小さなあなたと
あなたの名前は?
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此処で暮らす上でのルールを言われたが、大したことではなかった。
もう少し、何かあるんじゃないかと思っていたが、自由に使っていいとのことだった。
外出に関しては、確かに権兵衛さんの性格から僕を一人残してどこかに出掛けるという選択肢はないように感じた。
僕としても、外がどうなっているのかを確認するには良い機会だと思う。
仕事に関しては、困った顔をされた。
持ち物や様子から子どもを相手にする職業なことはわかったが、それは長期の休みだと権兵衛さんは言う。
最初に言葉を濁したこともある為、きっと本当の事ではないのだろう。
一通り話が終わると夕食の準備をし始めた権兵衛さんの手伝いに向かう。
手伝いを申し出ると、微笑まれた。
言葉には出していないが、「お手伝いが出来るなんて偉いね」と顔に書いてある。
権兵衛さんの言動からすると、微笑ましいとでも思っているのだろう。
むず痒い気持ちになりながら、サラダを作ることになった。
何気ない会話の中で好きなものを聞かれた。
それを聞いた権兵衛さんの手が止まる。
何かを思い出したかのような表情だ。
そして、再び疑念を抱かせる言葉を放った。
「れい君って、コナン観てたりするの?」
「………こなん?」
「あー……ごめんね、覚えてないよね」
「いえ…えっと…」
「あ、次はこのお皿に盛り付けしてね」
「はい」
いろいろと調べていた時に、共通点として挙がった代物の名前だ。
そのあとにあったバタバタで一瞬忘れていた仮説が再び浮上する。
何故、彼女は、それが僕と関係があると思ったのだろうか。
詳しく聞きたい気持ちもあるが、それを知ることを心のどこかで止める自分がいる。
僕の顔を見ていた権兵衛さんは、はっとしてからこの話題を取り下げた。
きっと、僕が記憶喪失だというのを思い出したのだろう。
あくまで権兵衛さんの中での僕の認識だが。
話の流れから行けば、そのコナンとやらについて詳しく聞くことも出来るのだろう。
だが…それは彼女の口から聞かなくても調べればわかることだ。
この件に関しては後々考えることにしよう。
夕食を済ませた後に、再び事件が起きた。
20時頃から権兵衛さんは僕の様子をそわそわうかがっている。
一体、どうしたのだろう、と思いつつも、自分のスマホを再び調べたり、テレビを見たりしていた。
相変わらずテレビの中の人物は誰一人知らないし、ニュースも知らないことばかりだ。
21時前になると、権兵衛さんはしびれを切らしたようで、僕の前に正座する。
「れい君」
「はい?」
「れい君、これ以上の夜更かしは認められません」
「……はい?」
「本当はもっと早く寝てほしいところなんだけど…れい君、眠そうじゃなかったから。
でも、これ以上はダメです。
ちゃんと寝ましょう」
こんな時間から寝られるわけが…とも思ったが、今は子どもの姿だったことをはたと思い出す。
僕が眠くなるのを待っていたようだが、なかなか寝ないため、寝かしたいのだろう。
こんな時間から寝るなんていつぶりだろうか、と思いつつ、権兵衛さんの言葉に従うことにした。
「わかりました。
えっと……」
「はい、良い子ですね~。
ベッドは私の使っていいよ」
「……え?」
「だから、ベッドは私の使ってちょうだいね」
「権兵衛さんはどうするんですか?」
権兵衛さんは自分のベッドを僕に使えと言う。
さすがにそれはないだろう。
眉間にしわが寄るのを感じながらも、彼女は何処で寝るのかと問えば、きょとんとした顔をされた。
まさか、リビングのソファで寝るとか言い出さないよな?
「私?
私もベッドで寝るよ?」
「……はい?」
「だから、私もれい君と同じベッドで寝るってば」
「…………えっ!?」
当然とでもいうような権兵衛さんの爆弾発言に、またもやぎょっとした。
まさかに一緒に寝る発言……僕が子どもだからって……いや、子どもだからか…?
思わずジト目で権兵衛さんを見やれば、なんてことないように続ける。
「ベッド大きいから、れい君と私が一緒に寝るくらいなんてことないよ。
れい君が真ん中で大の字で寝ていっていうんなら話は変わるけど」
「そんな寝方しませんけど…でも、ベッドは権兵衛さんが使ってください。
僕はソファでいいです」
「それはダメ」
僕の意見は却下された。
何故、というように権兵衛さんを見やれば困ったように笑う。
「れい君はもう寝る時間だけど、私はまだ寝ないもの。
それにベッドは一緒だけど、掛布団は別々に用意してるから、私がれい君を抱き枕にすることもないよ?」
「………」
確かに二人並んで寝ても問題はないだろう、大きさ的には。
そこまで考えて、自分は何を考えているんだろうと頭を抱えたくなった。
そう、今は子どもの姿なんだ。
「ほらほら、もう寝るよー」
「わかりました…はぁ…」
此処で言い合いをしていたも仕方がない。
今日は取り敢えず、権兵衛さんの言うとおりにするとしよう。
ベッドの壁側によって掛布団をかけながら寝転がる。
「じゃあ、おやすみなさい、れい君」
「…おやすみなさい」
壁側を向いていたから権兵衛さんの顔は見えなかったが、おやすみなさいにこもった優しい響きが眠気を誘う。
さっきまでは全く眠くなかったのに。
目を閉じればいつの間にか意識は微睡んでいった。