小さなあなたと
あなたの名前は?
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自分のスマホを改めて確認していた。
外部とつながる為の機能はすべて使えなくなっていたと思ったが、以前見た時と少しだけ様子が変わっていた。
まずは日付だ。
スマホを見つけた時には、変なところはなかったのだが、今は時間が戻っている。
これは爆弾事件が起きる4日前の日付になっている。
そして、この日に受け取った覚えのあるメールが再び届いている。
返事を出そうとするが、それは出来なかった。
文字を打ち込もうとしても、何も入れることができない。
ただ、実際に僕が返事を出した時間になると、勝手に返信されていた。
内容も履歴を確認すると以前、僕が打ったものと同じだ。
スマホ自体は、この日にあった事をそのまま再現しているようだ。
もしかしたら、これが爆弾事件のあった日になったら、もとの世界に戻れるのではないだろうか?
何の根拠もないが、そう感じていた。
もっと論理的に考えなければならないが、こんな現象は初めてだし、どう転がるのか全くわからない。
権兵衛さんのパソコンでこの現象を調べてみるものの、やはり該当する物はない。
そして、ふっと以前調べかけた『名探偵コナン』という単語を思い出す。
権兵衛さんにも聞かれたものだ。
ちらりと、権兵衛さんを見やれば、鼻歌を歌いながら洗濯物を畳んでいた。
僕の事は特に気にした様子はない。
そのことにひどく安心した。
何故だかわからないが、これから調べようとしていることを彼女には知られたくない。
『名探偵コナン』のあらすじを調べてみる。
表示されるページを見て思わず顔をしかめた。
ところどころ文字化けしているようで、読むことができない。
他の内容では文字化けする様子はないところを見ると、どうやらこの話題については得られない情報が多いようだ。
僕が知ってしまうことで何らかの影響が出るとでも言いたいのだろうか?
登場人物などの名前は見れるようだが、主役となる人物たちの名前はやはり聞き覚えが無い。
しかし、順を追うように見ていけば……知っている名前を見つけて、さらに顔をしかめることとなった。
組織の人間のコードネームまであるではないか。
ただ、読める部分は自分が知っている情報だけだ。
他の部分は文字化けしていて、読み取ることができない。
なんなんだ、これは。
ここまでくると、自分の名前を見つけても違和感がなかった。
偽名はもちろん、本名、そしてコードネームまで記されている。
同姓同名、という物があるとしても、三つとも同じで全く別人なんてことはありえないだろう。
自分についての詳細を見るというのは違和感しかないが、書かれていることを確認する。
簡単なプロフィールが乗ってるが、やはり自分の物でも文字化けして読めない部分がある。
しかし、知っている情報の中で合っていない情報があった。
「……29歳?」
この小さな違いによって、ある仮説が生まれる。
これは、数年後の未来の話なのではないかと。
そう考えると、主人公の名前を聞いてもピンと来ないのも頷ける。
まだ、現れていないということなのだろう。
……なんとも言えない複雑な気持ちになる。
ここでの自分の存在と言う物はなんなのだろうか、と。
考えたところで仕方がないのかもしれないが、思わずため息が出る。
「れいくーん」
権兵衛さんに名前を呼ばれ、顔をあげると、テーブルでパズルを広げているのが見えた。
何を思ったのか、パズルをしようと言い始めた。
これ以上、調べていても知りたい情報は得られなさそうだったため、権兵衛さんの誘いに乗る。
パズルを分けながら、権兵衛さんに声をかけていた。
僕の質問に権兵衛さんはパズルを探す手を止めることなく、答えていく。
子どもの戯言にも聞こえる質問だったが、権兵衛さんは茶化すことなく、自分の思う答えを言っている。
そして、ふっと思う。
パソコンでは得られなかったが、権兵衛さんから聞けばこれから起きることが分かるのではないかと。
権兵衛さんは『名探偵コナン』を知っている。
