大きなあなたと
あなたの名前は?
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布団を運び込んだ権兵衛さんはふっと時計に目をやり、ハッとしたように僕に声をかける。
「あ、れい君、ねるじか…………んじゃないねー…」
「……………そうですね、まだ起きてます」
「ハイ」
途中まで言いかけたが、僕の顔を見て気まずそうに視線をそらした。
そんな様子に僕は苦笑する。
子どもの時は就寝時間が決まっていた。
そのままの癖で言ってしまったんだろう。
権兵衛さんは僕の返事を聞いた後、ちょっと遠い目をしていたが、そのうち、うんうんと首を縦に振り始めた。
どうしたのかと眺めていると、そのままキッチンへ行ってしまった。
対面式のキッチンなため、権兵衛さんの様子はこの場からでもよく見える。
位置的に炊飯器の準備をしてから、冷蔵庫を開けてざっと中身を確認すると手を組んで考えるしぐさをする。
きっと明日の朝食の事を考えているのだろう。
そう言えば、こういう姿は初めて見る。
前の時は就寝時間が9時だったため、権兵衛さんが翌日の準備をしているところは目にすることができなかった。
ちょこまかと動き回る姿は小動物を思わせるようで、見ていて飽きない。
なんというか、可愛い。
行動もそうだが、何を考えているのか表情もくるくる変わるところが、僕の周りにはいないタイプだと思う。
くるりと振り向いた権兵衛さんと目があった。
僕が見ていたとは思っていなかったようで、驚いたようだった。
「おおう…」
「どうかしましたか?」
「ううん……えっと、れい君、明日は買い物に出かけるつもりだから、そのつもりでいてくださいね」
「わかりました、時間は?」
「うーん、とりあえず、午前中に出掛けられればいいかなぁって思っております。
あ、でも…朝はゆっくりしたいと思います」
「準備ができ次第、という感じですね」
「はい」
朝食の事と明日の予定を考えていたらしい。
伝えることを伝え終わると権兵衛さんの足は寝室に向かっている。
扉の前まで来ると僕の方を向いて「おやすみなさい」と一礼をする。
流石に今日の出来事は疲れたのだろうか、前の時は日が変わる前くらいにベッドに入っていたと思う。
もしくは彼女なりの気遣いもあるかもしれない。
少し考えていると権兵衛さんが首を傾げて僕を見ていた。
もしかしたら考え過ぎだったかもしれないな、と苦笑する。
「すみません、何でもないです」
「そう?」
「おやすみなさい、権兵衛さん」
「うん、おやすみなさい」
ゆるゆると柔らかい笑みを浮かべる権兵衛さん。
少しだけ悪戯心で、扉が閉まる直前に再び権兵衛さんの名前を呼んで引き留めた。
「権兵衛さん」
「ん?」
閉めようとした扉から顔だけを覗かせて、何?という顔をしている。
いちいち反応してくれる権兵衛さんに、小さく笑ってしまった。
心のうちに隠した本音は見つからないように、何でもないように声をかける。
「寝室の鍵、一応、閉めてくださいね?」
「鍵…」
きょとんとした様子で、僕の言った言葉を繰り返す。
途中で何かに気付いたようで、ははは、と乾いた笑いが漏れていたが、きっと僕が思っていることとは別の事を考えたのだろう。
はっきり言わないと伝わらないらしい。
少しだけ目を細め、権兵衛さんを見つめながら話す。
「権兵衛さんの嫌がることはしないつもりですが……僕も、一応、男なので」
「…………はぁい」
今度は僕が伝えたいことがちゃんと伝わったようで、権兵衛さんの返事は少し照れたような響きになっていた。
照れ隠しで子どものような返事だったが、それでも、ちゃんと意識してもらえるのが嬉しくて思わず口元が緩んだ。
権兵衛さんはそのままパタンと扉を閉じた。
まだ眠くはないが、僕も今日は早いところ寝ることにした。
元の世界だったらこんなにたっぷりと睡眠時間を確保できることは珍しいだろうし、いつ戻っても大丈夫なように体調だけは整えておかなくては。
布団を適当なところに敷いて、スマホに手を伸ばす。
外部と連絡を取る手段となるものは使えないが、時計は正常なようなので目覚ましをセットする。
権兵衛さんが起きてくる時間に合わせた方がいいだろう。
取り敢えず、前と変わっていなければ、6時頃に権兵衛さんの目覚まし時計はアラームが鳴るだろう。
それくらいにこちらもセットしておく。
これで権兵衛さんの起床時間が分かると有り難いんだが。
いつもの流れで服を脱ぎかけたが、少し考えて脱ぐのをやめる。
流石に人の家で裸で寝るわけにはいかないな…。
そんなことを思いながら、布団に潜り込んだ。