あなたを濡らす雨に傘を
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『その中で、ええー、バンドですかね?元気のいい歌声が響いています!』
おいこの声、『リクくん』じゃないのか。そう思ってテレビを振り返る。おいそれアイドリッシュセブンじゃないのかふざけるなもっと映して。あっ、あっいまおっ、逢坂くん!逢坂くんがテレビに!「あっ」ニュース変わった。
えっ、いまライブやってるの?うそ、そりゃあサイトでは告知してたしわたしだって大学休んでも行く気だったけど、この台風で電車が止まってて動けない。なのにライブしてるの?アイドルは風邪引かないの?
羨ましい。昨日から場所取りしておけばよかった。なんてこと。さっきのは新曲かな、ああCD買いたい。新しい逢坂くんの声、はやく聞きたい。
今から行っても手遅れだろうか。いや、そもそも電車が動いてないか。仕方ない、今回は諦めてホームページで逢坂くんを見つめてよう。ストーカー化してきた自分が自分で気持ち悪い。
そうだ、アイドリッシュセブン、他のメンバーもやっと名前を覚えた。歌の上手い、赤い子が『リクくん』。バランスのとれた、ストイックな黒い子がやっぱり『イオリくん』だ。
最近少しずつ、わたしの大学にもアイドリッシュセブンのファンが増えてきた。と言っても同じ学部の人ではなくて、まだ逢坂くん、『ソウゴくん』が元々この大学にいたなんて知る人をわたしはまだ知らない。
しかしまあ、アイドルオタクの友人をはじめ、わたしの周りは年下好きばかり。『イオリくん』派と、ダンスの上手い水色の子、『タマキくん』派に別れて今日も今日とて推し戦争だ。いや、どっちも好きらしいけど。
わたしはもはや『イオリくん』派として認識されていて、逢坂くんが一番だなんて言えない空気だ。もう表向きは『イオリくん』推しを貫こうかな。いつか同じ『ソウゴくん』推しができたときにでもーーんん、なんだか、複雑。
今はまだ、路上ライブをしているくらいの、地元アイドル。でも、これからデビューをして、全国区に名前が知れ渡って、そしたらきっと、遠い国にも彼のことが伝わる。
わたしがそれを望まないなんて、言っちゃいけない。アイドルはきっと、逢坂くんの本当にやりたかったこと。わたしに何が分かるわけでもないけど、大学を未練もなくやめて、アイドルをやってるってのは、それ相応の覚悟があるんだと思う。
でも、そっか。逢坂くんはもう、隣の席の、綺麗な男の子じゃない。みんなが振り返る、アイドルの男の人。かっこいいことに変わりはないけど、かっこいいって伝えたいけど、わたしの方が、ずっと先に好きになったのになあ。
…ちがう。先に会ったのは、先に知ったのは、アドバンテージじゃない。わたしが恋をしたのは、大学ではじめて喋った男の人じゃない。いつ見たって、いつ知ったって惹かれていたはずの、はにかんだ笑顔。
でも、いい加減、恋を諦めるべきなんだろうか。アイドルに恋なんて、痛いやつだろうか。わたしと彼は、なにもロマンチックな関係だったわけじゃない。関係を示すために、『ただの』がおまけについてくる、そんな。
「諦められたら、悩んでないよなあ」
ごめんなさい『ソウゴくん』、もう少しだけ、あなたを『逢坂くん』って呼ばせてほしいです。もう少しだけ、同じ大学で勉強してたってステータスを、誇っていたいです。
そうだ、もう一回よく考えて、『逢坂くん』以外の推しを、探してみようかな。彼のことをよく知るぶん、やっぱり彼贔屓になる。だからちゃんと、他の人のことも知って、恋なんて関係なく、今はもうファンとして、いちアイドルグループとして彼らのことを好きだって、ちゃんと言いたいから。