アーユーマネージャー?
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環くんは、とても素直だ。
彼の魅力は、充分すぎるほどに理解している。短所だって、人によっては可愛いだとか、面白いだとか思えるようなもの。名字さんみたいに、全部、可愛いって言ってしまえるような些細な短所。
彼は僕とは正反対だって、知っている。環くんは僕にはないものをたくさん持っていて、それは、人にーー名字さんに、好かれるものばかり。
名字さんはそんな環くんのことを気に入っていた。気が合うだろうなとは思っていたけど、仕事でしか関わらないのだからと、甘い認識を持っていた。
最近、環くんは名字さんに好意的だ。本人に確認をしたわけじゃないけど、でも、疑いようのないくらい、明確な好意だ。おそらく、それだけじゃ説明のつかない情だって、少なからず混ざっていて。
今はまだ、名字さんはそんな思いに気付いていない。人に向けられる恋情に敏い方ではないけど、それにしたって、自分に向く環くんの感情にまるで警戒がなかった。
「…なあ」僕も、恋人という関係を盾にしていた。そんなはずがないと誤魔化して。「あんたさ、そーちゃんの、どんなとこが好きなの」だから、環くんが自分の気持ちを自覚していることも、まして名字さんにそれを伝えようとしているなんて、そんなこと、知るはずもなくて。
見たくないからと、見えないふりをしていただけかもしれない。僕と同じ思いを返してくれる彼女を、誰かが奪っていくなんて、考えたくなかっただけ。でも、そうだ、いつまでも名字さんが、僕を選んでくれるはずもない。
「は?え、なに?」僕が席を外せば、二人の会話が始まった。あんまり自覚したくなかったけど、僕はどうやら存外嫉妬深いみたいで、できるだけたくさん、彼女の時間を束縛したいなんて思うくらいで。
でも、そういうことを素直に言えない。環くんには、甘えないことを大人だからなんて言ったけど、自分でも分かってるんだ。これは、ただの意地。優しく、大人でありたいだけの、僕のわがまま。優等生に見られたいだなんて、その通りだ。
名字さんは、気付いてくれるから。どんな小さなことだって、もはや習慣になっているようなことだって、頑張れば頑張るだけ、僕のことをすごいねって褒めて、笑ってくれる。だから、わがままを、言いたくなかった。それが、こんなことに。
「惚気ろって?」
「そうじゃねーよ!だから、…なんで、そーちゃんなんだよ」
「惚気る以外にその質問にわたしはなんて答えたらいい?」
「……俺じゃだめなのかよ」
どくん。嫌だよ、聞かないで名字さん。なんてそんなことも言えない。僕がいいって言って。僕のことが好きだって、言ってほしい。もう、環くんのこと、甘やかさないで。
「は?聞こえないなんて?」耳に手を当てて繰り返しを要求する彼女に、環くんは幾分か怒ったように机に肘をつく。聞きたくない。やめて環くん、これ以上、僕にできない表情を、言葉を、名字さんに見せないで。
「だから!俺じゃ、だめなの、かよ…っ」
「……っ」
「………よく聞いて」
「…なに」
「相方が寝てる分まで仕事して、相方が忘れてるスケジュール管理して、相方が使えない深夜帯の仕事まで対応してる」
「…………」
「どっちに優しくしたいと思う?」
気が抜けた。あっ、名字さんだって、思った。
おそらく、本当に恋情など疑いもしていない。年下だからか、仕事仲間だからか、アイドルだからか。環くんからの認識はともかく、名字さんからの環くんへの感情は、そういう関係から生まれるもの。
それに安心をした、自分が嫌いだ。恋人って関係に嬉しくなる自分が、嫌いだ。「だ、からぁ、そうじゃ、ねーって…」本意が伝わらずに環くんは不満そうだった。名字さんは、相変わらず疑問符を浮かべる。
「……なんで、そーちゃんと、付き合ってるの」
「恋したからだけど」
「……じゃあ!…おれに、恋、してよ」
「なに聞こえない、はっきり」
ーーまずい。流石の彼女でも、ここまで言われて、気付かないはずもない。気付かせたくない。片思いのもどかしさなんて、嫌という程に知っているけど。でも、ごめん環くん、名字さんだけは、譲りたくない。お人好しになんて、なれるわけない。名字さんには、気付かせたく、ない。
「~~っ、おれに!」
「っ、環、くん」
「そっ、そー、ちゃん…」
「逢坂くん」
「マネージャー借りるね」
「うお?うっうん、でも待って逢坂くんどういう」
「…っ、ま、待てよ!なんで、そーちゃんばっか、」
「うえ?」
彼女の腕を掴む環くんは、きっと、僕と同じ気持ち。でも、それならなおさら譲れなくて。
足を止めた名字さんの手を引いて、無理矢理にでもこの部屋から出して、環くんの声が聞こえなくなるくらい、僕の声を聞かせたい。きみのことが好きだってたくさん伝えるから、僕のことが好きだって、言ってほしい。「…ごめん。ちょっとだけ待って、逢坂くん」嫌だって、ほら、言えばいいのに。わがままを、言えたらよかったのに。