小さなあなたと
あなたの名前は?
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ここ最近で、一番、ぐっすり眠れた気がする。
夜中に途中で目が覚めた気がするが、あまり覚えていない。
多分、権兵衛さんがベッドに上がったか何かしたのだろうとは思う。
人が近くに来た時点で本来ならば、目が覚めていただろう。
しかし、子どもの体だからなのか、睡眠欲に負けてそのまま寝てしまっていたようだ。
枕元にある時計に目をやれば、8時を過ぎたところだった。
ほぼ半日分寝てたってことか?
おかげで体の調子はすこぶるいいが、あまりに長時間寝ていた自分に軽く引いている。
権兵衛さんは危ない人間ではなさそうだが、さすがにまだ出逢ったばかりの他人の家で寛ぎ過ぎじゃないか?
権兵衛さんに危機管理がどうのこうのと言えなくなる。
俺の危機管理能力どこ行った。
隣で寝ていたであろう権兵衛さんの姿はなかったが、掛布団は使った形跡があった。
さすがにもう起きているのだろうと思い、リビングに続く扉を開ける。
扉を開けると、良い匂いとともに楽しそうな声が聞こえた。
どうやら権兵衛さんが歌っているらしい。
それほど大きな声で、というわけではなかったが、彼女の歌声はしっかりと自分の所まで聞こえてきた。
普通に上手いのだろう。
聞いていて心地よく感じる。
歌っていて気分が乗ってきたのか、時折大げさな手ぶりになるのは見ていて面白い。
曲も終盤なのだろうか、権兵衛さんはキッチンからリビングに一回転しながら出てきた。
回転と同時に彼女の髪と少し長めのスカートが柔らかく広がる。
まるで映画のワンシーンを彷彿させるような光景だった。
綺麗だな、と思ったのだ。
ぴたりと決めポーズまでとって止まった権兵衛さんと目が合う。
僕がいる事に驚いた様子の権兵衛さん。
少し気まずそうな顔をしてるのが分かった。
まぁ、確かに、しゃもじ持ったまま歌って踊ってるところを見られるなんて気まずいよな…。
少しの沈黙ののち、この件は見なかったことにしようと思い、普通に朝の挨拶を済ませ、顔を洗いに行く。
その間にも先程の権兵衛さんの様子が浮かぶ。
しゃもじを持ったまま歌って踊る姿に……じわじわ笑いが込み上げてきた。
しゃもじ持ったまま…。
「ははっ…行動が読めない人だな…」
本人の前では笑わないように気をつけようと気合を入れて顔を洗った。
そのあとは、何事もなかったかのように権兵衛さんは朝食を出してくれたので、あの件には触れないことにした。
朝食が終わると、権兵衛さんが段ボールを持ってきた。
どうやら先程届いた荷物らしい。
「れい君、今日はこれからお出掛けしたいと思うので、これに着替えてください」
「すみません、服を用意してくれてたんですね」
「さすがに私のTシャツでずっとってわけにはいかないからね。
取り敢えず、今日出掛けて他に必要なものを買いに行こうと思ってるの」
「ありがとうございます、でも、必要最低限で大丈夫ですから」
「子どもは遠慮しなくていいの!
ちゃんといるもの言わないと私がどんどん買っちゃうんだからね?」
「わかりました、ちゃんと言いますね?」
「じゃあ、着替えが終わったら早速出掛けるよー」
権兵衛さんに渡された服に着替え終わると一緒に家を出た。
今日は荷物が多いだろうから、と車で行くことになった。
車の前まで来ると権兵衛さんがはたっと僕を見つめてきた。
今度は一体どうしたんだ。
「れい君……私の車チャイルドシートついてないけど、乗れるかな…」
「大丈夫です、乗れますし、買わなくていいです」
「………まだ買うとは言ってないのに…」
権兵衛さんの言わんとすることがわかってしまい、先に言わせてもらった。
買わなくていい、という僕の言葉を聞いて、難しそうな顔をして考えていたようだが、さすがに諦めたようだった。