大きなあなたと
あなたの名前は?
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ドサッという音と共に、背中に軽い衝撃を受けて目が覚めた。
カーテンの隙間から光が差し込み、もう、日が昇っていることが分かる。
そして、私の視界には逆さになった部屋が見えている。
そう、ベッドから器用に上半身だけ落ちたのだ。
何故…と思いつつも、夢の中で見た光景を思い出す。
ああ、そうだ、松田さんのびっくり箱のせいで落ちたんだ…。
人にせいにするのは良くない…と思ったが、いや、完全にこれは松田さんのせいだと言いたい。
次に会った時には文句の一つでも言ってやりたい。
いや、言う。
文句言ってやる。
逢えるかわからないけれど…と思いながら、私の夢ならいつかは逢えるだろうとも思った。
ずるずると布団を巻き込みながら、床に転がる。
変な体制になっていた割に、何処も痛めていないようで安堵の息が漏れた。
「んー………今、何時…」
目覚ましをかけずに寝てしまったことはしっかりと思い出せた。
アラームをセットする前に寝落ちしたんだ。
起き上がり枕元に置いてある時計に目をやる。
「……わぉ、8時過ぎ……」
れい君が来てからの私にしてはめちゃくちゃ寝坊である。
そう言えば、昨日の夜、朝ごはんの仕込みもしなかった。
いろいろ準備不足であることに気付いて朝からため息が漏れたが、仕方がないので開き直ることにした。
れい君はもう大人だし、料理も好きみたいだから、私が作ってなくても勝手に作って食べてくれるだろう。
うん、家事はやらせてほしいって言ってたしな。
私は、腕を組みながらうんうんと自分を納得させるために何度か頷いた。
部屋のドアをそっと開けて、リビングの様子を窺う。
れい君は起きているようで布団が綺麗に畳んであった。
それと同時に、すごく良い匂いが漂っている。
キッチンの方を見ると、れい君が料理中なのが分かった。
遠くからでも手際の良さが分かる。
それにしても、様になる……。
……ここはポアロだったかな?
思わず梓さんもいないかしらとキョロキョロしてしまった私は、はたから見たらちょっとおかしい人に見えたと思う。
そして考えなおす。
そう、安室さんに激似だけど、あれは安室さんではない。
あれはれい君、うちの子のれい君だ。
ぶんぶんと首を振っていると、れい君が私に気付いたようで声をかけてきた。
「おはようございます、権兵衛さん」
「……おはよ」
「朝ごはん出来てますから、顔洗ってきてくださいね」
「…はーい」
こそこそとする必要はなかったのだが、何となくこそこそしてしまった。
別にれい君より早起きしないといけないわけじゃないけれど、いつもより寝坊してしまったことが申し訳ない。
しかし、寝起きでれい君のにこやかな笑顔は実にときめきます。
身支度を済ませ、再びリビングに行くと、すでにテーブルに朝食がセッティングされていた。
いたせりつくせりとはこのことか。
「わぁ…!」
「権兵衛さんの口に合うといいんですが」
「見た目でわかるよ、絶対美味しいって」
「ありがとうございます、じゃあ、いただきましょう」
「はーい……って、れい君もまだ食べてなかったの?」
私の向かいに自分の分を並べているれい君にハッとする。
もしや、私が起きるの待っててくれたの?
………なんて良い子…!
いつ起きてくるかわからない私に気を遣わなくてもいいんだよ、なんて思いつつも、待っててくれたことを嬉しくも思う。
「先に食べててくれても良かったのに…なんか待たせちゃってごめんね?」
「大丈夫ですよ、僕もいつもより起きたのが遅かったので。
それに、権兵衛さんも僕が起きて来るの待っててくれましたよね」
「え?ああ、そうだね…まぁ、前はれい君が子どもだったから。
一人で食べるご飯もいいけど、誰かと一緒に食べた方が美味しいし楽しいからね」
「………そうですね」
「………れい君?どうかした?」
「いえ……なんでもないですよ」
何故か少しだけ困ったように眉を下げたれい君。
何か変なことを言っただろうか?
私が不思議に思いつつ、名前を呼ぶと、先程の表情は見間違いだったのだろうかと思うくらい穏やかな顔をしていた。
何となく心に引っかかるものがあるが、目の前のお料理が冷めてしまってはもったいない。
温かいうちに食べましょう。
二人で手を合わせ「いただきます」と挨拶をする。
見た目の通り、れい君が作ってくれたお料理はとても美味しかった。
私が作るより美味しいんじゃないの?と少し複雑な気持ちになったが、私は別に料理が好きっていうわけではないから仕方がないとも思う。
あ、美味しいものを食べるのは大好きだけど。
れい君が作ったオムレツを頬張る。
まるでお店で食べるオムレツみたいにふわふわでとろとろで美味しくって、思わず手足をジタバタさせてしまった。
「んー!!美味ひい……」
「口にあったようで良かったです」
「うん、毎日食べたい………はぁ、好き」
「……………………オムレツが、ですよね?」
「ん?うん、あ、でも、オムレツだけじゃなくて、れい君のお料理もっといろいろ食べたい」
「そういってもらえると作り甲斐がありますね」
美味しくて楽しい食事が終わり、二人で「ごちそうさまでした」と挨拶をして食器の片づけをする。
作ってもらったからお皿は洗おうと腕まくりをする。
お皿洗いもれい君がやると申し出てくれたが、寝坊した上に何もしないのは家主として……あ、母、いや姉として申し訳ない。
朝食は作ってもらったかられい君は休んでて、と言ったが、どうも動いていたいようでお皿の片づけを申し出てくれた。
せっかくの申し出を断るのもあれなので、私が洗ったお皿をれい君が拭いていくという流れで落ち着くこととなった。
キッチンに二人で並んで食後の片付けをしていると、れい君が思い出したように話し出す。
「そういえば…いい夢は見られましたか?」
「む……?」
お皿を洗いながられい君の方を向くと、実に楽し気にニコニコしている。
これは……どんな答えを期待しているのか。
嘘でも「破廉恥な夢見ました」って言った方がいいのか?
そもそもあれは……いい夢?
まぁ、悪い夢じゃないけど。
私は少し考える。
流石に萩原さんたちの名前を言うわけにはいかないだろう。
目の前にいるのはれい君であって降谷さんではないはずだけど、言うのははばかられる。
「うーんと……イケメン4人と戯れて、最後は悪戯される夢」
「……………はい?」
「え?だからイケメン4人と戯れて、いたず…ら………」
割とはっきり答えたつもりだったが、れい君が聞き返してきた。
不思議に思い、同じことを二度言いながら、途中でれい君の方を見る。
見るんじゃなかった。
何故かわからないけど、笑顔なのに黒いオーラが見える。
私はいつからオーラが見えるように?
いや、それよりもめちゃくちゃ良い笑顔なのに怒ってるのが分かるの怖い…!
なんで!?私、怒られるようなこと言った!?
たらりと嫌な汗が流れる。
れい君から距離をとるように一歩後ずさったが、手遅れだった。
私が回れ右しようとした瞬間を見逃さなかったれい君にがっつり両肩を掴まれた。
「ひぃ…!」
「………権兵衛さん、もう少し具体的に話して貰いましょうか…」
「はひ……」
その後、私は正座させられ、夢の内容を問い詰められた。
もちろん、登場人物の名前は死守したけれど、まるで取り調べのような状況に悪いことをした気分になった。
途中でれい君の機嫌は直っていたが、「日本語は正しく使いましょう」とか意味わからないこと言われた。
解せぬ。