小さなあなたと
あなたの名前は?
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権兵衛さんに連れられて、海岸で貝殻を集めた。
少し離れたところで権兵衛さんも真剣な顔で貝殻を集めている。
一人では都合が悪いという理由を話してくれたが、想像上でもドングリを一人で拾う権兵衛さんはそんなに違和感がなかった。
今も貝殻を拾う権兵衛さんは別にシュールでもなんでもない。
真剣な顔で探しているのに、お目当ての貝殻を見つけると自然と口元が緩み、嬉しそうな顔をする。
思わずその表情に魅入ってしまう。
そして僕が見ていることに気付いた権兵衛さんが、さらに嬉しそうな顔をして手を振ってくる。
ああ、その顔をずっと見ていられたらいいのに。
叶わないことだとは思っているが、そう思ってしまった。
彼女といると自分が我儘になってる気がしてならない。
わかってる、それはあってはならないことだ。
この気持ちに蓋をしなくては、気付いてはいけない、そんなことを考えれば考えるとほど、意識してしまうし考えてしまう。
でも、それもあと数日のこと。
元の世界に戻ったら、逢うことすらできなくなる。
きっといつか忘れるのだろう。
少しだけ胸が痛むが、今の僕にはそれが最良だ。
「れい君、そっちはどんな感じ?」
「これくらい集めましたよ」
「おー、結構集まったね、じゃあ、これくらいでおしまいにしよっか。
貝殻集めは終わりにするけど、何かやりたいことある?
さすがに泳ぐのは無理だけど」
「………いえ、帰りましょう」
「れい君?」
「権兵衛さんが風邪引いたら大変ですから」
「んん?」
何故私が?とでも言いたげな権兵衛さんだったが、昼間は少し暑いくらいの気温も夕方になるにつれ少しずつ肌寒くなってきている。
すでに肌寒くなってきたのか権兵衛さんは自分の腕をさすっている。
無意識にそうしているようだったため、自分では気付いてないのだろう。
人の事に関しては敏感な彼女だが、自分のことに関しては鈍感と言うか後回しにしやすいようだ。
先程は権兵衛さんから繋いだ手を、今度は僕から繋ぐ。
一瞬、驚いた様子の権兵衛さんだったが、すぐにゆるゆると笑みを浮かべ、僕に合わせて歩き始めた。
帰り道は他愛のない話をして、来た道を帰る。
迷いなく進む僕を見て権兵衛さんは感心していた。
そんな様子に思わず苦笑してしまう。
これは権兵衛さんが僕を子どもだと思っているからだが、僕は子どもであれ大人であれ、記憶力は良い方だ。
嘘が吐けないタイプではないようだが、隠さなくても良いことは素直に表情に現れる権兵衛さん。
少しだけ、いつもと違う彼女が見たくなった。
ちょっとした好奇心から、朝は伝えなかった真実を口にしていた。
今の状況でなら、権兵衛さんの知っている降谷零とは結びつけないだろうと思いながら。
「権兵衛さん」
「なあに、れい君」
「さっきは言いませんでしたけど、僕、本当は大人なんですよ」
「………………大人?」
権兵衛さんは目をぱちぱちと瞬かせている。
僕のいう意味を考えているのか、それ以上の返事がない。
「れい君の世界ではみんなそのサイズが大人ってこと?」
「いえ、そうじゃないんですけど。
こっちの世界に来たら子どもになってたんです」
「………え、そういう体質とか?」
「そんなわけないじゃないですか、自分でも吃驚してます」
「…………」
黙り込んでしまった権兵衛さんは何を考えているのか。
どんな返事と表情返ってくるのかと少し緊張する。
もしや、何か勘付いてしまったか?
しかし、突如、きりっとした顔をして権兵衛さんが僕に目線を合わせしゃがみ、両肩に手を置いた。
「ごめんね、れい君。
ちょっと子ども扱いし過ぎてたみたいだね、私」
「……権兵衛さん?」
「うんうん、そうだよね、れい君は大人だよねぇ」
「……………」
あ、これは全然信じてないヤツだ。
これは完全に子ども扱いしないでくれっていう子どもを宥める大人の図だった。
しかも、そんなこと言うなんて可愛いって顔に書いてある。
隠そうともしない権兵衛さんに思わずジト目になってしまった。
そんな僕に気が付いた権兵衛さんだったが、笑いながら謝ってきた。
「ごめんごめん、急に大人宣言するから…ちょっとびっくりしちゃって。
でも……私の中ではまだまだ可愛い子どもなんだよねぇ…」
「…じゃあ、権兵衛さんはどうしたら僕が大人だって信じてくれますか?」
「そうだねぇ…」
うーん、と考えていた権兵衛さんはにやりと僕を見て笑う。
なんだか嫌な予感がして、距離を取ろうとしたが、その前に抱き上げられた。
「ちょっ!?権兵衛さんっ!?」
「ふふー、私に自分は大人って思わせたいんなら、こうやって私を軽々抱き上げられるようになる事ねー」
「……それ、絶対に僕ができないことわかっててやってますよね?」
「いやいや、れい君が大人になるころにはできるようになってるかも?」
嬉しそうに僕を抱っこする権兵衛さん。
早くおろして欲しいのだが、あまりにも嬉しそうな権兵衛さんに何も言えなくなっていた。
「それに……子どもの時間は短いんだから、もっと子どもらしくしてればいいんだよ」
優しい声色で呟かれた言葉に顔をあげると、ちゅっと頬に柔らかいものが当たる。
にんまりと笑う権兵衛さんと目が合って、思わず顔に熱が集まった。
「ふふー、やっぱりれい君にはまだまだ子どもでいてもらいます~」
「~~っ!!」
じたばたし始めた僕をさっさと地面におろすと、小走りになる権兵衛さん。
どうやら逃げるようだ。
「権兵衛さんっ!!」
「れい君が怒った~!きゃー!」
「どっちが子どもですかっ!?」
「あははっ!」
逃げる権兵衛さんを追いかけながら、思う。
時々、子どもみたいになるのは権兵衛さんの方なのに、と。
相変わらず今日も彼女に振り回されてしまった。
でも、悪くないと思う自分は重症だ。