって……」
「あの…?」
「ちゃんと味わってくださいね…」
「あ、ちょっと待って、今じゃなくて…むぐっ……」
れい君は私がしゃべり終わる前に、強引に口の中に火種となっている食べ物をいれてきた。
そう……お弁当に彩りを、そしてお弁当に是非とも入れたい可愛いあいつ………赤いウィンナーを!!
流石に口の中に入れたまま喋ることは出来ないため、もごもごと食べることに集中する。
しかも、まだちゃんと冷めてないからちょっと熱いんですけど…!?
それでも吐き出すことは出来ないため、しっかり咀嚼して、ごくんっと飲み込んでから抗議の声をあげる。
「だから、口の中じゃなくてお弁当箱にいれっ…うぐっ…んん……」
「ほら、まだまだありますよ」
「んー!」
私が喋り終わる前に再び口の中に放り込まれた。
再び咀嚼し始めた私の前で微動だにしないれい君はすでに次の赤いウインナーを菜箸で掴んでスタンバイしている。
この野郎…!!
絶対にお弁当には入れないつもりだな!?
全部私の胃袋におさめてやろうって魂胆だな!?
はっ……!
初めてれい君に対して、暴言を……可愛いれい君は何処に!?
私は口をもごもごさせながら一生懸命考える。
どうしたら赤いウインナーを口の中ではなく、お弁当箱に入れさせることができるのか。
れい君は私が飲み込むのをじっと見つめ、再び口を開くのを待っているようだ。
くそっ……隙が無い!
そしてじっと見てくるれい君が可愛い!
どうにも抜け出すことができない私は、必死で自分の口を両手で覆い隠すことにした。
いくられい君といえでもこの手を押しのけてまで食べさせようとは思わないはず。
とうか、なんでこんな暴挙に出てるのか私には意味不明だ。
「………権兵衛さん、手、どけてください」
「どけたら、また入れてくるでしょ」
「………はぁ、仕方ありませんね」
手で口を隠したまま喋ると、れい君はため息を吐いた。
私がわがまま言ってるみたいに聞こえるけど、いやいや、可笑しいのは君の方だからね?
何でいれさせてくれないんだ、赤いウインナーお弁当にいれたっていいじゃないか。
何なの?ウインナー嫌いだっけ?
いや、そんなはずはない。
だって普通に食べてたし。
そう思っていたら、ふっとれい君が笑う。
その顔は可愛い、と思っていたらスタンバイしていた赤いウインナーをぱくっと食べてしまった。
「あー!だから今食べたらダメっていっ……んんっ!?」
「……まぁ、味は悪くないんですけどね」
思わず手を外し叫んでしまったら、すかさず口の中に赤いウインナーを放り込まれた。
嘘でしょ、いつの間にスタンバイしたの?
そんな早技披露しなくていいよ…!
手癖が悪いっていうか、やっぱり職業忍者なんじゃ…!?
っていうか普通に食べてるから食べられないってわけじゃなさそうだし……そうなるとますます入れてもらえない理由が分からない。
しかし、食べた後に唇ぺろって舐めるのめちゃくちゃセクシーだな…!
興奮しちゃうじゃないの!
私は思っていることを顔に出さないように、ジト目でれい君を見ながら咀嚼を続ける。
このままでは赤いウインナーはお弁当箱ではなく、私の胃袋にすべておさまってしまう。
もう、こうなったら菜箸を取り上げるしかない。
速さでは勝てそうにない為、何か他の事に意識が向かうようにしなくては……そう考えて私はれい君に声をかける。
もちろん、口は手で隠したまま。
「あ、れい君!そろそろゆで卵いいんじゃないかな!?」
「ああ、そうですね」
れい君がちらりと後ろの鍋に目を向けた瞬間に、れい君の持っている菜箸へと手を伸ばした。
しかし、しっかり持っている為か菜箸を奪い取ることができない。
変なところで握力発揮しないで!と心の中で叫ぶ。
両手で奪い取ろうとしたが、私が菜箸を抜き取るよりも早くれい君の左手が動いた。
「ひゃあっ!」
私の両手はいとも簡単にれい君の左手につかまってしまった。
さらに私の頭の上で拘束された…!
あまりに鮮やかな手口に思わず感心してしまった。
「……おおう…」
「残念でしたね、権兵衛さん」
「れ…れい君………は、離してください…」
「ダメです」
にっこりと拒否され、菜箸には赤いウインナーがスタンバイされている。
ああ、もうダメ…食べるしかないのか!
とうか、この体制がダメだ!
強引に迫られてるみたいで鼻血出そう…!
せめてもの抵抗として顔はそっぽ向くことにした。
そんな私を見てれい君は苦笑している。
いやいや、苦笑したいのは私の方だよ?
ちらりとれい君を見やれば、苦笑しているが、何か楽しそう。
今までのやり取りと食べてしまった赤いウインナーの数を思い出し、諦めることにした。
もう半分食べちゃったわ。
そして目があったら、名前を呼ばれてしまった。
「権兵衛さん」
「はぁー……分かった、私の負けですー。
もう、赤いウインナーは入れなくていいよー」
「じゃあ、他のおかずを入れますね」
「はぁい……でも、どうして入れちゃダメだったの?」
「それは……」
れい君は私の手の拘束を解くと、視線を逸らし、自分の口元を抑えている。
目元しか見えないが、少し困っているような顔をしている。
……理由は言えないってことかな?
それとも、言いにくいこととか……?
私は残っている赤いウインナーを胃袋におさめながら考える。
最後の一つを眺めながら、ハッとした。
もしかして、れい君……。
「………ごめん、れい君…!
私、気が付かなくて…!」
「……え?権兵衛さん?」
「そうだよね……言いにくかったよね……でも、全然、言ってくれていいからね!」
「………何を、ですか…?」
れい君は少し緊張した様子で、私をじっと見てきた。
「次に赤いウインナー入れる時は、ちゃんとタコさんにするから!!」
今回の赤いウインナーは切れ込み入れただけだったからダメだったんだな。
まぁ、なかなか言えないよね、大人になってタコさんウインナーが良かった、なんて。
ちょっと意外な気もするけど、別にいいと思うよ、悪くない悪くない。
ギャップ萌だね。
うんうんと頷いているとれい君がすかさず突っ込んできた。
「いえ、タコにしてもダメです」
「え……じゃあ、カニさん?」
「カニもダメですよ」
「ええ…?」
私の不満げな声を聞いて、れい君はクスクスと笑っている。
タコでもカニでもないとなると………後はさ、色しかなくなっちゃわない?
でも、それはないはずだよね。
れい君は……安室さんでもバーボンでも降谷さんでもないはずなのに。
それなのに……心の何処かで、否定していた可能性が浮上するのを感じている。
あなたは一体誰なの?