春うらら
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「散歩に行かないか?」
朝食のトーストを頬張っている時に
唐突に掛けられた一言に目を見開く。
付き添いのように隣にいた毛利くんは
楽しそうにニコニコと笑っているのだけど
対照的に無表情な彼の顔から、意図は全く読めない。
私とですか?
今からですか?
なんで私とですか?
聞きたいことはたくさんあったけど
口に入っているもののせいで聞くことはできず
私は懸命に頷いた。
すると越知先輩は「なら、あとで迎えに行く」
と静かに言ってそのまま去って行き
先輩の後ろ姿を眺めながら
私はやっとトーストを飲み込めたのだった。
そのあとは、いつも通り
マネージャー業に勤しむつもりだったけど
越知先輩からのお誘いが気になって
なかなか仕事に集中できずにいた。
ミスは頻繁してしまうし
越知先輩を目で追ってしまうし
ずっとソワソワしてしまって
こんなにも自分は単純だったのかと痛感する。
あとでってことは今日中の話だよね。
休憩時間の時だろうか。
流石に夜ってことはないだろう。
あ、ソワソワしてたけど
よくよく考えると別に越知先輩と二人きりとは限らない。
毛利くんもいるかもしれないし
他の先輩方や、中学生の子達もいるかもしれない。
なんだ、だったらそんなに浮足立つ必要なんてないじゃないか
と、思った瞬間
自分の中に安堵と落胆とが同時に芽生えて
どこか他人事のように自分の気持ちの変化を感じていた。
「[#dn=1#]、すまない。待たせただろうか」
『いえ、待ってないので大丈夫です』
結局集中できない状態で午前の練習が終わり
片付けをしていたら、越知先輩がやって来た。
今からかな、と身構えたら
昼食を終えたあと行こうと言われ
なんだか焦らされているような気分になった。
そしてやっと、今から散歩に行くのだけど
私の予想は外れたようで
越知先輩の周りには、毛利くんも他の先輩も
中学生の子達もいなくて、二人きりだった。
越知先輩はなにも言うことなく静かに歩き始めたので
私もつられて歩き出す。
散歩だから目的地はないのだろうけど
足取りはしっかりとしていて
先輩と一緒にいると、不思議と安心してくる。
私を、ちゃんと導いて、連れて行ってくれる
そんな感じがした。
『すっかり春になりましたね』
「そうだな」
合宿所から少し離れて
ゆったりとした坂道の続く山の中へと進むと
枯れ葉ばかりの木々が青々としていて
幹の周りにも、小さな花が咲いていた。
『桜はまだみたいですけど、この辺りは桜の木が多いので
きっと綺麗でしょうね』
「見分けがつくのか?」
桜の木は、種類にもよるけれど
殆どが幹に横長のすじがある。
流石に花の咲いてない木から
桜の種類までは細かく見分けられないけど
恐らく一般的に有名なソメイヨシノばかりがあるようだった。
私の話を聞くと、越知先輩は関心するように
木々を見つめていた。
『祖母が教えてくれたんですよ。
植物が好きで、いつも花の名前とか教えてくれてました』
「そうか。[#dn=2#]も植物が好きなのか?」
『うーん、特別に好きだとは思ってなかったのですが…
今日こうやって散歩してたら
教えて貰ったことけっこう覚えてて
案外、好きなのかもしれませんね』
「……教えてくれないだろうか」
桜の木を見つめていた越知先輩が、私を振り返って問う。
そこまで詳しくはないから
一般的なことしか答えられないけど
と悩んでいたら
越知先輩は突然、私の手を取って歩き出した。
突然のことすぎて、理解が追いついていないまま
先輩の手に身を任せていたら
足元が悪いから気をつけるようにと言われた。
あぁ、なんだ。
ちょっと期待してしまったけど
私が転けないように気を遣ってくれているのだとわかると
少し、残念に思えた。
山道を抜けると、開けた野原に出た。
頬を撫でる風は柔らかく
日差しは暖かくて
若草の匂いと優しい甘さの花の香り
姿は見えないけれど
聞こえてくる鳥の囀りに心が休まる。
私の手は、まだ越知先輩の細くも逞しい手に包まれたままで
すべてが贅沢な空間に包まれていた。
「心地が良いな」
『そうですね。贅沢な時間だなって思っていました』
「フッ…同じだな。俺もそう思っていた」
春風に、長い前髪が揺れて
普段見られない瞳が見えた。
誰かが怖いと言っていた気がするけれど
越知先輩の瞳は優しい色をしていた。
「先程、教えてほしいと言ったが…」
『あぁ、でも教えるほどの知識はないですよ?
