小さなあなたと
あなたの名前は?
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ソファでうたた寝をしていた権兵衛さんをベッドに押しやり、戻ってベッドに入ると頭を撫でられた。
だいぶ眠いようで、間延びした返事がかえってくる。
僕の頭を撫でていた権兵衛さんの手はだんだんとゆっくりになり、最後は動かなくなった。
深い呼吸音が聞こえる。
寝入ったのだろう。
頭に乗っていた権兵衛さんの手は、ベッドに落ちたようだ。
何となく権兵衛さんの方に向きを変えてみる。
権兵衛さんは穏やかな顔で眠っていた。
何となくこの光景が不思議だった。
というのも、ここに来てから僕は初めて権兵衛さんの寝顔をみた。
いつも僕の方が先にベッドに入っているからと言うのもあるが、朝も権兵衛さんの方が早く起きている。
でも、特別権兵衛さんが早起きと言うわけでもない。
それなのに、だ。
毎日、途中で権兵衛さんがベッドに入ってくる時に、一度意識が浮上する。
だが、その度に権兵衛さんが頭や体を撫で、寝かそうとしてくる。
その手が心地よく、完全に起きてしまう前にまた眠りにつくのだが…これをされると朝までぐっすりと寝てしまうらしい。
何の魔法だよ。
別にそれが悪いというわけではないが、そうなると大体、僕が起きる頃に朝ごはんができている。
手伝いをすると言っておきながら、手伝えていないのがなんだか悔しい。
権兵衛さんは全く気にした様子はないが。
でも、今日は僕が寝る前に権兵衛さんが寝てしまった。
これで明日の朝はちゃんと目が覚めるのか、それともぐっすり眠ってしまうのか検証することができる。
子どもの体だからなのか、権兵衛さんの寝かしつけ方が良いのか。
次の日の朝、昨日降っていた雨はしっかりとあがったようで、窓ガラスに残った雨粒に朝日が反射している。
権兵衛さんがセットした目覚まし時計が鳴る前に、目が覚めた。
隣の権兵衛さんを見やれば、布団にくるまったまま眠っている。
どうやら、子どもの姿だから起きられなかったわけじゃなさそうだ。
そんなことを思いながら、ベッドからそっと降りて、身支度を整えようとする。
権兵衛さんを起こさないように。
そう思っていたのに、どうやら気配を感じたらしい権兵衛さんがむくりと起き上がった。
「………れーくん……」
「あ……まだ寝てていいですよ」
「んー……れーくん、も…」
「は?」
どうやら寝ぼけているらしい権兵衛さんは、舌足らずな調子で僕を呼ぶ。
そして、ベッドから降りようとしていた僕の腰に手をまわし、引き寄せると、そのままぱたりと再び横になる。
「ちょっ…!?」
「んー……もう、ちょっとねよ…」
抜け出そうとすると、腹に回った両腕にぎゅっと力が入った。
まるで抱き枕にするかのように抱きしめられ、背中に柔らかいものがあたり思わず身体が固まる。
背中越しに彼女の熱が伝わる。
甘ったるくてかすれた声に、とろんとした瞳、いつも以上に近い距離。
初めてみる彼女の姿に、心臓がうるさい。
今、自分が子どもで良かったと、心の底から思わずにはいられなかった。
そして、少しだけ思う。
もしかしたら、本来の権兵衛さんは、僕が見ている権兵衛さんとは違うかもしれない、と。
演じている、とまでは言わないが、子どもの僕が不安に思わないように振る舞っているのではないかと、ふっと思った。
元の姿の僕が出逢っていたら、権兵衛さんはどんな反応をしていただろう。
そんなことが気になってしまうくらい、権兵衛さんの事が気になっている。
でも、これ以上、考えるのはやめよう。
これは、気付いてはいけない感情だ。