アーユーマネージャー?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アイドリッシュセブンのデビューが決まった。
デビューアルバムの振り付け練習を7人で行う現場になぜかわたしも付き合って、デビュー曲のPVを撮影するために行く沖縄にも、なぜかわたしは付いていくことになり。紡ちゃんいるんだから逆に迷惑じゃないかと思ったけど、当の紡ちゃんが「名字さんがいたら心強いです!」なんて言ってくれるもんだからこれは行かなくては。
そんなこんなで忙しくなる毎日。楽屋でスケジュール管理をしながら息をつく。いや、いま二人が頑張って収録してるんだからさっさと終わらせて見に行かないと。なんて考えながら走らせたペンは、結局二人が帰ってくるまで止まることはなかったけど。わたしの仕事遅すぎかよ。
「お疲れ様、見に行けなくてごめんね。今日はこれから沖縄だけど大丈夫?」
「俺はだいじょーぶ」
「僕も大丈夫だよ。名字さんこそ、あんまり寝てないんじゃ」
「それ逢坂くんが言うの!!?疲れてるのに寝れてないでしょ!!?飛行機の中でくらい寝てね!!?」
「…うん、ありがとう」
「そーちゃん寝てねーの?寝なきゃだめじゃん」
「…………」
「体調が良いのは良いことだけど環くんは寝すぎだよ打ち合わせくらいちゃんと聞いてよ」
「ん」
そういえば、最近なんだか、環くんに懐かれた、気がしている。前に逢坂くん嫉妬騒動のときにその可能性が疑われたけど、わたしは全然そんなこと考えもしなかった。「なあマネージャー、プリンは」あれ?これ餌付けしてるだけじゃね?
そうか、ことあるごとにプリンを渡していたのが間違いだったのか。疲れただろうし仕事後くらい甘やかしてやろう、なんて思ってたのが悪かったわけだ。「今日は買ってない。プリンなしでもがんばれる?」しかしそう言えば、こくんと素直に頷くのだから分からない。
素直で可愛いのはまったく構わないのだが、少し甘やかしすぎだろうか。たまには逢坂くんのことを優先して甘やかしてあげたいのになあ。逢坂くんも環くんくらいワガママ言ってもいいのに、優しいからなあ。遠慮されちゃうんだ。
好きな人のワガママくらい、いくらでも聞けるのに。甘えてくれてもいいのに。そりゃわたしじゃなくても、紡ちゃんでも二階堂さんでも、究極環くんだって、そういうのを嫌がったりはしない。自分が常にそういうことをしているという自覚があるからかなあ。
「二人とも、飛行機酔いは?」
「僕はしないと思うけど」
「俺もたぶん、しない」
「そっか。一応何種類か酔い止めは持ってるから、必要になったら言ってね。それじゃあ空港に向かいながらなにか口に入れようか」
「なに?」
「買ってるのはパンくらいかなあ。食べ過ぎても気持ち悪くなるし」
「俺、クリームのやつがいい」
「…そりゃあるけど、気持ち悪くならない程度にね」
「ん!」
手のかかる子供を連れて旅行の気分だなあと環くんにパンを渡す。寝すぎって言ったって逢坂くんよりはってレベルだし、いくら神経が図太そうでもクリームとか食べまくったら気持ち悪くなるかなあと、クリーム入りのクロワッサンにしといた。
「車とってくるね。裏で待ってて」現在時刻は午前9時過ぎ。集合時間は10時半だから、まだ時間あるなあ。車の中で寝てもらって、ガソリンは無駄にはなるけどぐるぐる空港の辺りを回っててもいいかなあ。
「なあ、俺、きょう、助手席がいい」
「えっ、危ないよ。…あっちちち違うよ!!?逢坂くんは危なくていいわけじゃないし、そもそも危ないのは環くんだからって意味で」
「おい」
「大丈夫だよ。…せっかく、名字さんの隣にいられるんだから、僕も助手席がいいな」
「………えっ」
どうしたの逢坂くん。寝てなさすぎておかしくなっちゃったの。タラシみたいになってるよああそんな逢坂くんもすき。だいすき。「…むかつく。いちゃつくなよな」なんて、ぼそっと呟いた環くんには、わたしも逢坂くんも気付かない。
