春うらら
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「貴女は、蝶のような人ですね」
その言葉は私の胸に響いて
今もまだ、あの日のことが忘れられずにいる。
また会うことができたなら
私は彼に、貴方のほうが“蝶のような人”だと伝えたい。
『合宿の手伝い?』
「ええ。春休みの期間だけ。
バイト代も出ますしどうですか?
[#dn=2#]と同じ年代の子達ばかりですし息抜きにもなりますよ」
『………やってみる』
もうすぐ春休み。
とくに予定もない春休みを
どうやって過ごそうか考えていたある日
テニスのコーチをしている叔父からアルバイトをしないかと
唐突に電話が掛かってきた。
急に人が辞めてしまって、人手不足になったらしく
どうせ暇を持て余すであろう姪に白羽の矢が立ったのだ。
家にいても親から掃除しろだのゴロゴロするななど
言われることは目に見えている。
それならば、お金ももらえるし
何より退屈せずに済みそうだと思って
私は合宿施設のアルバイトを引き受けることにしたのだった。
アルバイト自体は、苦ではなかった。
仕事は選手達の食事を作ったり
洗濯したり、掃除したり。
斎藤コーチの姪、という肩書のおかげか
他のスタッフの人達は親切だったし
山奥にあって、自然も豊かで素敵な環境だ。
ぼーっと空を眺めたり
川や海、木々や花々が好きな私にとって
この環境はありがたい。
だから仕事の休憩時間などには
いつも外をぶらついていたのだけど
最近よくいろんな色のジャージ姿の男の子たちや
強面の高校生?に出くわして「え、誰?」って顔をされるから
私は誰も来なさそうな場所を求めていつもふらふらしていた。
そしてちょうど良さそうな木陰を見つけたら
草っぱらに寝っ転がったりして
ただ、なにもない時間を過ごしていた。
ここにいると
人の陰湿な部分や汚いところを見なくてすむ。
もしかしたら叔父は
私を心配して誘ってくれたのかもしれない。
そんなことを考えていたら
ふと、誰かの足音が聞こえてきた。
「えっ!?えっと・・・具合が悪いのですか?」
白縁の眼鏡をかけたその人は
こんなところに人が寝ているとは思わなかったのであろう
驚いたような声を上げていた。
『あ、いえ。ただ寝ていただけなので大丈夫』
「え?寝ていた・・・ここで、ですか?」
『はい。気持ちが良かったので』
「・・・・」
なんか、信じられないものでも見たかのような
顔をされているけれど
これはきっと引かれているような気がする。
「確かここで働かれている方ですよね?」
『そうです。
休憩時間なのでちょっと休みに来たんですけど
驚かせてしまってすみません』
私が謝ると
彼は「具合が悪いのではなくて良かったです」と微笑んだ。
世の中にこんなに綺麗な男性がいるのかと
目を疑うほど綺麗なその男性は
どこか作ったような雰囲気を醸し出している。
何か話しをしたほうが良いのかなと思っていたら
電子音が聞こえてきた。
「はい、君島です。
はい、はい…。わかりました。では撮影のときに」
撮影のときってなんだろうって思っていたら
彼はすかさず笑顔で、すみません仕事の電話で、と言った。
『同い年くらいかと思いましたが働かれているんですね』
「え?…えぇ、そうですね。えっと、私を見たことは…?」
『?施設の中で会いましたか?』
なんだかうまく会話ができていない気がする。
私は何か勘違いでもしているのだろうかと
彼を見つめてみると
彼は口元を押さえながら笑った。
あぁ、今の笑顔は作ってないっぽい。
「…君島育斗と言います。貴女は?」
『あ、[#dn=1#][#dn=2#]です』
君島さんはどうやら私より1つ年上らしく
高校生でありながら仕事をしていて
加えてテニスの強豪メンバーという
なんとも多忙な生活をおくっているという。
仕事のことについては、あまり話してくれなかったから
深く聞かないほうが良いのだろう。
自己紹介をしてからは
歳も近いからか、好きなものや趣味や
お互いのことを色々と話した。
一緒に過ごす時間はゆっくりとしていて
すごく、心が落ち着く時間だった。
「それにしても、こんなところに
