小さなあなたと
あなたの名前は?
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れい君が帰ってしまった次の日、私はまたあの白い世界に来ていた。
前も後ろも右も左も、真っ白な世界。
何処へ進めばいいのか、相変わらずわからない。
まぁ、夢の中なんだけれど。
そして此処で会える人と言えば、一人だけ。
私はきょろきょろしながら、その人の名前を呼ぶ。
「萩原さーん」
「呼んだ?」
「わぁっ!」
いつも後ろから現れるから警戒していたのに、それでも驚いてしまった。
悔しい。
萩原さんは私の反応に苦笑している。
「権兵衛ちゃん、そろそろ慣れてくれると嬉しいんだけど」
「いや、わかってはいてもやっぱり吃驚しちゃいますよ」
萩原さんの言葉に出来ませんと首を横に振ってみせた。
そして、挙手をしながら萩原さんに別の話題を振る。
「あ、それよりも、れい君はちゃんと元の世界に戻れたんですか?」
私は一番聞きたかったことを萩原さんに聞いてみた。
私の家からはいなくなってしまったが、それが元の世界へ戻れたのか、はたまた別の場所に行ってしまったのか、私には判断ができない。
そもそも私の夢の中での返答だから、それがあっているのかも微妙なところだが…萩原さんなら何故かわかるような気がした。
私の質問を聞いて、萩原さんはゆるく笑った。
言葉にしなくてもその表情ですぐにれい君がちゃんと元の世界へ戻れたことが分かった。
「ああ、ちゃんと戻ってきたよ」
「良かった……それなら良かったです」
「うん、権兵衛ちゃんのおかげだね」
「私は何もしてませんよ?」
「ちゃんとゼロの世話してくれたでしょ」
まぁ、面倒は見たが、はっきり言って世界を渡る、みたいなことの手助けは何一つできていない。
うーん、と複雑な顔をしている私に萩原さんは苦笑しながら、前回のように頭をぽんぽんと撫でてきた。
「萩原さん?」
「あいつ、ちゃんと元の世界に戻ったよ。
ちょっと誤差で、爆弾が爆発する前に戻ったみたいだけど、まぁ、ありでしょって感じ?」
「いや、疑問形にされても?
すごく有りですけど。
だって、それってれい君が怪我しなくて済むかもしれないってことでしょ?」
「二つ目に気付けたらって話だけどね」
「………気付くように念じておきます…!」
「ははっ、しっかり念じといてやって」
「萩原さんも念じてくださいよ!」
私は一人で両手を前に出し、念をおくるポーズをとっている。
萩原さんはめっちゃ笑ってる。
失礼だな…イケメンだから許すけど…!
「んー…でもさ、ちょっと言いにくいんだけど…」
「何ですか?」
急に真剣な顔をした萩原さんに私はどきっとした。
まさか、念は届かないとか?
あんなに真剣に念じたのに!
それとも…何か別に良くないことでもあったのだろうか?
「二つ目の爆弾が爆発する前に戻っちゃったから……権兵衛ちゃんのこと、覚えてないかもしれないんだ」
何故か萩原さんがとても申し訳なさそうに言った。
「本当だったら、二つ目の爆発のあと、権兵衛ちゃんとこに行ってるだろ?
辻褄合わせる為なのか何なのかわかんないけど…まぁ、変な話、権兵衛ちゃんとの時間はなかったことになってるかもしれないんだ」
私とのことを覚えてないって?
思わずきょとんとしてしまったが、すぐにふふっと笑いが込み上げてきた。
「権兵衛ちゃん?」
「あははっ、なんだぁ、そんなことですか?」
「…ショックじゃない?」
「大丈夫ですよ、れい君が忘れちゃってても私はちゃんと覚えてますから!」
気遣うような萩原さんに私はにっこりと笑顔を作って見せる。
れい君は子どもだから、大人になったら子どもの頃の事なんてきっと忘れる。
それが早いか遅いかだけ。
私だって、いつまで覚えていられるかわからない。
でも、覚えている間は、責任をもって私がしっかり覚えてるつもりだから。
それに。
「もう、逢うことはないでしょうし…。
まぁ、また会うことになったとして…私の事忘れてるっていうんなら、また思い出作ればいいだけの話ですしね?」
「…権兵衛ちゃんのそういうとこ良いねぇ…。
ゼロは勿体ないことしたなぁ…」
「勿体ない?」
「こっちの話」
「私の夢なのに…また私にわからないことを言う…!」
「ははっ、思い通りにならない夢だねぇ?」
「全くです」
私の夢なのにどうしてこうも分からないことが多いんだか。
まぁ、夢だからってわかることが多いっていうのも変な話だけれど。
「……まぁ、今回は権兵衛ちゃんのおかげってことで、感謝してます」
「れい君に言われるならまだしも、何故萩原さんが…」
「同期代表で」
「なるほど」
「あ、それで納得してくれるんだ?」
可笑しそうに萩原さんは笑った。
ひとしきり笑うと、萩原さんは煙草を取り出した。
ふぅっと一息つく様子は…やっぱりカッコイイなぁ、と思う。
あまりにも凝視し過ぎたせいか、萩原さんは何かに気付いたように声をかけた。
「あ、煙草ダメだった?」
「え?夢の中だからご自由にどうぞ?」
「そりゃどうも…と言いたいとこだけど、そろそろお別れだな」
「そうなんですか?」
「そーなのよ…ちょっと寂しいけど。
まぁ、俺も権兵衛ちゃんに出逢えてよかったと思ってるよ」
「私もです。
というか、別にいつでも来てくれていいですよ、夢だし」
「そりゃそうだ。
それじゃあ、またなんかあった時は権兵衛ちゃんよろしく頼むよ」
「頼まれました!」
肩を揺らして笑う萩原さん。
萩原さんはお別れだと言ったけど、私はまた会えそうな気がしていた。
だって、私の夢なんだし。
笑顔で「またね」と手を振った。
Fin
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