寄せては返す白波に、眩しく照りつける太陽。輝く砂浜に埋もれている、色彩々の貝殻たち。そして、一面に広がる青い海。心地よい波の音に耳を傾けながら、少女は海風になびく紫色の髪を押さえて伸びをした。
　少女は、海が好きだった。そして、同じ色をした瞳を持つ母のことも大好きだった。娘を探しに来た母は、砂浜にその姿を見つけると、穏やかな笑みを浮かべた。少女は母が来たことを悟ると、立ち上がって駆け寄った。
「お母様！」
「ここに居たのね。あなたは海が好きなの？」
「うん。だって、お母様の目と同じ色だもの」
　コバルトブルーの瞳を輝かせながら、少女が母を見上げて言う。すると、彼女は笑ってこう返してきた。
「あら、それはあなたも同じよ」
「じゃあ……海と、私と、お母様はお揃い？」
「ええ。そうよ、イヴリン。だから、私がどこにいても、離れていても、鏡を見れば会えるわ。その瞳は私の瞳。そしてその髪は、お父様の髪よ」
　少女────イヴリンは、自分の横髪をさわりながら小さく頷いた。
「私、怖かったの。私が大きくなって、お父様が迎えに来ても誰か分からなかったら、って。でも、これで大丈夫ね！」
「ええ、そうね」
　娘の頭を撫でながら、母は僅かに悲しそうな顔をした。だが、イヴリンにはその表情は見えていなかった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「うん！」
　イヴリンは、大好きな母の手を繋いで歩きだした。早く明日が来て、父が迎えに来てくれることを願いながら。
　
　
　
　
　
　
　
　これは、泡沫のような夢を叶えるために生きた一人の少女の話。そして、一人の実直な男を、ただひたすら真っ直ぐに愛する物語である。