大きなあなたと
あなたの名前は?
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根付とセットのようにつけられているガラス玉を見ていたが、特に変化はないようだった。
それをしまうと、部屋の中を見渡す。
最後の日に少しだけ元の姿に戻った時にも見た光景が思い出される。
こちらの世界では3日しか経っていないということだったので、そんなに変わっているところはない。
テーブルに広げられたパズルもまだ完成していないようだ。
僕が最後に見た時より少しは進んでいるようだが、完成にはまだ至らない。
まぁ、ほとんど僕がやっていたようなものだから仕方ないか。
苦戦しながら少しずつ進めていたであろう権兵衛さんの姿を想像して、小さく笑う。
そして二人で作った貝殻のフォトフレームに目をやる。
そこには写真が入れられていた。
僕と権兵衛さんと撮った写真だ。
僕の表情はまぁ置いといて、権兵衛さんの満面の笑みに思わず笑ってしまった。
そう言えば、この時は写真を見せてもらえなかったっけ。
撮るだけ撮って満足した権兵衛さんはそうそうにお風呂に入ってしまったから、見そびれたんだった。
しばらく写真を見ていたが、パズルの方へと戻り、続きを始めた。
子どもの時には結構大きく感じたパズルも今では普通に見える。
首を大きく動かさなくても全体が見えて、移動しなくても手が届くため、スムーズに進んでいる。
集中していたら、扉が開く音がした。
「…お待たせしましたー」
「あ、お帰りなさい、権兵衛さん」
少し控えめに言う権兵衛さんに、小さく笑みがこぼれる。
権兵衛さんと目が合うと、権兵衛さんは急に扉にもたれかかった。
不思議に思って名前を呼べば、何故か苦し気になんでもないと言われた。
立ちくらみでもしたのだろうか?
そう思ったが、権兵衛さんはいつの間にローテーブルに移動してパシパシと机を叩いている。
何故わざわざローテーブルの方に…とも思ったが、ああ、僕が子どもだった時の癖なんだろうな、と苦笑する。
権兵衛さんに言われた場所に腰を下ろすと、権兵衛さんは真剣な顔をする。
一応、権兵衛さんが考えそうなことは考えてはみたが…聞いてみないことにはわからない。
「権兵衛さん」
「ちょっと待って。
まずは私に話をさせて」
「……わかりました」
きっとお風呂に入りながらいろいろ考えたのであろう。
権兵衛さんはうんうん唸り、言葉を選びながら話し始めた。
なんだか事務的な手続きしてるみたいな物言いに苦笑する。
ただ、内容は子どもだった時とさほど変わらないものだった。
流石にもう子どもではないので、自分のできることはさせてもらうつもりだ。
その申し出には権兵衛さんはきょとんとしたが、少し考えると洗濯以外は了承してくれた。
何かしていないといろいろと考えてしまいそうだしな。
それからまたパソコンをまた貸してほしいことも伝える。
権兵衛さんはそれに関しては何も考えていないようで、すぐに了承の返事がもらえた。
これで再び『名探偵コナン』についての情報を収集することができる。
まだこの漫画での年齢には至っていないが……3年経過していたら、何かしら関係あるものが出てきてはないだろうか…。
そんなことを考えていたら、すっと権兵衛さんが再び真剣な顔になる。
まだ何かあっただろうか、と首を傾げると少し視線を彷徨わせたのち、きりっとした表情をした。
「れい君……リビングで寝てもらってよろしいでしょうか…」
「………はい?」
「あの……さすがに、一緒にベッドでってのは…ね?」
言い始めは真面目に話していた権兵衛さんだったが、言葉を続けるうちにどんどん視線が彷徨い、声は小さくなっていった。
思わずポカンとして権兵衛さんを見つめてしまったが、権兵衛さんはそんな僕に気付いていない。
何故なら途中から両手で自分の顔を覆ってしまった。
「……も、もちろん、何にも起こらないとは思ってるんですけど…その…」
僕の返事がなかったからか、さらに言葉を続けた権兵衛さんだったが、耳まで真っ赤にしているのが分かる。
もちろん、同じベッドでなんて考えてはいなかったが…そんな風に言われると逆に恥ずかしいものがある。
ただ、先程まではこの姿でも頭を撫でられたりと子ども扱いだったため、少し嬉しくもある。
権兵衛さんも一応、人並みの警戒心があることへの安心と、僕の事を一人の男として意識してくれているということへの高揚感を感じていた。
思わずにやける口元を手で隠す。
幸い権兵衛さんはまだ両手で顔を覆っているため、見られてはいないのだが。
「もちろんです、権兵衛さんの嫌がることはしませんよ」
「……私も襲わないように気をつけます…」
「え」
「え?」
ちょっと待て。
僕を警戒しての事じゃなかったってことか?
思わずジト目で権兵衛さんを見ていると、指の隙間からこちらを覗いてきた。
もう顔の赤みは引いている。
権兵衛さんの照れるタイミングが謎過ぎる。
どちらかと言うと今の発言の方が照れるべきでは?
無言になっている僕を見て、何を思ったのか、少し慌てた権兵衛さん。
「気をつけるから!一応、れい君も気をつけてね!?」
「……………わかりました」
納得がいかないが、ここはにっこりと笑顔を返しておいた。
まぁ、襲えるものなら襲ってみろ、と言いたい。
そっちから手を出してくれるんなら、こっちも遠慮はしないんだが。
権兵衛さんは、ふうっと安心したように笑うと、軽い足取りで寝室へ向かっていった。
寝るにはまだ早い時間ではないだろうか、と思っていると何やらばさばさと大きな音と「おおうっ」と謎のうめき声がしていた。
後を追いかけようと腰を上げたところで、寝室から出てきた。
ただ、権兵衛さんの姿は足しか見えていない。
辛うじて両手で布団を抱えているのが分かったが、まるで布団が歩いてるようだった。
前もろくに見えていない状態だったが、勝手知ったる我が家とでもいう風にさっさと歩いている。
ソファの後ろに抱えていた布団を「よいしょ」と言いながら下ろした。
「権兵衛さん、それは?」
「ん?布団」
「いや、見ればわかるんですが…」
「だからお客様用のお布団」
じゃーんと効果音を自分でつけながら両手で布団を指さす。
うんうんと権兵衛さんは唸りながら話を続ける。
「れい君、背高いから、このソファじゃ小さいだろうし」
「ちょっと待ってください」
「どうしたの?」
「これ、いつからあったんですか」
「いつからって……ずっとあるよ。
友達が遊びに来た時とか使ってるから」
「………僕が来た時もあったってことですよね?」
「………あ」
僕が言わんとすることを察した権兵衛さんは、ハッとしたようにその場で固まった。
布団あったのなら、一緒のベッドで寝る必要はなかったのではないだろうか。
まぁ、確かに最初は戸惑ったが、権兵衛さんの謎の魔法で毎晩ぐっすりだったから、今となっては一緒でも問題はなかったが。
しかし、権兵衛さんの様子を見ていると、どうやら本気でこの布団の存在を忘れていたようだ。
困ったように笑うと権兵衛さんは「気付かなくてごめんね」と謝ってきた。
僕もこれ以上の追及はやめておくことにする。
どうせなら困った顔じゃなくて、笑ってる顔が見たいから。