祖母が教えてくれたことは
殆ど一般的なことでしょうし』
「違う」
ぎゅっと、握られた手に力がこもる。
「教えてほしいのは、[#dn=2#]のことだ」
ざぁっと、木々がざわめく音がして
自分の心も、揺れるような感じがした。
私のことを、ってどういう意味だろう。
『わ、私のことなんて聞いても、面白くないですよ?』
色んな感情でまとまりのつかない私の心を隠すように
笑ってそう言えば
越知先輩はゆっくりと頭を振る。
「面白さは求めてない。
…今日散歩に誘ったのは、お前と話がしたかったからだ。
俺は、[#dn=2#]のことがもっと知りたい」
『どうして、知りたいって思うんですか…?』
こんなことを聞くのはずるいかもしれないけど
先輩の口から、明確な言葉が聞きたかった。
私の気持ちは、ふらふらとしてしまっていて
自分で自分がわからない。
越知先輩に、ちゃんと導いてほしい。
先輩はしばらく黙り込んでいたけれど
私の目線まで屈み、視線をあわせてくれた。
「好ましいと、想っている」
聞きたいと思ったのは自分なのに
真っ直ぐな言葉に、恥ずかしくて思わず俯く。
越知先輩の言葉は
春の日差しみたいに温かくて
じんわりと、私の胸に広がっていって
私のふらふらしていた気持ちは、ちゃんと芽生えた。
『私も、越知先輩のこと、好ましいって想っています。
だから先輩のことも、もっと教えてください』
「……そうか。なら、話しながら帰ろうか」
やっと、明確になった私の気持ちと
それを導く越知先輩。
一歩一歩確かめるように歩む私達を
春の日差しが祝福しているかのように
温かく、降り注いでくれていた。
(月光さん、[#dn=2#]ちゃん、おかえんなさい!) (あ、毛利くん。ただいま)
(えへへ、その様子やと上手くいったんですね)
(上手く?)
(俺にとっても、大好きな先輩らが恋人同士になるって
むっちゃ嬉しいでっせ!)
((こ、恋人……))
(え!?ちゃうの?月光さん、今日告白する言うて…
あ、俺余計なこと言うてしもたん…?
って、2人とも顔真っ赤やんけ)
(恋人…ということでいいのか?)
(そ、そうですね。
そういうことで…えっとよろしくお願いします?)
(この2人、心配なんやけど…)
朝食のトーストを頬張っている時に
唐突に掛けられた一言に目を見開く。
付き添いのように隣にいた毛利くんは
楽しそうにニコニコと笑っているのだけど
対照的に無表情な彼の顔から、意図は全く読めない。
私とですか?
今からですか?
なんで私とですか?
聞きたいことはたくさんあったけど
口に入っているもののせいで聞くことはできず
私は懸命に頷いた。
すると越知先輩は「なら、あとで迎えに行く」
と静かに言ってそのまま去って行き
先輩の後ろ姿を眺めながら
私はやっとトーストを飲み込めたのだった。
そのあとは、いつも通り
マネージャー業に勤しむつもりだったけど
越知先輩からのお誘いが気になって
なかなか仕事に集中できずにいた。
ミスは頻繁してしまうし
越知先輩を目で追ってしまうし
ずっとソワソワしてしまって
こんなにも自分は単純だったのかと痛感する。
あとでってことは今日中の話だよね。
休憩時間の時だろうか。
流石に夜ってことはないだろう。
あ、ソワソワしてたけど
よくよく考えると別に越知先輩と二人きりとは限らない。
毛利くんもいるかもしれないし
他の先輩方や、中学生の子達もいるかもしれない。
なんだ、だったらそんなに浮足立つ必要なんてないじゃないか
と、思った瞬間
自分の中に安堵と落胆とが同時に芽生えて
どこか他人事のように自分の気持ちの変化を感じていた。
「[#dn=1#]、すまない。待たせただろうか」
『いえ、待ってないので大丈夫です』
結局集中できない状態で午前の練習が終わり
片付けをしていたら、越知先輩がやって来た。
今からかな、と身構えたら
昼食を終えたあと行こうと言われ
なんだか焦らされているような気分になった。
そしてやっと、今から散歩に行くのだけど
私の予想は外れたようで
越知先輩の周りには、毛利くんも他の先輩も
中学生の子達もいなくて、二人きりだった。
越知先輩はなにも言うことなく静かに歩き始めたので
私もつられて歩き出す。
散歩だから目的地はないのだろうけど
足取りはしっかりとしていて
先輩と一緒にいると、不思議と安心してくる。
私を、ちゃんと導いて、連れて行ってくれる
そんな感じがした。
