アーユーマネージャー?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
マネージャー業をはじめて数週間。なんとかギリギリやっていけるレベルのスキルは身についた。すごいです、なんて紡ちゃんは褒めてくれるけど紡ちゃんみたいなプロには敵わないよ。
しかし。しかしだ。「環くん来ないんだけど!!?わたし探してくる!!!来たらわたしのことは放っといて!!!」いいよいいよー、と笑ってくれるプロデューサーさんいい人かよ。でも行ってきます。
環くんの遅刻癖がどうしたって治らない。五分前行動を常日頃から心掛けている逢坂くんをちょっとは見習ってくれ、逢坂くんのその五分を環くんに分けてあげてほしい。
機材に近付かないように早足でスタジオ出口に向かう。どこにいる。学校からここまでの道のりのどこかにいるはず。こんなことなら学校まで迎えに行くんだった!「…おはよーござい、うわ、マネージャー危ない」なんて歩き出したところにやってくる長身。誰のせいで危なかったと!
「…環くん。いつも言ってるだろ、五分前行動は…」
「分かった。分かってる」
「…現に分かってないから、」
「待って逢坂くん」
「っ、な、」
「理由話して、環くん」
「………べつに、ない」
「あっそう」
バシン。「っな、」逢坂くんに注意されたからか、ふてくされたような彼の頬を引っ叩く。「なっ、名字さん…?」ごめんね逢坂くん驚いたよね、でもアイドルの顔がどうとかそういうことは教えてもらえなくてね。初歩的なことだからって、飛ばすもんじゃないよ。
しばらく環くんは呆然としていて、それから状況を把握したらしく激昂する。「い、てーな!!なにすんだよ!!」喧嘩っ早いのに今は手が出ないのはわたしが女だから紳士的なのか。わたしだってしたくないよ手が痛いし。
でも、わたしも怒ってる。最近増えた深夜帯の仕事は逢坂くんに任せるしかないけど、そうでなくてもスケジュール管理やらアンケートへの回答やら、何から何までと言っても過言ではないほど、環くんはすべてを逢坂くん任せ。
当人でもないわたしが偉そうに言える立場でないことも分かる。働いているのは二人だしわたしはただのサポート。サポート役が尽くすべきあいての頬を殴るなんて言語道断だろうけど、でも、悪いことは悪いと、教えることも必要だ。
「叩かれるだけの理由があったことも分からないのか」
「……っ!」
「わたしは逢坂くんみたいに甘くはない。あんたに優しくする理由がない」
「…マネージャーだろっ」
「紡ちゃんみたいにありのままのあんたを受け入れることもできない」
「……だからって」
「けど、あんたは人の気持ちが分からないわけでも、常識が欠けているわけでもない。分かるな。今回は、おまえが悪かったな」
そこまで言えば、環くんは反論をしなくなる。「…そりゃ、そう、だけど」と、渋々ながらも自分の非を認める。そういうところは本当にすごい。誰にでもできるもんじゃないよ。
「うん。なら謝れる?」謝れって言ったって、ただの子供じゃあ意地を張って素直に謝れない。自分の気持ちに素直なくせに、自分の悪いところは認められるのだから憎めない。「すんませんっした」ぺこりと環くんがスタッフさんたちに頭を下げれば、なんだかほんわかとした空気が流れる。素質か。
「……そーちゃん、ごめん」
「えっ…あ、う、うん、僕はもう…」
「ん、許してもらえたね。ちゃんと謝れてえらい」
「……マネージャーも」
「ん?」
「…ごめん。メーワク、かけた」
「…うん、そういうとこ、えらいぞ。わたしも、叩いてごめん。痛かったね」
「……王様プリンな」
「環くん!?」
「買ってある。最後の一仕事終わったら、みんなで休憩しようか」
「…ん」
引っ叩いた頬を撫で、頭を撫でる。良い関係だねえ、なんて本番予定時刻2分前だというのにプロデューサーさんが笑ってくれていた。すみませんすぐに用意させます。「じゃー、行ってくる」今しがた説教かましたやつにいつも通りの挨拶ができるってのは、もはや才能だ。羨ましいくらいだなあ。まあ、図太いとも言うかね。
「行ってらっしゃい。がんばれ」遅刻癖は治らないかもしれないけど、これを機にちゃんと反省することを覚えてくれればわたしとしてはまあ及第点をあげたいものだ。単位落としそうなやつが点数あげるとか言うなって?そうだねわたしもそう思った。