小さなあなたと
あなたの名前は?
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ショッピングモールについてからは、権兵衛さんに言われる通り必要なものを選んだ。
どのくらいここに居るのかわからないが、必要最低限の用意さえあれば十分だ。
権兵衛さんにもそう伝えたが、カゴの中を確認しながら困ったように眉を下げているのが見えた。
きょろきょろしながら、目についたものを僕にすすめてくる。
どうやら権兵衛さんの中では足りないと思われているようだった。
多過ぎると主張したが、権兵衛さんの基準とは違うようだ。
彼女の言い方からすると、大方、僕が遠慮でもしているのだろうと思っているのだろう。
僕の反応を見ながら、ぽんぽんとカゴに商品を入れていく。
さすがに赤い帽子だけはやめてもらった。
権兵衛さんは残念そうな顔をしていたけど。
一通り買い終わって帰るのかと思えば、荷物を車に乗せると、まだ行くところがあるという権兵衛さん。
何か買い忘れたものがあっただろうか、と思い返してみても、思い当たるものがない。
権兵衛さんに聞いてみると、とても楽しそうに「着くまで内緒」と言われてしまった。
権兵衛さんは悪戯を思いついた少女のような顔で笑う。
足取りも軽く歩く権兵衛さんはウキウキしているようで、どちらが子どもかわからないな、と思わず笑ってしまった。
軽い足取りで進んでいた権兵衛さんが、ぴたりとある店の前で止まり、後ろを歩いていた僕の方に向き直る。
「さぁ、着きました!れい君、好きな物選んで選んで~」
「…………………」
「なんでも買ってあげるよー!」
どうだ!と言わんばかりに、楽しそうにお店を指さす権兵衛さん。
………まさか、おもちゃ屋に連れてこられるとは思いもしなかった。
開いた口が塞がらないとはこのことか。
この歳でおもちゃを買ってあげると言われるとは思わなかった。
いや、まぁ、権兵衛さんからしたら僕は子どもなわけだけど…。
きっと子どもだから喜ぶだろうと思って連れてきたんだろうが、思っていた反応ではなかったためか、権兵衛さんは首を傾げている。
子どもの僕を気遣っての事だと思うが、さすがにおもちゃで遊ぶとかは…。
「権兵衛さん…僕、こういう物は…」
「はっ……ごめんね、私ったら気が利かなくて…」
「はい?」
やんわりと断ろうとした途端、権兵衛さんが何かを思い出したように悲し気に眉を下げた。
心なしか瞳が潤んでいる。
………一体、どんな想像をしてるんだ…。
記憶喪失に加えて、権兵衛さんの中で可哀想な設定がプラスされたような気がする…。
僕の目線に合わせてしゃがんだ権兵衛さんは、真剣な顔で僕の顔を見る。
そして柔らかく微笑んだ。
「れい君、大丈夫よ。
私も一緒に遊ぶから!」
「え?権兵衛さん?」
「取り敢えず見てみましょー」
「はぁ……わかりました」
どうして一緒に遊ぶということになったのかわからないが、おもちゃを買うことは権兵衛さんの中で決定事項になっているようだ。
手を引かれて店内へ足を踏み入れることになった。
いろいろ見て回っていたが、なかなか面白い。
おもちゃ屋なんて子どもの頃以来なんじゃないか、と思う。
今どきのおもちゃはリアルなものが多くて、素直に感心していた。
昔からある定番商品なんかもあるが、大人でも楽しめそうなものがいろいろおいてあった。
権兵衛さんも楽し気に商品を見ている。
取り敢えず…権兵衛さんがとんでもないものを持ってこないうちに、商品を選んでおくか。
権兵衛さんの部屋に置いてあっても可笑しくないもので、しまうのに困らないものがいいだろう。
「れい君、欲しいものあった?」
「これがいいです」
権兵衛さんにトランプを差し出す。
まぁ、これだったら部屋にあっても気にならないだろう。
遊ぶにしてもいろいろ応用がきくし。
「いいよ、あとは?」
「これで十分ですけど」
「じゃあ、私も選ぶ」
「はい?」
トランプでは物足りなかったらしい。
他の物も選ぶと言い出した権兵衛さんだったが、パズルコーナーに向かうのを見て、ああ、と納得した。
彼女の部屋にも小さなパズルがいくつか飾ってるのを思い出した。
きっと好きなんだろう。
「れい君!
私、パズルがいい!」
「僕に確認しなくてもいいですよ?
買うのは権兵衛さんなんですし」
「れい君も一緒にやるんだから、ちゃんと選んでね?」
「…わかりました」
何故か僕にも確認をとる権兵衛さんに苦笑していると、ちゃんと選ぶように念を押された。
可愛らしい絵柄のパズルの前でにこにこしながら、気になる商品を手にとっては戻すを繰り返している権兵衛さん。
並んでいるパズルに目をやりながら、ちょっとした悪戯心が。
部屋の壁に飾ることも想定しながら、大きさとピース数を確認していく。
ちょうど東京の夜景と書かれた風景画のパズルが目についた。
…自分の世界と建物は違うが、それでも似たような雰囲気を感じる。
……これに決めた。
先程から僕が選ぶ様子を微笑ましそうに眺めている権兵衛さんに、にっこり笑ってパズルの箱を差し出す。
「これにしましょう、権兵衛さん」
「いい……よ……って、2000ピースもあるけど、これ…」
「はい、一番難しそうなのにしました」
「お、おう…」
2000ピースというのにぎょっとした権兵衛さんは、わかりやすく顔を引き攣らせていた。
本気でこれやるの?と顔に書いてある。
これまで振り回されっぱなしなんだから、これくらいいいだろう。
にっこりと笑いながら、ダメ押しで「権兵衛さんもやってくれるんなら心強いです」と彼女が提案してきた「一緒に」を強調する。
よほどのことじゃ無い限り、子どもの僕からのお願いを権兵衛さんが断ることはないだろう。
わかりやすく苦悶の表情を浮かべていたが、頑張る宣言してくれていた。
あまりにも自分が想像していた通りの結果で思わず笑ってしまった。
そのあとは、再び車に荷物を詰め込み、帰宅することになった。
スーパーへ買い物へ行くとのことだったので、昼食はファミレスで簡単に済ませることになった。
道中、川沿いの道が見える。
道に沿って桜の木が植えられている。
まだ花の様子から見て、まだ蕾のようだ。
きっと満開の頃には多くの人が行きかうんだろうな、と何となく考えていた。
その頃には、自分はどうなっているのか……ここへ来る前の爆弾事件もどうなっているのか。
早く……元の世界に戻る方法を見つけなければな。
知らない間にぐっと唇をかみしめていた。