『すっかり春になりましたね』
「そうだな」
合宿所から少し離れて
ゆったりとした坂道の続く山の中へと進むと
枯れ葉ばかりの木々が青々としていて
幹の周りにも、小さな花が咲いていた。
『桜はまだみたいですけど、この辺りは桜の木が多いので
きっと綺麗でしょうね』
「見分けがつくのか?」
桜の木は、種類にもよるけれど
殆どが幹に横長のすじがある。
流石に花の咲いてない木から
桜の種類までは細かく見分けられないけど
恐らく一般的に有名なソメイヨシノばかりがあるようだった。
私の話を聞くと、越知先輩は関心するように
木々を見つめていた。
『祖母が教えてくれたんですよ。
植物が好きで、いつも花の名前とか教えてくれてました』
「そうか。[#dn=2#]も植物が好きなのか?」
『うーん、特別に好きだとは思ってなかったのですが…
今日こうやって散歩してたら
教えて貰ったことけっこう覚えてて
案外、好きなのかもしれませんね』
「……教えてくれないだろうか」
桜の木を見つめていた越知先輩が、私を振り返って問う。
そこまで詳しくはないから
一般的なことしか答えられないけど
と悩んでいたら
越知先輩は突然、私の手を取って歩き出した。
突然のことすぎて、理解が追いついていないまま
先輩の手に身を任せていたら
足元が悪いから気をつけるようにと言われた。
あぁ、なんだ。
ちょっと期待してしまったけど
私が転けないように気を遣ってくれているのだとわかると
少し、残念に思えた。
山道を抜けると、開けた野原に出た。
頬を撫でる風は柔らかく
日差しは暖かくて
若草の匂いと優しい甘さの花の香り
姿は見えないけれど
聞こえてくる鳥の囀りに心が休まる。
私の手は、まだ越知先輩の細くも逞しい手に包まれたままで
すべてが贅沢な空間に包まれていた。
「心地が良いな」
『そうですね。贅沢な時間だなって思っていました』
「フッ…同じだな。俺もそう思っていた」
春風に、長い前髪が揺れて
普段見られない瞳が見えた。
誰かが怖いと言っていた気がするけれど
越知先輩の瞳は優しい色をしていた。
「先程、教えてほしいと言ったが…」
『あぁ、でも教えるほどの知識はないですよ?
祖母が教えてくれたことは
殆ど一般的なことでしょうし』
「違う」
ぎゅっと、握られた手に力がこもる。
「教えてほしいのは、[#dn=2#]のことだ」
ざぁっと、木々がざわめく音がして
自分の心も、揺れるような感じがした。
私のことを、ってどういう意味だろう。
『わ、私のことなんて聞いても、面白くないですよ?』
色んな感情でまとまりのつかない私の心を隠すように
笑ってそう言えば
越知先輩はゆっくりと頭を振る。
「面白さは求めてない。
…今日散歩に誘ったのは、お前と話がしたかったからだ。
俺は、[#dn=2#]のことがもっと知りたい」
『どうして、知りたいって思うんですか…?』
こんなことを聞くのはずるいかもしれないけど
先輩の口から、明確な言葉が聞きたかった。
私の気持ちは、ふらふらとしてしまっていて
自分で自分がわからない。
越知先輩に、ちゃんと導いてほしい。
先輩はしばらく黙り込んでいたけれど
私の目線まで屈み、視線をあわせてくれた。
「好ましいと、想っている」
聞きたいと思ったのは自分なのに
真っ直ぐな言葉に、恥ずかしくて思わず俯く。
越知先輩の言葉は
春の日差しみたいに温かくて
じんわりと、私の胸に広がっていって
私のふらふらしていた気持ちは、ちゃんと芽生えた。
『私も、越知先輩のこと、好ましいって想っています。
だから先輩のことも、もっと教えてください』
「……そうか。なら、話しながら帰ろうか」
やっと、明確になった私の気持ちと
それを導く越知先輩。
一歩一歩確かめるように歩む私達を
春の日差しが祝福しているかのように
温かく、降り注いでくれていた。
(月光さん、[#dn=2#]ちゃん、おかえんなさい!) (あ、毛利くん。ただいま)
(えへへ、その様子やと上手くいったんですね)
(上手く?)
(俺にとっても、大好きな先輩らが恋人同士になるって
むっちゃ嬉しいでっせ!)
((こ、恋人……))
(え!?ちゃうの?月光さん、今日告白する言うて…
あ、俺余計なこと言うてしもたん…?
って、2人とも顔真っ赤やんけ)
(恋人…ということでいいのか?)
(そ、そうですね。
そういうことで…えっとよろしくお願いします?)
(この2人、心配なんやけど…)