小さなあなたと
あなたの名前は?
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れい君が無事に帰れるようにするためにはどうしたらいいのか。
まず、記憶喪失っていうのが一番厄介だと思う。
なので、私が出来ることは、まずれい君がなんでもいいから思い出せるような状況を作ってあげることだと思う。
少しでも進展があるように。
少しでもれい君の不安がなくなるように。
そう考えた自称魔法使い、しかし魔法は使えない私は、れい君を外へ連れ出した。
自称魔法使いって自分で言うの笑えるな。
どうせなら世良ちゃんに言ってもらいたかった。
ああ、私が本当に魔法使いだったら、れい君をすぐにでもお家に帰してあげられるのに。
まぁ、ないものねだりをしたところで仕方がないのだけれど。
私は隣を歩くれい君の顔を見る。
きょろきょろしながら、周りの様子を見ているれい君。
今日の移動は徒歩だ。
もしかしたら見覚えのあるものがあるかもしれないと思い、歩いて移動することにした。
れい君にも何か見覚えのあるものがあったら教えてねと伝えている。
れい君を眺めていたら、ふっとれい君と目があった。
大丈夫だよ、という意味を込めてにっこり笑ったら、速攻で目をそらされた。
………え、何故。
避けられるようなことした覚えは……あるわ。
昨日の変な例え話のせいかな、それとも思わずしちゃったおやすみのちゅーかな?
朝もめっちゃよそよそしかったわ、れい君。
そうだよね、きっとでこちゅーの方かな。
れい君、おませさんだからきっと恥ずかしかったよね。
ごめんね!と心の中で謝っておいた。
住宅街をのんびりと歩いて行く。
道案内をするために、私の方が一歩ばかり先に進んでいく。
れい君は何かを言うでもなく私のあとをついて来る。
今のところ、見覚えのあるような光景はないようだ。
もちろん、何かを思い出した様子もなさそうだ。
さて、そろそろ本日の目的地に着くはず。
緑の木々が見えてきたところで、後ろを歩いているれい君の方を見る。
「れい君、今日の目的地はあそこです」
「……公園、ですか?」
「そう、公園だよ。
この辺で一番大きな公園だから、もし、れい君がこのあたりに住んでるんなら見覚えがあるかもしれないからね」
「なるほど」
「それに結構親子連れが来てたりするから、れい君の事を見たことがある人がいるかもしれないし」
「……そうですね」
公園に入っていくと、ちらほらと親子連れや散歩やジョギングをしている人がいる。
れい君の事を知っている子が居たら、きっと声をかけてくるだろうから、しばらく様子を見てみようかな。
れい君は相変わらずきょろきょろをいろいろな場所に視線を配っているようだ。
そんなれい君に私は声をかける。
「れい君はどれが好き?」
「どれ…って」
「ほら、覚えて無くても遊んだことはあると思うんだよね、公園の遊具」
「そうですねぇ…」
うーんと腕を組んで考え込んでしまった。
そんなに悩むような質問ではなかったはず…と私は少し不思議に思う。
「しいて言うなら、鉄棒とかですか?」
「何故疑問形…まぁ、いいけど…一通り遊んでみたら?」
「………一通り、ですか?」
「うん……私、変なこと言ってる?」
「………いえ」
はぁ…と深いため息を吐いたれい君。
公園で遊ぶの楽しいと思うんだけどなぁ…なんて思いながら、はっとした。
もしかしてれい君…。
「ああ…ごめんね、れい君…。
またまた私ったら気が付かなくて…」
「はい?」
わかりやすく眉間に皺を寄せるれい君。
なんかもう…私に対して遠慮なくない?
また変なこと言い出したぞ、って顔してない?
でも、私はめげない。
「大丈夫!一緒にやろう!」
「……そうですねー、一緒にやりましょう」
明らかに棒読みだったが、気にしない。
れい君の事だからきっと照れ隠しで不愛想になってるって信じてる。
いや、思い込ませといて。
それからは、私がれい君を引っ張る形で、すべての遊具全制覇の勢いで遊び始めた。
最初は苦笑いしながらついてきていたれい君だったが、競争っぽいことをし始めたら、えらいことになった。
どうやられい君は負けず嫌いなようで、これでもかってくらい対抗された。
しかも、大人の私が全力でやったのにことごとく負けた。
私でもやっと手が届く高い鉄棒にジャンプで難なくぶら下がったと思ったら、懸垂しはじめましたよ、この子。
どんな腕力してんだよ!
思わず突っ込みたくなるほどだ。
感心していたら、今度は、少し坂になった道でダッシュさせられた…!
「も……むり……れい君…私、死んじゃう…」
「権兵衛さん、思ってたより体力ないですね」
「はは……は……れい君は思ってたより、体力ありまくりだね…」
「まだいけますよ?」
「許してください、私の負けです、参りました」
土下座する勢いで降参した。
れい君はとても清々しい笑顔だったので、なんかもう、良かったです、ハイ。
完全にダウンした私は、近くにベンチに座り込んだ。
れい君はまだ元気なようで、再び走ってくると言って、ジョギングなんかしてる人達が良く使ってる遊歩道に行ってしまった。
深呼吸して呼吸を整えることに専念する。
こんなに走らされるとは思わなかった。
走っているれい君を見ながら、なんかこれは遊んでいるよりもトレーニングでもしてるみたいだな、なんて思っていた。
歳の近い友達でもいればそうでもないのかな、なんて思いながらも、れい君が思いっきり体を動かせることができるように定期的に外に出ようとは思った。