小さなあなたと
あなたの名前は?
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ついに来てしまった、今日はれい君が元の世界へ帰るであろう日だ。
朝食を済ませた私たちは、パズルの完成を急いでいる。
そう、あの2000ピースの最難関パズルだ。
れい君のおかげで半分ほど進んではいるものの、なかなか時間がかかっている。
ここまで進んだのもほとんどれい君のおかげだと言ってもいいだろう。
私は役に立ってません…!
まぁ、完成しなかったらしなかったで、のんびりやってくつもりなんだけれどね。
パズルを進めながら、ぽつりぽつりと話をする。
「ねぇ、れい君」
「何ですか、権兵衛さん」
「事件に巻き込まれたって言ってたけど、どんな事件なの?」
「爆弾事件です」
「へー…爆弾……ん?爆弾?」
不穏な単語が聞こえましたけど?
爆弾って言いました?
私は思わずポカンと口を開けてしまっていたが、れい君はパズルに集中しているようで気にせず話をしている。
「一つ目は無事に止めることができたんですが、犯人がもう一つ隠していた爆弾に巻き込まれたってところですね」
「…………そうなんだ…」
「ああ、でも、二つ目は小さなものだったのでそこまで被害もなかったと思います」
「………へー……」
「でも、それが原因でここに来たんじゃないかとは思いますが……って、権兵衛さん?」
「…あ、ごめん、れい君があまりにも普通に話すものだから…ちょっとジェネレーションギャップ…じゃないな…異世界ギャップを感じてた」
「……そうですね、権兵衛さんは事件とは無関係な日々を過ごしてますしね」
「…え?なんかその言い方だと、れい君、結構事件に巻き込まれてるわけ?」
「…………まぁ、今回はたまたまです」
「妙な間が」
私が疑問に思ったことは図星だったのか、気まずそうな顔をした。
おいおい、コナン君の世界よりはマシだと思ってたのに、れい君の世界も物騒だな…!
れい君が元の世界に帰れることは喜ばしいが、そんな危険な世界だとは…確かに来た時、体傷だらけだったけど…!
一気に不安な気持ちが襲ってきた。
私はバッと立ち上がると、れい君が目を丸くしているのを横目に見つつ、自室に引っ込んだ。
確かあったはず。
持っていけるのかはわからないけれど、ないよりはマシでしょう。
目当ての物を見つけると再びれい君の元へ戻る。
れい君は私の方を見て、目を点にしている。
うん、いきなり意味不明な行動をした自覚はあるので見逃してほしいです。
「権兵衛さん?
どうしたんですか?」
「れい君、持っていけるかわからないけど、これ、あげる」
「………根付…?」
「そう、根付だけどお守りなの」
れい君の手にそっと乗せる。
れい君は根付をじっと見る。
「パワーストーンですね」
「そう、魔除けのね」
「でも、権兵衛さんのなんじゃないですか?」
「ううん、私よりも危険っぽい所で生きてるれい君に持っててほしいな。
まぁ、向こうの世界に持っていけるのかは謎なんだけど」
「………わかりました、ありがとうございます」
「私はもう一つあるし、ほら、これ」
私はスマホのイヤホンジャックにつけている根付をれい君に見せる。
れい君はじっと見ていたが、少し複雑そうな顔をした。
「これは魔除けじゃないですよね…?」
「そうね、今の私には魔除けじゃなく縁結びかなーって」
「………そう言えば、権兵衛さんって恋人とかいないんですか?」
「残念なことに……。
私に素敵な恋人か旦那様でもいたら、三人で家族ごっこが出来たのにねぇ?」
「やりませんよ……」
れい君が心底嫌そうな顔をした。
え、そんなに嫌がられるとなんか複雑だわ。
何故か不貞腐れているれい君を不思議に思いながら、パズルの続きをすることにした。
「れい君ったら、なんでそんな顔してるの」
「…別に何でもないです」
「なんでもないような顔じゃないんだけど…!」
いや、不貞腐れてる顔も可愛いんだけどね?