「…大丈夫?逢坂くん」飛行機の離陸から数十分、なにやら逢坂くんの様子がおかしい。どう見ても顔色が悪かった。虚ろな目の端にたまるのは涙。もしかして、気分が悪いのか。「…酔った?」こくり、あんまり身体を揺らしたくないのであろう彼が小さく頷いた。
大変だ。寝不足のせいだろうか。飛行機の間くらい寝てほしいなあと思ってたけど、これではゆっくり休んでももらえない。「待ってね、薬…」慌てて持ち込み用の小さなバッグから酔い止めを取り出す。直前に食べたパンが悪い方向に働かなければいいのだけど。
「酔い止め、飲めるかな。すぐ効くやつだけど、この薬がだめ、みたいなのは?」
「だい、じょうぶ…だと、思う」
「分かった。それじゃあ、これ二錠飲んで。はい、お水」
「……うん」
「喋らなくていいよ。辛いでしょ」
「………ありがとう」
薬が飲めるくらいの水を入れた小さな容器のふたを開けて、錠剤と一緒に手渡す。逢坂くんはすぐにそれを口に運んで飲み込んでいた。よっぽど辛いんだろう、もっと早くに気付いてあげたらよかった。ごめん、と口に出すのも申し訳なくて、何も言わずに彼の返してくれた水を受け取る。
このまま眠るようだったから、後ろの七瀬くんに確認をとって逢坂くんの椅子を倒す。ついでに同じように寝てないであろう環くんにちらりと視線を送ると、彼は乗り物酔いなんて怖くないと言いたげに携帯でゲームをしていた。怖いもんなしかよ。
ちょっと空調が効いて寒いかな、と思ったから持ち込んでたコンパクトブランケットを、目を閉じた彼の隣に置いておく。寒くなったらすぐ被れるように、のつもりだったのだけど、既に逢坂くんが身震いをしていたので、そのまま被せてみた。
「あ、あの、名字さん」
「ほい?あっ、狭い?」
「いや!それは大丈夫なんですけど、…一織が、環の隣じゃ落ち着けないから、席を変わってほしいって…」
「んん?七瀬くんと変われば」
「いや、環が」
「え?」
「変わるならマネージャー、って」
「えっ、マネージャーって言ってるなら、紡ちゃんなんじゃ」
「や、名前っち、って言ってます」
「ええー」
なんだなんだ。随分懐かれたな。わたしだって寝たいんだけどまあいい、元気な子供を寝かすのが大人の役目。あと環くん神経図太いけどあんなにゲームしてたら酔いそうだし。
仕方ないな、逢坂くんが心配だから傍にいたいのだけれど、隣にいるのが和泉くんならむしろ安心。あれっ、わたし頼りなさすぎ?「じゃー、後ろ行くから」小声で七瀬くんにそう伝えて、なるべく静かに荷物をまとめる。それじゃあ行ってきます、逢坂くん。辛くなったら呼んでね。
「環くん寝ないの」
「学校で寝た」
「あー、わかるわかる、授業ってしっかり寝てもまだ眠くなるね。そんなわたしが言うのもなんだけど、寝たらイカン」
「ほんとマネージャーに言われたくねー」
「でも飛行機って眠くならない?」
「そういうもん?」
「なんか、ずっと座ってると眠い」
「あー、わかる」
「小学生ですか…」
「和泉くん聞こえてるよなんであなた起きてるの席戻そうよ」
「え、やだ」
「環くんが答えるのかよ」
「マネージャーと話したい」
「プリンは持ってないぞ」
「別にいいよ」
「…あれが普通の距離感なんですか」
「環、めちゃくちゃ懐いてる…?」
「名字さんすごいです!」
「いや、凄いと言うか……まさかあれ」
「恋人が寝てるからってここぞとばかりに甘えてみる、そういう無邪気にずる賢いのは子供の特権かねえ」
「なんの話してんだ?」
「ミツキ!ワタシの話聞いてます!?」
「聞いてんだよ待てよ休憩!ブレイク!ブレイクタイム!」
「ソウも早くマーキングしとかねーと、厄介なライバルが追ってきてるって話」
「……あれ、一織くん?」
「ああ、おはようございます。体調はいかがですか」
「う、うん、大丈夫……えっと、」
「名字さんなら」
「うお、すげー。一発KOじゃん」
「だろ?友達とよくやってるし頭は悪いけどこういうのはできる」
「課金してんの?」
「貧乏学生なめるな、するわけないだろ」
「……環くん?」
「私が、というのも不本意ですが、無理を言って名字さんと席を替わってもらったんです」
「不本意?」
「ええ、四葉さんが、替わるなら彼女がいいと」
「……そう、なんだ」