大きなあなたと
あなたの名前は?
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ピピピ…ピピピ…と規則的な電子音が鳴る。
もう少し眠っていたいような気がするけど、頭上で鳴る音がうるさ過ぎる。
私は手だけを頭上に伸ばし、音源を探す。
音のする方へ手を伸ばして右へ左へ動かしてみるが、手に何も触れることはなかった。
どうやら手の届かないところにあるらしい。
その間も規則的な電子音はなり続けている。
仕方がないので、むくりと起き上がり、目覚まし時計の場所を確認して止める。
ベッドに座り込んだまま、しばしぼんやりとする。
二度寝しちゃおうかな…なんてことを考えもしたが、昨日の出来事がよみがえり、首を横に振って二度寝を頭から追い出した。
「そうだ……れい君が居るんだった…」
私だけなら二度寝してもかまわないが、れい君が居るからそれはダメだ。
朝ごはんの準備をしなくては。
私はあくびをしながら、ベッドから降りて部屋の扉を開けようとする。
ドアをまわしたところでガチャっと音がして、鍵がかかっていることに気付いた。
普段は鍵なんてしてないのに何で鍵…と思ったが、昨日、れい君に言われて閉めたことを思い出した。
結構、大きな音がしたから、れい君を起こしてしまっただろうか?そんなことを思いながら、そっとドアを開ける。
きょろきょろしながら部屋の中を見て、れい君が寝ている場所を確認する。
足音を立てないように近くまで行って、起こしていないか確認をする。
こちらから顔は良く見えないが、多分、寝ているような気がする。
ほっと息をついて、私は、身支度を整えるために顔を洗いに行くことにした。
着替えもさっさと済ませ、朝ごはんの準備を始める。
おかずは目玉焼きの予定ではあるが、これはれい君が起きてから焼き始めようかな、と思って、れい君の寝ている方を確認した。
するとれい君が起きていたようで布団を畳んでいた。
「あ、おはようございまーす」
「おはようございます、相変わらず権兵衛さん、起きるのが早いですね」
「そういうれい君はいつもより早いですねぇ」
「そうですね」
れい君はそう言いながらキッチンへやってきた。
どうやら身支度ももう終わらせていたようだ。
気配なかったぞ、いつの間に。
不思議に思っていると、「手伝いますね」とフライパンを手にした。
まだ何を作るか伝えていないのに、れい君はフライパンと卵を手にして目玉焼きを作り始めた。
私は目を瞬かせた。
「えっ……何で目玉焼きだってわかったんですか?」
「ふふ、どうしてだと思いますか?」
「えー……わからないから聞いたのに…」
「少しは考えてみてください」
「うーん……」
れい君はなんだかとても楽しそうに私に考えるように言ってきた。
私はまだいまいち働いていない頭をフル回転させて考えてみるものの、全然わからない。
うんうん唸っている間に、れい君は目玉焼きを完成させていた。
「権兵衛さん、お皿はどれを使いますか?」
「…え?
あ、えっと、こっちの棚のヤツを…」
そう言えば、お皿はまだ出していなかったな、と思い、棚に入っているお皿を出そうとする。
棚を開けて、手を伸ばして少し高い位置のお皿をとる。
お皿を持ち上げようとすると、後ろから伸びてきた手にお皿を持っていかれてしまった。
「およ?」
「高いところのは僕が出しますね」
「……ありがとうございます?」
「どういたしまして」
振り向けば、れい君がすごく嬉しそうな顔をしている。
一体、何が嬉しかったのかわからないが…まぁ、喜んでいるようなので何よりです。
れい君が目玉焼きをお皿に盛る様子を眺めていた。
やっぱり、大人と子どもじゃ全然違うなぁ。
そんなことを思いながら、ふっと思ったことを口にしていた。
「そういえば、れい君」
「目玉焼きの答えはわかりましたか?」
「あ…そっちは全然わかんないです…。
じゃなくて、聞きたいことがあるんですけど」
「……僕に答えられることであれば」
お皿をテーブルに運びながら、れい君はそう言った。
一度だけ私の方を見たが、私にはれい君が何を考えているのかわからなかった。
でも、もしかしたら答えられないこともあるってことだよね。
もしかしたら私が聞きたいことは答えられない、もしくは答えたくないことかもしれない、と何となく思う。
私がお味噌汁とご飯をよそい、それをれい君がテーブルに運んでいく。
「……“れい君”って呼んでて良いんですかね?」
「他に呼びたい名前でも?」
「うーん、“れい君”っていうのは私が勝手につけた名前だし……今は“れい君”っていうか“れいさん”って感じだし?
