小さなあなたと
あなたの名前は?
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今朝は、寝坊した。
まぁ、何か予定があるわけじゃないけれど、れい君が目を覚ます前に起きて朝ごはんの準備をするというミッションがクリアできなかった。
何を思ったか、私はれい君を抱き枕にしてしまったようで、目が覚めた時には腕の中でれい君が固まっていた。
どれくらいこうしていたのかわからないけど、れい君には不自由な思いをさせてしまったようだ。
そっと覗き込むと何かに耐えるようにきつく目をつぶっていたものだから、思わずにまにましてしまった。
何をしてても可愛い。
罪な男よの…。
馬鹿なことを考えていると顔を覗くために動いたことで私が起きたことに気付いたれい君が、私をジト目で睨んできた。
「おはよー、れーくん」
「おはようございます……目が覚めたんなら離してください…」
「うん、ぎゅーしちゃってごめんね?」
「……べつにいい、です」
ツンツンしてるけど、顔が赤いので可愛いとしか言えない。
ただ、可愛いと口にしたら、機嫌を損ねそうなので、取り敢えず謝っておいた。
そして、今日はれい君と一緒に朝ごはんを作ることにした。
お手伝いする気満々のれい君に苦笑する。
昼も夜も手伝ってくれてるのに、朝までお手伝いがしたいとか…本当にできた子だなぁ。
何もしなくてご飯出てくるんだったら、私はまだ寝てただろう。
今日の朝食はパンにした。
れい君にはサラダとトーストを手伝ってもらいながら、おかずを作る。
ベーコンエッグか、スクランブルエッグか、オムレツか…。
まぁ、どれでもいいか。
朝から手伝いができたことで上機嫌だったれい君に、さらにセロリのスープを出したら、セロリについてのうんちくが止まらなくなった。
あんまりにも饒舌に話すものだから、ポカンとしてしまった。
何というか……そんなところまで似せなくても…。
でも、楽しそうなれい君を見ていたら、自然と笑みがこぼれていた。
朝食後に、パズルをやり始めたれい君に声をかける。
「れい君、ちょっと良い?」
「何ですか、権兵衛さん」
「今日、警察行こうかと思うんだけど…」
「…はい?」
私の発言にきょとんとしているれい君に、言葉を選びながら伝える。
初日よりだいぶ慣れてきてくれてるとは思うけれど、今から話す内容は、突き放しているようにも聞こえてしまうかもしれない。
私にはそんなつもりはないが、子どものれい君にはどう聞こえるのかちょっと不安だ。
「初日に言ったじゃない?
怪我が治るまでは取り敢えずうちにって。
怪我はだいぶ良くなってきてるよね……そろそろかなぁって」
「…………」
「もちろん、れい君が此処に居たいって言ってくれるなら、居てくれてもいいよ。
ただ、自力で探すのには限界があるし……れい君の捜索願とか出されてないか、確認した方がいいかなって思うの」
「権兵衛さんは、僕が居たら迷惑ですか?」
「ううん、迷惑だったら最初から預かったりしないよ。
でも、れい君の願いを叶えるためには、届け出が出ているか確かめることは必要なことだと私は思ってるの」
れい君は何か考えていたが、真剣な顔で私を見た。
そしておもむろに、私にスマホを渡してきた。
「れい君?」
「それ、見てください」
言われた通り、れい君のスマホを見ると、日付が変だった。
私が首を傾げているのを見て、れい君は続ける。
「今から、信じられないような話をします。
僕自身も信じられないけれど、いろいろ考えてみるとそれしかないと思うので…信じてくれとは言いません。
ただ、聞いてくれますか?」
「………うん」
場所を移動して、ローテーブルを挟んで向かい合わせで座る。
真剣な顔のれい君に、こちらも息が詰まりそうになる。
「僕は、この世界の人間ではないと思います」
そこからの話は、まるで物語の中のような話だった。
れい君は前の場所では事件に巻き込まれた後、気が付いたら私の部屋に来てしまっていたこと。
この世界は似ているけど、ところどころ自分の居た世界とは違う部分があること。
スマホの日付が事件以前の物に戻り、メールでのやり取りが再び再現されていること。
それらの事を踏まえて、これが事件当日の日付になったら元の世界に帰れるのではないかと考えていること。
あと、記憶喪失ではないということ。
「信じられる話だとは思っていませんが…」
「……ううん、信じるよ」
「……権兵衛さん?」
「……そのスマホの件もそうだし、何より私の部屋に突然現れたっていうのが…別の世界から来たっていうんならあり得るかもーって。
どう考えても、人の部屋に知らない子ども置いていく意味が分からないし」
複雑そうな顔をしていたれい君を見ながら、苦笑する。
この間の、雨の日の会話を思い出す。
別の世界に行ったとしたら、あれは例え話だったけれど、すべて胸の中にしっくりと来た。
ただ子どもが事件に巻き込まれるってどんな世界だ。
ん?でもそれって似たようなものがあったような…ああ、コナン君だな。
まぁ、れい君の世界はそれより安全であることを心から願う。
「それじゃあ、警察に行ったところで捜索願なんて出てないよね」
「そうだと思います」
「……で、事件のあった日付になったら戻れるかも、なんだよね?
あと、何日くらいなの?」
「あと……今日を入れたら3日ですね」
「そっかぁ…」
れい君の話を聞きながら、少しだけ寂しい気持ちになる。
でも、寂しがってちゃいけない。
れい君の願いが叶うんだから、喜ばなくちゃ。
「あ、ねぇ、記憶喪失じゃないんなら、名前は?」
「……それは…」
「もしかして内緒?」
「すみません…」
「そっかぁ…まぁ、残念だけど、仕方ないねぇ」
本名は教えてもらえなかった。
残念だけど、もう『れい君』で私の中では定着してるから、いっか。
それにしても3日なんて…あっという間にお別れなんだなぁ。
あと3日、私がれい君にしてあげられることは何だろう?
考え込んでいた私は、れい君が真剣な顔をしてこっちを見ていることに気付かなかった。