小さなあなたと
あなたの名前は?
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すっかりバテた様子の権兵衛さんは、ベンチに座り込んでしまった。
坂道ダッシュを持ちかけた時の、権兵衛さんの遠い目は少し笑えた。
最後には土下座でもしそうな勢いで、白旗をあげていた。
昨日の事で、どんな顔して会えばいいのかわからなくなっていた為、内心ほっとした。
権兵衛さんはなんとも思ってない行動だったと分かっているのに、意識してしまった自分を忘れたい。
変なところで敏い彼女の事だ、これ以上、変に避けると何かしら不審に思うかもしれない。
余計な感情を振り払うかのように、ひたすら走った。
いくらか気持ちも落ち着き、余裕が出てきたところで、権兵衛さんの元へと戻る。
すると権兵衛さんが誰かと話をしているのが見えた。
僕の方からは権兵衛さんの表情はうかがえないが、話をしている男の顔は良く見えた。
ニヤニヤと笑いながら、何かを言っている。
権兵衛さんは男が何か言うたびに、首を横に振っている。
「あの、だから、そういうのはいらないです」
「まぁ、いいじゃないのさ、ちょっと付き合ってくれても」
「えーっと、困ります」
「まぁまぁ、俺のおごりだからさ、ね?」
どうやらナンパされているらしい。
権兵衛さんはひたすら拒否しているが、男はなかなか引こうとしない。
何となく面白くない。
走っていって、権兵衛さんの腰あたりに抱き着いた。
権兵衛さんは衝撃で「おっと」と少しふらついたようだが、しっかりと支えてくれた。
頭上から「れい君?」と不思議そうな声がした。
ぱっと離れて権兵衛さんと男の間に入る。
「僕の姉に何か用ですか?
用があるなら手短にしてくださいね、僕たちこの後用事があるので」
捲し立てるように話すと、男は面倒くさそうな顔をしてその場を去っていった。
完全に男の姿が見えなくなって、ふうっと息を吐く。
「れい君……」
「権兵衛さん?」
弱々しく名前を呼ばれ、後ろの権兵衛さんを見やれば、顔を両手で覆い、肩を震わせながら、しゃがみこんでいる。
こんな姿の彼女は見たことなくて、思わずぎょっとしてしまった。
何かされていた様子はなかったが、よっぽど嫌だったんだろうか?
どうしていいのかわからなくなって、おろおろしていると、権兵衛さんが顔を覆っていた手を僕の両肩に乗せた。
「れい君………ぜひ、次はお母さんと呼ん」
「呼びません」
「じゃあ、ママで」
「絶対、呼びません」
「ああ……即答しなくても…」
悲しいっと嘘泣きを始めた権兵衛さん。
ああ、全然元気だった。
心配して損した。
思わずジト目になっていると嘘泣きをやめた権兵衛さんは、にっこりと笑った。
「………まぁ、それはそれとして…助けてくれたんだね、ありがとう」
「……僕がいなくても権兵衛さんなら大丈夫だと思いましたけど…」
「ううん、れい君が居てくれてよかったよ」
いい子いい子、と言うように頭を撫でられた。
権兵衛さんが嬉しそうに笑うものだから、大人しくなでられることにした。