あなたを濡らす雨に傘を
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あれからあの話の続きをわたしから聞くなんてそんな恐れ多いことできなくて、メールのやり取りもしていない。向こうも忙しいだろうし。
そんなこんなでライブの日だ。ライブが始まれば、生憎の雨。なんなのアイドリッシュセブンは台風だの雨だの起こしてるの?
きゃああ、と黄色い声があがる。女性率が高いかなあ、でも男性もいる。人気だ。前のライブを見られたのは本当に幸運だ。「こんばんはー!アイドリッシュセブンです!みんな、来てくれてありがとう!」リクくんの声は、耳に心地良いなあ。
わたしがいるのは前から三列目だ。望遠鏡でも持ってくるべきだったかな。ストーカーみたいだな。やめよう。気付いてよかった。
ファンのみんなが口々に推しメンバーの名前を叫び始める。『タマキ』って隣の人が叫んだ。えっ、呼び捨てなの?そうかその発想はなかった、うわ、うわうわ待て待て、わたしも叫びたい。ーーあれ。
待って、どうすればいい。今なら叫んでもいいのかな。告白しちゃった。それならもう、迷うこともないのかな。拒絶はされてない。それなら、好きでいてもいいのかな。
きっとわたしは、逢坂くんのことを全然知らなかったとして、それでもアイドリッシュセブンのファンになっただろう。そしてそのとき、わたしが好きになるのは、きっと彼じゃない。でも。
これが運命だって言ってもいいかな。必然だったって思ってもいいかな。逢坂くんのことが好きだから、逢坂くんのことを応援したいって、今なら言えるんだ。だから。
息を吸い込む。なんて呼ぼう。だめだなあ、悩んだって、まだ、『ソウゴくん』じゃない。「逢坂くーん!!」だいすきなのは、ひとりだ。
やってしまった言ってしまった、言えた、よかったーーピシャン。その瞬間、雷が落ちたような音。近い。と同時に、音が、止まった?「演出、じゃないよね…」観客席も、ざわめきはじめた。
メンバーも平静を装ってはいるけど、違う。さっきの雷。トラブルだーーと、そう思ったとき、タマキくんに、スポットライトがあたった。ーーダンスで繋ぐのか。「たっ、タマキくーん!!」ええいやけくそ、叫んだれ!!
驚いたように周りの人に見られたけど気にするな気にしちゃ負けだなんでこんなときに限ってタマキくん推しの友人いないのゆるさん。しかしメンバーが手拍子をはじめた。それにあわせて、観客席からも手拍子がおこる。
タマキくん、と叫ぶ人も出てきた。よかったわたしだけじゃない。わたしだけだったら恥ずかしくて頭上げられなかった。
そして今度は、ライトが逢坂くんに。このフレーズ、何度も聞いた。さっき雷に肩透かしくらったんだ、わたしが一番好きなとこ、今度こそ叫んだれ!!「逢坂くーん!!!」そうして曲が、はじまった。
ライブのあと。ふと携帯を見ると、メールがひとつ。
誰からだ、この興奮の冷めきらないときに、と乱暴にホームを開くと、そこにある名前は逢坂くん。えっ。え!!?ん!!?どっどどど、どうし、えっ!!?おうさかくん!!?むしろ興奮したよ!!?
だっていま、ライブ、終わったばかり。あ、あれかな、ええと、業務連絡?え?なんの?馬鹿かよ馬鹿なりに頭使えよわたしこんなだから今年わたしの心を抉るワードトップ3に単位なんて単語が食い込むんだ。
いやそうじゃない。わたしが馬鹿なのは深刻な問題だがそうじゃない、と震える手でメールを開く。どうしたんだろう。もしかして、名前を叫んだの、聞こえてたかな。なんて、そんなこと、あるわけーー
一番に伝えたかった。ありがとうって、やっぱり好きだって。でも大切な気持ちは直接声に出したいから、ありがとう、ってだけ。嬉しかったってことだけ。
メンバーと一通り盛り上がって、電源を切っていた携帯を取り出す。いまのこの気持ち、そのまま、届けばいいのに。電話番号も聞いておくべきだった。ああ、文字にしかできない言葉がもどかしい。会いたいのに。伝えたいのに。
今度は、送信ボタンを押すことに、躊躇いはなかった。それどころか、早く彼女の言葉が聞きたくて、焦りすら生まれる。見てくれるかな。ああでも、いまは電源、切ってるかな。
「はっはーん、あの子だなー?」びくん。大和さんに、携帯を後ろから覗き込まれる。名前を出さないところが良心的なのかそうでないのか…!
「え?誰ですか?」
「…七瀬さん、あまりプライベートを詮索するのは」
「えっすみません壮五さん!」
「あ、いや、だ、大丈夫、だよ」
「『ありがとう、名前呼んでくれて嬉しかった』?」
「うわあああああ!!?三月さん!!?」
「まさか彼女か!!?」
「OH、ソウゴ、ワタシにナイショでガールフレンド…!?」
「なんでナギに言うんだよ」
「あ、そういや、こないだの焼肉屋のバイトいたよな」
「えっ!!!?なんで知っ、……あ」
「えっ」
「…………」
「…………」
「……ほほーう?」
顔が熱い。三月さんがにやにやと悪い顔をしていた。状況が分かってなさそうなのは、環くんくらいで。「こ、この間の、やっぱりオレ邪魔だったんじゃ…!?」あああ陸くんそれ今言わないで。
「この間ってあれか?焼肉の次の日」
「大和さん…!!」
「あ、は、はい、オレ、コンビニの帰りに2人にーー」
「陸くんやめて…!!」
「なんだよ詳しく聞かせろよ!」
「三月さん!?」
「焼肉屋ガール、ソウゴ's、ガールフレンド!?」
「えっまじ!?そーちゃん変なの好きなんだな」
「四葉さん、人様の恋人に向かって変なのとは何事ですか…!」
「や、やめて…ほんとに…恋人じゃないから…っ」
そう言うと、みんなは目を丸くしていた。一織くんなんか、もはや僕を慰めるような視線を。「…えっ?あれからまだ告白してねーの?」大和さんやめてくださいもう二度とこのメンバーであの焼肉屋に行けない。