何処まで知っているのかはわからないが、きっと大まかな流れはわかるのだろう。
「権兵衛さん」
「なぁに、れい君」
「この間、僕に、コナンを観てたりする?って聞きましたよね」
「………うん、そうだね、聞いたね」
この話題になると権兵衛さんは、言葉を選びながら話しているようだった。
視線はパズルを探し、手元も動かしている。
反対に僕は手を止め、権兵衛さんの様子を観察する。
「どうして、それ、聞いたんですか」
「どうしてって…」
「他にも子どもが知ってそうな物ってあったんじゃないかなって思ったんです。
それでも、権兵衛さんが真っ先に聞いてきたのはそれだったし、他の物は全く言ってこなかったので。
もちろん、僕が記憶喪失だからそれ以降は聞くのをやめたんだと思いますが…何故、最初にそれを聞いてきたのか気になって」
「それ、は……」
疑問に思っていたことを話せば、権兵衛さんは手を止め、僕を見つめてきた。
少し表情がかたい。
僕自身も少し緊張している。
彼女からどんな言葉が出るのを望んでいるのか。
少し考えた様子の権兵衛さんだったが、頬杖をつくと真剣な顔をして言葉を続けた。
「……似てるなぁ、って思ったの」
「……誰に」
「その…お話に出てくる人にあなたが」
それを聞いてやっぱり彼女も知っているんだ、と思う。
ただ、それが僕だとは思っていないが。
当然だろう、僕だって漫画の中から出てきました、なんて言われたら信じられない。
確かに子どもは好きな物やなりたい物の真似をすることがある。
子どもと関わる機会が多かった権兵衛さんからしたら、真似をしている、と思うのも頷ける。
「………その人さ、かっこいいんだよ」
「…え?」
「自分がどれだけ傷ついても信念の為に頑張る姿、とっても素敵なの。
すごく頑張ってる人だと思うよ。
たまに、それはやり過ぎなんじゃ?って思うこともあるけど、応援したくなっちゃうんだよね……それに、もっと自分の事も大切にしてほしいなぁって」
「……………」
何を聞こうかと考えていたら、ぽつりと権兵衛さんが話を続ける。
権兵衛さんの知っている未来の僕についての感想のようだが、何となく複雑な気分になる。
それは僕であって、僕ではないような気がするからだ。
権兵衛さんの手は再びパズルに伸びており、外側のピースを繋げようとしている。
「ああ、さっきの話に戻るけど」
「さっきの?」
「そう、物語の中に入ってしまったらって話」
「ああ…」
聞こうと思っていたことが他にもあったのに、何となく聞きにくくなった。
権兵衛さんと同じように外側のピースを並べていく。
その間も権兵衛さんは言葉を続けている。
「私が、コナンの世界に行ったとしたら……主人公たちと仲良くなるのも楽しそうだなぁって思うけど」
一つのピースを手に取る。
「私は………降谷さんにとっての魔法使いになりたいな、って思うよ」
権兵衛さんの手が伸びて来て、僕が置いたピースに自分が持っていたピースをはめる。
ぱちっと小さく音を立てて、繋がった。
「……はまったね?」
権兵衛さんは小さく笑う。
ピースがはまったことにも、先程の彼女の発言にも驚かされる。
権兵衛さんにそんなことを言わせる未来の自分に少し妬けてしまった。
「あ、でも、降谷さんはなんでもできちゃう人だから私の力なんて必要ないかもしれないんだけどね~」
ケラケラと笑いながら権兵衛さんは言った。
未来の僕がどう思うかはわからないが、今の僕にとって権兵衛さんは……。
「それに…今は、れい君専属の魔法使いだからね?
ほら、たくさん頼ってくれていいんだよ…!」
「あ、今のところ大丈夫です」
「相変わらず厳しい…!」
両手を広げて「私の胸に飛び込んでおいで!」と言わんばかりの期待の表情を浮かべている権兵衛さん。
さすがにそれは恥ずかしすぎるため、断ると残念そうな顔をされた。
「…それにどっちかと言えば、権兵衛さんは魔女っぽいです」
「え?魔女?」
「子どもを食うタイプの魔女」
「ええっ!?
まだれい君のこと食べてないのに!?」
「…………まだ?」
「あ、ごめんなさい、冗談だから、そんな遠くに行かないで……!」
今、言えることは……出逢ったのが権兵衛さんで良かった、ということだ。