女性が寝ていては危ないですよ。いつもこんなところで?」
『まあ、だいたいは似たりよったりな場所で休憩してますね』
「ご自分の部屋があるのでは?」
『そうなんですけど…
なんか誰もいないところに行きたくなるというか…』
君島さんがすかさず邪魔をしてしまって、と
謝って来たので私はすぐに否定して
言うか迷ったけれどこれまでの経緯を話した。
私は、学校でいじめられている。
始まりは本当に唐突だった。
ある日いきなり上履きがなくなって
教科書類がなくなって
誰も口を効いてくれないようになって。
正確には、女子から無視されている。
リーダー格の女子になぜこんなことをするのかと聞いても
答えは返ってこなくて
その代わりに傍観している男子から
「僻みだろ」という答えが返ってきた。
僻み、と言われても、私は何もしていない。
私は基本的には一人行動が多くて
グループをつくったりせず
その日その日で行動していたのだけど
それが気に食わなかったのだろうか。
理由は明確にはわからないけど
流石に精神的にはストレスなわけで
ここでゆっくり過ごしているのだと、君島さんには説明した。
「そうですか…」
『そんなに申し訳ないこと聞いた、みたいな顔
しないでください。
なんか、ストレスではあるですけど
めんどくさいなあって感情が1番大きくて』
「教室での貴女を見たことはありませんけど
私も恐らく、僻みという醜い感情のせいだと思いますよ。
貴女が理不尽な思いをしているのは」
君島さんは、私を気遣ってのことか
いじめ、ではなく、理不尽な思いと表現してくれた。
その優しさが今はすごく身に沁みた。
『なんの僻み?』
「貴女が美しいから」
眼鏡の奥の瞳が、すっと細められ私を見つめる。
真っ直ぐな言葉が胸に響いて
美しい、という言葉を反芻してみた。
言われ慣れない言葉に、ドキドキする。
『美しくなんてない。
ただ自由にふらふらしてるだけ』
「その自由さが、美しく見えるんですよ。
他の人にはない、他の人がしたくてもできないことを
貴女は、[#dn=2#]さんは平気でやってのける。
生き方が美しくて、綺麗だから僻む。
きっと彼女達は僻むという感情に逃げるしかないのですよ」
『可哀想な人達ってことね』
「ふふっ、そういうところが美しいですね」
君島さんの言っていることは
わかるようで、わからないけれど
少なくとも、傍観している男子達との会話より
好感は持てるし
言葉一つ一つが詩的で、それこそ美しいと思った。
『君島さんは見た目もだけど
仕草も、言葉も、何もかも全部が美しいです。
あぁ、そっか。今はいいなあって思ったけど
これが拗れると僻む、になるのか…』
人間は、本当にめんどくさい生き物ですねって言ったら
君島さんは優しく微笑んで
「貴女は、蝶のような人ですね」と言ってくれた。
彼の言葉に、なぜか救われたような気がして
私はこれから先の「めんどくさい」も
楽しめるような気がしてきた。
私は、できることなら
毒々しく美しい蝶よりも
春の日差しをたっぷりと浴びて
ゆらゆら自由に揺らめく蝶のように
生きていきたい。
そして、たまには彼に
君島さんにふらっと会いに来たいなと思ったのだった。
(もしもし?お久しぶりですね。
久しぶりに声が聞けて嬉しいですよ)
(あ、うん。私も嬉しい…って
ねえ、育斗くんって芸能人だったの?)
(やっと気が付きましたか)
(この前テレビ見てたら育斗がCM出ててびっくりした)
(あぁ、コラビタのCMですかね。
[#dn=2#]さんに今度贈りましょう)
(ありがとう…じゃなくて、なんで隠してたの?
クラスの子達に教えてもらったら
めちゃくちゃ人気だって聞いて)
(おや、理不尽な環境はなくなったのですね。
良かったです)
(あ、そうなの。なんかいきなりもとに戻って…
じゃなくて……!
…まあいいや。育斗くんは、育斗くんだもんね)
(ふふっ、貴女のそういうところが好きですよ)
その言葉は私の胸に響いて
今もまだ、あの日のことが忘れられずにいる。
また会うことができたなら
私は彼に、貴方のほうが“蝶のような人”だと伝えたい。
『合宿の手伝い?』
「ええ。春休みの期間だけ。
バイト代も出ますしどうですか?
