小さなあなたと
あなたの名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝から今日はあいにくの雨だった。
昨日の公園への散歩もといれい君の記憶を取り戻そうという試みは、あまり収穫を得られなかった気がする。
れい君が何かを思い出した様子はない。
わかったことは、れい君の腕力とスタミナが私とは比べ物にならないくらいあるってことだけだ。
あ、もう一つは、れい君に「僕の姉」とか言われると、非常に萌えるってことか。
ぜひ次は母と呼ばれたい、断固拒否だったのでこれは夢に終わりそうだけど。
れい君はパソコンと自分のスマホを並べて何かをしているみたいだ。
時折、眉間にしわを寄せたり、ため息がこぼれる。
ちょっと休憩した方がよさそうだ。
私はおもむろに、この間買ってきた2000ピースの超難関パズルを出してきた。
リビングのテーブルにそれを並べられるようにセットする。
こっちのテーブルはれい君が来てからほとんど使っていない。
れい君が使うには大きいし、椅子の大きさも微妙だから食事はほとんどローテーブルで落ち着いている。
すぐにできるとは思えないこのパズルを置いておくのにはうってつけだ。
「れいくーん、ちょっと休憩してパズルしよー」
「…え?ああ、この間のヤツですね」
「うん、取り敢えずこっちの机でやろっか。
椅子の上に立ったらちょうどいいよね?」
「そうですね…」
パズルの箱を開けて、まずは部分ごとの仕分けへと移る。
仕分けと言っても、私にはどれも同じように見えるんだけどね!
セオリーとして、一番外側を集めることに集中した。
れい君も一緒にパズルを分け始めた。
集中しているせいで、お互いに言葉数は少なくなっていた。
「権兵衛さんは……世界って一つだけだと思いますか」
「世界……ずいぶんと壮大なテーマだね」
お互いに顔を見ることなく、手元のパズルを分けながらぽつりぽつりと会話をしていく。
ちらりとれい君の顔を見るが、特に変わった様子はない。
「他にもあったら素敵だな、とは思ってるよ。
自分が見てるものがすべてだとは思っていないし……あったらそれはどんな世界なんだろうって考えるのは楽しいなって思うなぁ」
「じゃあ、もし、自分が別の世界に来てしまったらどうします」
「うーん……その状況とかどんな世界かにもよるけどねぇ…」
うーんと唸っている私にさらにれい君は言葉をつづける。
「そうですね、それなら物語の中に入ってしまったとしたら、どうしますか」
「物語?」
「そうですね、何でもいいですよ…好きな小説でも漫画でも」
何となくだが、雲行きが怪しい気がする。
この質問に、このまま答えていっていいんだろうか。
れい君、もしかして何か思い出したとか…でも、この話の内容じゃあ何が何だかわからない。
「物語って言ってもいろいろあるからなぁ…どれになるかによっても身の振り方は変わるんじゃない?」
「例えば?」
「うーん、恋愛ものなら恋愛したいって思うし、冒険ものなら冒険したいって思う」
「権兵衛さんらしいですね」
れい君がくつくつ笑う。
面白いことを言った覚えはないが、可笑しいらしい。
「権兵衛さん」
「なぁに、れい君」
「この間、僕に、コナンを観てたりする?って聞きましたよね」
「………うん、そうだね、聞いたね」
れい君の声色は相変わらず淡々としている。
質問のようであって、その聞き方は確かめるような感じだ。
「どうして、それ、聞いたんですか」
「どうしてって…」
「他にも子どもが知ってそうな物ってあったんじゃないかなって思ったんです。
それでも、権兵衛さんが真っ先に聞いてきたのはそれだったし、他の物は全く言ってこなかったので。
もちろん、僕が記憶喪失だからそれ以降は聞くのをやめたんだと思いますが…何故、最初にそれを聞いてきたのか気になって」
「それ、は……」
いつの間にか手を止め、れい君は真剣な目で私をじっと見ていた。
何処か張り詰めた空気に、声がかすれる。
誤魔化してしまうこともできるのだろう…けれど、誤魔化したられい君を苦しめてしまうような気がした。
「……似てるなぁ、って思ったの」
「……誰に」
「その…お話に出てくる人にあなたが」
私も手を止め、頬杖をついてれい君を見る。
なんだかれい君も少し緊張しているように感じる。
この緊張感は何なのか。
一体、れい君は何を知ろうとしているのか……。
「まずは見た目が似てるっていうのがあったし、好きなものも同じだったから。
もしかしたら、その人を知っていて真似してるのかなって。
子どもってなりたい物の真似をするの好きだから」
「そう、ですか」
「………その人さ、かっこいいんだよ」
「…え?」
私はある程度分けた外側のパズルを並べながら話を続ける。
れい君の手は止まったままのようだ。
「自分がどれだけ傷ついても信念の為に頑張る姿、とっても素敵なの。
すごく頑張ってる人だと思うよ。
たまに、それはやり過ぎなんじゃ?って思うこともあるけど、応援したくなっちゃうんだよね……それに、もっと自分の事も大切にしてほしいなぁって」
「……………」
「ああ、さっきの話に戻るけど」
「さっきの?」
「そう、物語の中に入ってしまったらって話」
「ああ…」
れい君は何か考えながら、私の言葉を聞いている。
手は、私と同じように外側のパズルをはめている。
「私が、コナンの世界に行ったとしたら……主人公たちと仲良くなるのも楽しそうだなぁって思うけど」
一つのピースを手に取る。
「私は………降谷さんにとっての魔法使いになりたいな、って思うよ」
ぱちっとれい君が持っていたピースに自分の持っていたピースをはめる。
まだまだ完成は程遠いが、2000ピースの中から繋がる二つを見つけ出すことができた。
「……はまったね?」
れい君の顔を見れば、少し驚いた顔ををしていた。