小さなあなたと
あなたの名前は?
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れい君は私と同じベッドで寝るというのがお気に召さなかったようで、ベッドを使うことを渋っていた。
何を警戒したのかわからないが、大丈夫、手を出したりしないから!
そんな趣味はないから!
天使の寝顔はきっと可愛かろう、くらいしか思ってないから!
結局、掛布団は別だからという私の言葉に渋々ベッドにもぐりこんでくれた。
一度だけ、れい君がちゃんと寝てるか確認するために、扉を開けたが、ちゃんと寝てくれたようだ。
規則正しく布団がかすかに動いているのが分かった。
「やっぱり疲れてたよね」
再びリビングに戻り、パソコンを起動させる。
昼間はれい君に貸していたため、メールの確認だけ済ます。
ネットで注文したれい君の服が明日の朝には配達されることが分かった。
これで明日は買い物に行けるな、なんてことを思いながら明日の予定を考える。
服やら日用品やらを仕入れなくちゃいけないから…全部そろえられるところに買い物かな。
それと同時にれい君が好きだと宣ったセロリを使った料理を調べてみる。
私自身はセロリに対して良いイメージも悪いイメージも持ち合わせていないため、れい君が好きなら食卓に出してやろうではないか、なんて思った。
あの子の喜ぶ顔が見たい。
ご飯を美味しそうに食べてくれる姿を思い出しながら、思わず笑みがこぼれた。
記憶喪失みたいだけど、好きな物とかはちゃんとわかってるみたいだからよかった。
いろいろ調べていたらいつの間にか日をまたぎそうになり、慌てて寝る支度を始める。
取り敢えず、炊飯だけはしっかり行っておかねば。
朝ごはんに支障が出る。
れい君を起こさないようにそっと寝室の扉を開ける。
ベッドにそっと近寄りながら、れい君の顔を覗き見る。
………可愛い。
あまりの可愛さに頬が緩んでしまう。
律儀に壁際にしっかり寄って寝てるところも可愛すぎやしないか?
ちゃんと私の場所あけてくれたんだなぁ、なんて感心しつつ、れい君の横に寝転がる。
「よっこいしょ…」
「…………変な掛け声やめてください…」
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
「………だいじょうぶだ…」
私が余計な掛け声をかけたせいか、れい君を起こしてしまったらしい。
壁側を向いていたれい君は布団にくるまったままこちらを寝ぼけ眼で見てきた。
完全に起きたわけではなさそうだったので、すぐ眠ってもらおうと布団の上から体をさすってやる。
ついでに子守歌でも歌うか。
「ねんねんころりよ♪」
「……子どもじゃないから…いらない…」
「はーい」
子守歌は一節で拒否されたようだ。
しかも、子どもじゃないから、だって。
可愛すぎか。
身体をさすってることに関しては何も言われなかったので、そのまま続ける。
しばらく体をとんとんしていると、れい君の呼吸が深いものに変わる。
寝入ったかなーなんて思いながら、れい君の顔を覗く。
今度はこっちを向いているため、しっかりと寝顔を拝むことができた。
少しだけ眉間にしわを寄せている。
一体、どんな夢見てるんだよ…と思いながら、眉間のしわが無くなりますようにと頭を撫でてやる。
すると少しだけ、表情が柔らかくなったようで、思わず笑ってしまった。
頭を撫でながら、れい君の事を考えてみる。
こんな小さな子に一体何が起こったのだろう。
記憶も曖昧で、知らない場所に投げ出されているというのに、泣くこともないし、我ままも言わない。
この小さな体に何を抱えているのだろう。
本当に少しでも早くれい君が家へ帰れるようにしてあげたい。
「れい君が早くお家に戻れますように…」
私のそんな小さな呟きを神様が拾ってくれたらいいな、なんて思いながら私も眠りについた。
目が覚めると私は真っ白な空間にいた。
すぐにこれは夢の中なんだろうな、と思った。
何処を見ても真っ白で何もない。
行先などないけど、フラフラそこら辺を歩いてみる。
「変な夢」
「変な夢でごめんねー?」
「うひゃあ!」
誰もいないと思っていたのに、いきなり真後ろから声がしたもんだから変な声が出た。
振り返ったら…イケメンがいた。
こんなイケメンな知り合いはいませんが…私の妄想が作り出した代物なのだろうか?
じーっとイケメンを見ていると、ひらひらっと手を振ってきた。
私も同じようにひらひらっと手を振る。
「いやぁ、まさかこんなところにいるとは思わなかったなぁ…」
「え?」
「ああ、権兵衛ちゃんのことじゃなくてね」
「私の名前知ってるんですか?」
「そりゃあね」
訳ありげな感じでウィンクしてきたイケメン。
ちょっとチャラいかも、このイケメン。
でも、嫌いじゃないのが、私の夢である証拠だろうな。
「あのさ、ゼロの事よろしく頼んだよ」
「ん?ゼロ?」
「そ、俺も一応、あいつがちゃんと戻れるようにいろいろやってんだけど、まだ無理っぽくてさ」
「いろいろ?」
「まぁ、詳しいことは良いからさ、とにかくあいつのこと可愛がってやってってこと!」
「可愛がる」
何が何だかわからないが、可愛がればいいのか。
疑問符を浮かべている私を微笑ましく見ているイケメンは、なんだか少し寂し気だった。
「あの、あなたは誰なんですか?」
「あれ?わかってなかったの?
権兵衛ちゃんなら、もう知ってると思うけど?」
「え?」
「ははっ、じゃあ、今度会う時までの宿題な?」
「なんと…夢の中で宿題出されるとか、そんなことあります?」
「権兵衛ちゃんの夢ならあるんじゃない?」
「なるほど」
何処に納得できる要素があったのかわからないが、私は納得してしまった。
夢だったらなんでもありだもんな。
「っと…そろそろお目覚めなんじゃない?」
「え?」
「それじゃ、しばらくあいつの世話よろしくな」
「あ、ちょっと…」
イケメンはひらひらっと手を振ると、ポケットから煙草を取り出して一服し始めた。
その様はひどくかっこよかったのと、あれ?っと何かを思い出しかけた。