私がしつこかったのか、れい君は唇を尖らせながら、ぽつりと小さな声で言う。
「別に……権兵衛さんに恋人が居たら、こうやって過ごせなかったんじゃないかって思っただけです」
「え?どうして?」
「知らない子どもの世話より、好きな人と居た方がいいんじゃないですか?」
「れい君……」
れい君の発言をまとめると、つまり、ヤキモチ…!?
もし私に恋人が居たら、恋人の方を優先させるだろうから、こんな風に過ごせなかったと?
私、思っていたよりもれい君に好かれてるんだなぁ。
拗ねているれい君には悪いけど、嬉しくなって思わずにまにましてしまった。
私はパズルを並べる為に椅子の上に立っているれい君の後ろに回り込む。
私の行動を見て、振り返りながら怪訝そうな顔をするれい君
そんなれい君を後ろからそっと抱きしめる。
相変わらず照れ屋なれい君は慌てて、私の腕の中から抜け出そうとする。
そんなれい君に苦笑しながら、優しく名前を紡ぐ。
「れい君」
「………はい」
私がふざけているわけでないことが伝わったようで、大人しくなったれい君。
れい君の肩越しに顔を覗き込む。
「私に恋人が居たとしても、同じことをしたと思うよ?」
「………でも、恋人が嫌がったら?」
「そんな器の狭い恋人なんてこっちから願い下げよ?
目の前で困ってる子が居るのに、助けない大人はダメね」
「…………権兵衛さんの恋人になる人は大変ですね」
れい君が苦笑しながら言うもんだから、きょとんとしてしまった。
まぁ、確かに簡単に惚れたりはしないかな…あ、二次元ならすぐに惚れてるけど。
「あったり前よ、なんていったって私は魔法使いだからね。
そもそも攻略対象じゃないのよ、お姫様を攻略する方がよっぽど簡単だと思うなぁ。
魔法使いを攻略したいっていうんなら、ただの王子じゃスキル不足ね」
「どうやったら攻略できますか?」
「そうだねぇ………」
れい君の問いにうーんと考える。
特に設定があるわけじゃなく、思いついたことを言っただけなので攻略方法なんて考えていない。
しかし、れい君の期待に満ちた顔に、答えないわけにはいかない!と使命感が。
「何にでもなれる魔法使いをただの女の子にしちゃう魔法が使えるようになったら攻略できるかな?
そうなると…王子じゃなくて同業者だけどね…!
それか、甘い誘惑で魔法使いを堕落させる悪魔にでもならないとかしら?」
「手強いですね……」
「そうそう、だから諦めてお姫様を救っておけばいいのよ」
何故か真剣に考え込んでしまったれい君。
まぁ、これは例え話だから、実際にはどうなるのか全然わからないんだけどね。
それにしても何でれい君は、魔法使いを攻略する方法をこんなに熱心に聞いてくるのだろうか。
私のリアルな恋愛に関してはもう放っておいていいよ、れい君。
子どものれい君に心配されると余計にヤバいかなって思っちゃうよ…!
まだ思案中のれい君に苦笑しながら、こほんと咳払いをする。
そもそも攻略の話をしたかったわけじゃない。
本命はこっち、私はれい君に会えたこと本当に良かったと思ってる。
「私はこの約一週間、れい君が来たことで面倒だな、とか困ったな、なんて思ったことは一度もないよ。
そりゃあ、突然、知らない子が部屋に居た時はすごく吃驚はしたけどね。
れい君にとっては困った事態なのかもしれないけど、私はれい君に会えて、こうやって過ごせて、とても幸せだよ」
「権兵衛さん……」
れい君を抱きしめていた腕を解き、れい君の隣の椅子に腰かける。
私が座ったことで、れい君を見上げる形になった。
小さな両手を包み込んで、れい君の顔を見る。
「ありがとう、私の所に来てくれて」
心の底から、そう思ってる。