あなたを濡らす雨に傘を
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勢い余って告白をしてしまった。逢坂くん固まってるし。顔が赤い気がする。告白に慣れていないこともないだろうけど、いきなりわたしの下心の告白に頭がついていかないとかかな。
いけない。これ以上は、冗談だって逢坂くんに迷惑だ。伝えられてよかったじゃないか。反応は、さすがに期待できない。「話せて嬉しかったです。それじゃ、仕事に戻りますね!」肩をすくめて涙を拭って、逢坂くんが空けてくれた左手で襖に手をかける。
しかし、思い切ったことをしてしまった。今更震えてくる。最後まで、笑顔は不自然じゃなかっただろうか。泣いてしまったけど、一瞬だし見えてないことを願う。
もう、言うべきことを、言いたかったことを、言ってしまった。これ以上を、わたしはどうしたらいいんだろう。失恋したってことでいいのかな。いや、よくはないけど、多分、そうなんだろう。
そりゃあ、だからって、彼を好きな気持ちに変わりはない。まだ、恋を諦められるほど、冷めてしまえない。でも、好きだって伝え終わって、そしたらわたしは、どうしようか。わたしの終着点は、どこだろうか。
次の恋でも探そうか、なんてできもしないことを考える。この気持ちを言葉にするために、彼を追っかけていたわけじゃない。好きだから、離れたくなかったから、盲目的に、その姿を求めてる。そうだ、今も。
手の震えは、今おさまった。それならもう、好きなだけ、追いかけちゃおうかな。「っあ、……うん」なにか言いたそうな逢坂くんに気付かないふりをしなければ、そろそろわたしは痛い勘違い女だ。いつか、彼から離れられるような恋に身を焦がしたとき、あなたに手を伸ばすことを、諦めるから。それまでは。
よし。もう、大丈夫。「失礼します」そうして襖を開ければその先には目が潰れそうなくらい眩しい集団。えっ、なにこれ凄ーーあっアイドリッシュセブンじゃないですか、うそ。
なんだ、なにかの打ち上げか?心臓に悪いからそういうの前もって言っといてほしい。あっ、ミツキさんだ、実物はなんだか男らしくて、…やっぱり可愛い。あっ、注文なんだっけ。
「おまたせしました、ご注文のーー」
「あっ、きみ、ライブのときの!」
「えっ、」
「ああ…物凄い拍手の」
「ひっ、お、おそれいります…」
「OH!路上ライブのレディ!」
「お、おそれいります…」
なんという覚えられ方。あれ手の震えだし拍手じゃないし。路上ライブのレディみんな覚えてるのかよすごいなナギさん…いや、ナギくん。けどまさかわたしのことを覚えていてくれるとは、なんてファンサービスの厚いグループなんだ。
「ライブ来てくれてありがとう!拍手嬉しかった!」リクくんがにっこりと笑う。かわいい。たしか18歳だっけか、あの年下好き共はこんな笑顔を見たらイオリくんやタマキくんから彼に鞍替えするかもしれないなあ。「あっいえこちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」今度のライブも、よろしくお願いします。
わたしが彼の笑顔に癒されているうちに、逢坂くんは自分の席に戻っていく。「あれ、なんでそーちゃんが肉持ってんの」…そーちゃん。『壮五』だからか。なかなかにかわいいあだ名にきゅんとした。
「あはは、彼女が、すごいお皿の持ち方をしていたから」
「えっ、なにそれ見たい。見せて」
「こら環!ワガママ言ってんなよ!」
「あっ、それじゃあ次に注文をいただいたときにスペシャルバージョンをお見せしますよ」
「なにそれケチ」
「環!!」
「今後ともご贔屓に」
タマキくんは自分に素直だ。我慢ということを知らない生意気さがあるけれど、ステージに上がればそのダンスはプロにだって劣らないんだから憎めない。あとわたしは最近聴き分けられるようになってきた、彼の歌声も好きだったりする。
ミツキさんはやっぱりお兄さんだ。イオリくんの、というより、タマキくんのだけど。「あのっ、ライブ、また来てくださいね!」あ、彼女はマネージャーさんかな。ふわふわに巻かれた髪が触れたくなる魅力を醸し出している。かわいいひとだ。「今日、チケット発売日でしたね。びっくりしました、すぐに完売しちゃって」そう言うと、メンバーのみんなが嬉しそうに顔を見合わせていた。
「あ、わたしはそろそろ仕事に戻りますね。みなさんのお邪魔になってはいけませんし」
「次注文したら、来る?」
「たくさん注文していただければ、そのぶんスペシャルに」
「じゃあ、これとこれと、これと、これと」
「タマ、それ1人で食うのかよ」
「いいんじゃないでしょうか。みなさん育ち盛りですし、まだまだ足りませんよ」
「ありがとうございます。承りました、少々お待ちください」
タマキくんが適当と言えなくもない手つきで指差していくそれを簡潔にメモして、立ち上がり個室の外に正座。太っ腹なお客様に笑顔を向けて、襖を閉める。「失礼します」…あ、今ちょっとだけ、目が合った、かも。