大きなあなたと
あなたの名前は?
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ショッピングからの帰りの車でれい君からお花見のお誘いを受けた。
以前した約束をれい君が覚えてくれていたことがとても嬉しかった。
私にしてみれば、少し前の約束だけれど、れい君からしたら3年も経っているんだから忘れてても仕方がないと思っていたのに。
まぁ、今の私には桜よりもれい君を見ている方が満たされるけれど。
これがお花見じゃなくても私はきっと喜んだだろう。
だって、れい君が誘ってくれたんだからね!
遠足の前日だってこんなに喜ばないんだからね!
お風呂からあがってからも私の気持ちは高いままだった。
パズルをやりながら、桜と名のつく桜ソングを歌いまくっていた。
ちなみに今日は私が先にお風呂に入った。
れい君が夕食後のお皿洗いを申し出たため、お任せすることにしたからだ。
その間に私はお風呂を済ませてきたということである。
そして今はれい君がお風呂に入っているという状況だ。
パズルはれい君が来てから進むのがとても速い。
いつの間にかだいぶ完成に近づいていた。
ひとつのピースを持ったまま当てはまりそうなところを探していたが、はまる部分が無い。
「んんー?ここじゃないかぁ」
「こっちだと思いますよ」
「ひえっ!?」
真後ろから声がしたと思ったら、後ろかられい君の手が伸びてきて、パズルがはまるであろう場所を指さしていた。
私はと言えば、突然の声に驚いて椅子ごと後ろにひっくり返りそうになった。
しかし、ちょうどれい君が居たために、ひっくり返らずにすんだ。
危ないところだった。
後ろからいきなりいい声でしゃべらないでほしい。
切実に。
いや、そもそも私が壁側に背を向けて、部屋全体を見渡せる場所にいたらいいのか?
いやいや、自分の家なんだから好きな場所に居ていいはず。
れい君が教えてくれた場所にパズルを持っていくと、ぴたりとはまった。
ドキドキしている心臓を抑えながら、れい君の方を向く。
「びっくりしたよ…いつの間に後ろに…」
「驚かせちゃいましたか?
まぁ、権兵衛さんは歌ってたから気付かなかったみたいですけど」
「れい君は気配消し過ぎだよ!
何なの、職業忍者なの?」
「職業忍者って……まぁ、似たようなことしてますけど」
「……え?ほんとに忍者?」
「忍者ではないですけどね」
忍者と似たようなことする仕事ってなんだよ、と思いながらも聞いたところで教えてくれないだろうから、ジト目で見やる。
れい君はそんな私を見て、小さく笑った。
どうやら怖くないらしい。
まぁ、自分でも怖いとは思ってないから仕方がない。
それを隠そうともしないれい君は、私に気を許し過ぎやしないか?
嬉しいけど。
「それにしても…知らない歌ばっかりですね」
「そうなの?」
「ええ…似ている部分というか、同じ場所や物が存在しているわりに、歌には共通項がないのか…」
「うーん……」
「でも、有名な絵画や小説は僕が居た世界と同じものがありましたよ。
小説に至ってはタイトルと作者が同じなだけなのか、内容を確かめたわけではないので定かではありませんが」
「有名なものは同じ……じゃあ、昔からあるようなものとか?」
私はうーんと腕組みをして考えてみる。
昔からあるような歌って言うと何だろう?
私はふっと思い浮かんだフレーズを口に出す。
さくらさくら、と昔からある曲ではないだろうか、これは。
ちょっと音楽の授業みたいだなぁ、と思いながら歌っているとれい君は目をぱちくりさせている。
その顔可愛いです!
「さくらさくらですね」
「あ、れい君も知ってる?」
「ええ、歌詞も同じようなので…きっと同じものなんでしょうね」
「なるほど…なんか不思議」
「え?」
「違う世界だけど、重なってるところがあるんだね」
「……そうですね」
私の言葉に複雑そうな顔をするれい君。
その表情の裏には何か思うところがあるのかもしれない。
もしかして…まだ一日くらいしか経ってないけど、ホームシックかな…?
また別の世界に行っちゃうなんて考えもしなかっただろうし。
いっそのこと、全く別の世界なら考える暇もなかっただろうけど、似てるところがあるっていうのはちょっと辛いのかもしれない。
私は立ち上がってソファに移動する。
そんな私を不思議そうに目で追ったれい君に手招きをして、隣に座ってもらう。
「れい君、こっちこっち」
「何ですか?」
「ん、頭乗せて」
「…………はい?」
私は頭をここに乗せろと言わんばかりにぽんぽんと自分の太ももを叩く。
れい君はそれを見て、ピシリと動きを止めた。
「……権兵衛さん、それはどう考えても膝枕にしかならないと思うんですが…」
「うん、膝枕」
「………………」
「…嫌?」
「嫌というか…何でそういうことになったんだろうって思ってます」
「うーん……今、私は、れい君をとても甘やかしたくなったから」
具体的な理由なんてないけれど、ただよしよしってしてあげたくなった。
たまには子どもみたいに甘やかされてもいいんじゃない?
れい君はうちの子だし。
れい君はと言えば、口を開けて絶句していた。
珍しい表情だな。
そんなに嫌なら無理にとは言わないけど…と思いながら、ハッとする。
「はっ……もしかしたらこういうことしてくれる彼女さんが居るとか!?
さすがにそれは彼女さんに申し訳ないから、やっぱりやめとこうか…」
「……彼女はいないので、大丈夫です」
「あ、じゃあ、奥さんが」
「いません」
「じゃあ……する?」
「………はぁ…」
「ん?」
れい君は深いため息を吐き、片手で顔を覆って、そっぽ向いてしまった。
しかし、明確な拒絶もされていないので、両手をれい君の方に広げたまま待ってみることにした。
しばらくそうしていると、れい君は口元を片手で覆ったまま、ちらりとこちらを見てきた。
ちょっと迷ってるような視線に、私は小さく笑う。
「ほら、いらっしゃいな、れい君」
れい君はしばらく私の顔をじっと見ていたが、はぁと深いため息を吐いて横向きに寝転がってきた。
れい君は目を閉じたまま少し拗ねたように「他の人にこういうことしないでくださいね?」と言ってきた。
前にも言われた台詞だな…と思いつつも「はーい」と返事をして、れい君の頭を撫でる。
少しでもれい君の気持ちが軽くなりますように。
それからまた絶対に元の世界に戻れるから大丈夫だよ、という気持ちを込める。
れい君専属の魔法使いに出来る精一杯の魔法。
子どもだけじゃなくて大人の君にも届きますように。