それか…ちゃんと名前で呼んだ方がいいのかなぁ…って」
「………権兵衛さんの好きなように呼んでもらえればいいですよ」
「………そっか……」
どうしても名前は教えてもらえないようだ。
好きなように呼んでいいなんて……とんでもないあだ名でもつけてやろうかと一瞬思った。
前の時はれい君が記憶喪失だと思ってたから、それでも良かった。
記憶喪失じゃないと分かってからも、もう“れい君”という呼び方で定着していたから、本名も教えてもらえなくても特に問題はなかった。
今だって本名じゃないとダメ、だなんて思ってはいないけれど、私の中で“れい君”はあの小さな子どもの姿なのだ。
同じ人だけど、違う気がしてしまう。
難しいなぁ…なんて思う。
それと同時に、どうして名前を教えてくれないのだろう、とも思う。
少し寂しい気持ちになってしまったが、慌てて気持ちを立て直す。
もしかしたられい君の世界では、簡単に名前を教えたりしないのかもしれない。
ほら、コナンくんとか安室さんとかみたいに偽名で過ごさないといけない状況にあるとか。
そんなことを考えてふっと、一つの考えに思い至る。
……本当に安室さん…いや、降谷零って名前なのではないだろうか。
見た目も声もそっくりなんだから…名前が一緒でもおかしくない。
きっと前の時も調べたはず…履歴はしっかり消されていたから確実とは言えないけれど、私だったら調べる。
自分の居た世界が本とかになっていたら。
だからこそ、名前もどんなことをしているのかも、言えないのでは…。
彼が『名探偵コナン』の世界の人だったとしたら……そこまで考えて、ないないと否定する。
うん、きっと違う。
そう思わないと私は彼が子どもの姿の時にとんでもなく恥ずかしい台詞を言った気がする。
それが本人に直接言ってたってことになったら…笑えない…!
これはなしだ!
別の案としては、ほら、良くファンタジーものとかでも真名は隠してたりするじゃない!
それと同じかもしれない…!
そう思っておこう。
話をしている間にテーブルは朝食のセッティングがすんでいた。
食卓について二人でいただきますをする。
私は心の動揺を悟られないように、別の話題を振ることにした。
「そういえば、れい君は何歳なんですか?」
「28歳ですね」
「……………」
「権兵衛さんは」
「可愛い顔してるとは思ったけど、私より年下だったんですね…若いネー」
「……そんなに変わらないんじゃないですか?」
「そうね、数年の違いだけど……十の位は違ってますけどね…」
名前教えてくれないよりもこっちの方が痛いわ…!
するとれい君から思いがけない言葉を貰うことになった。
「じゃあ、前みたいに喋ってもらえますか?」
「……ん?」
「意識的に変えてるんだと思ったんですけど……違いましたか?」
「……何のことですか?」
「それです、言葉遣い」
「……一応、大人として?」
敬語までは行かないが、丁寧語に直してたのはあたりだ。
すごく意識して、と言うわけではないが、大人として?
でも、れい君にはそれが嫌だったみたいだ。
れい君はふっと小さく笑う。
「でも、れい君もそうだし…」
「僕はもともとなので…子どもだった時もこれだったでしょう?」
「う……」
「それに僕の方が年下なわけですし」
「うー………」
「ね、権兵衛さん?」
「……………」
にっこりと笑顔を向けられる。
あれ、笑顔なのになんか圧力感じるのはイケメンだからかな?それとも気のせいかな?
可笑しい、なんか蛇に睨まれた蛙の気分。
あ、もしかして良い歳の男性に「可愛い顔」なんて言ったのがいけなかったのかな!?
触れちゃいけないところだった!?
断る為の理由を持ち合わせていない私は、「はい」と答えるしかなかった。
れい君は満足そうな顔をしてご飯食べている。
それだけでなんか、いいか…と思ってしまう私は、子どもれい君だけでなく、大人れい君にも甘いようだ。
仕方がない…こうなってしまっては、新たな脳内設定を作るしかない。
歳下だということなので、このままれい君と呼ばせてもらうことにしよう。
で、丁寧語の使用頻度も落とさねばならない…あ、そうだ。
れい君の事を弟だと思うことにしよう!
イケメンの可愛い弟…!いい!
「れい君!
私の事はお姉ちゃんだと思って…!」
「母の次は姉ですか…」
「あ、姉さんでもいいし…姉貴とかでも…!!」
「…………」
れい君は呆れた顔して私を見てきた。
大人にその視線おくられるとさすがに辛いっ!!
「この後は出掛けるんでしたよね?
遊んでないでさっさと済ませちゃいましょう」
「ハイ」
無視されました。
弟(仮)の対応が冷たくて、お姉ちゃん悲しい。