[#dn=2#]と同じ年代の子達ばかりですし息抜きにもなりますよ」
『………やってみる』
もうすぐ春休み。
とくに予定もない春休みを
どうやって過ごそうか考えていたある日
テニスのコーチをしている叔父からアルバイトをしないかと
唐突に電話が掛かってきた。
急に人が辞めてしまって、人手不足になったらしく
どうせ暇を持て余すであろう姪に白羽の矢が立ったのだ。
家にいても親から掃除しろだのゴロゴロするななど
言われることは目に見えている。
それならば、お金ももらえるし
何より退屈せずに済みそうだと思って
私は合宿施設のアルバイトを引き受けることにしたのだった。
アルバイト自体は、苦ではなかった。
仕事は選手達の食事を作ったり
洗濯したり、掃除したり。
斎藤コーチの姪、という肩書のおかげか
他のスタッフの人達は親切だったし
山奥にあって、自然も豊かで素敵な環境だ。
ぼーっと空を眺めたり
川や海、木々や花々が好きな私にとって
この環境はありがたい。
だから仕事の休憩時間などには
いつも外をぶらついていたのだけど
最近よくいろんな色のジャージ姿の男の子たちや
強面の高校生?に出くわして「え、誰?」って顔をされるから
私は誰も来なさそうな場所を求めていつもふらふらしていた。
そしてちょうど良さそうな木陰を見つけたら
草っぱらに寝っ転がったりして
ただ、なにもない時間を過ごしていた。
ここにいると
人の陰湿な部分や汚いところを見なくてすむ。
もしかしたら叔父は
私を心配して誘ってくれたのかもしれない。
そんなことを考えていたら
ふと、誰かの足音が聞こえてきた。
「えっ!?えっと・・・具合が悪いのですか?」
白縁の眼鏡をかけたその人は
こんなところに人が寝ているとは思わなかったのであろう
驚いたような声を上げていた。
『あ、いえ。ただ寝ていただけなので大丈夫』
「え?寝ていた・・・ここで、ですか?」
『はい。気持ちが良かったので』
「・・・・」
なんか、信じられないものでも見たかのような
顔をされているけれど
これはきっと引かれているような気がする。
「確かここで働かれている方ですよね?」
『そうです。
休憩時間なのでちょっと休みに来たんですけど
驚かせてしまってすみません』
私が謝ると
彼は「具合が悪いのではなくて良かったです」と微笑んだ。
世の中にこんなに綺麗な男性がいるのかと
目を疑うほど綺麗なその男性は
どこか作ったような雰囲気を醸し出している。
何か話しをしたほうが良いのかなと思っていたら
電子音が聞こえてきた。
「はい、君島です。
はい、はい…。わかりました。では撮影のときに」
撮影のときってなんだろうって思っていたら
彼はすかさず笑顔で、すみません仕事の電話で、と言った。
『同い年くらいかと思いましたが働かれているんですね』
「え?…えぇ、そうですね。えっと、私を見たことは…?」
『?施設の中で会いましたか?』
なんだかうまく会話ができていない気がする。
私は何か勘違いでもしているのだろうかと
彼を見つめてみると
彼は口元を押さえながら笑った。
あぁ、今の笑顔は作ってないっぽい。
「…君島育斗と言います。貴女は?」
『あ、[#dn=1#][#dn=2#]です』
君島さんはどうやら私より1つ年上らしく
高校生でありながら仕事をしていて
加えてテニスの強豪メンバーという
なんとも多忙な生活をおくっているという。
仕事のことについては、あまり話してくれなかったから
深く聞かないほうが良いのだろう。
自己紹介をしてからは
歳も近いからか、好きなものや趣味や
お互いのことを色々と話した。
一緒に過ごす時間はゆっくりとしていて
すごく、心が落ち着く時間だった。
「それにしても、こんなところに
女性が寝ていては危ないですよ。いつもこんなところで?」
『まあ、だいたいは似たりよったりな場所で休憩してますね』
「ご自分の部屋があるのでは?」
『そうなんですけど…
なんか誰もいないところに行きたくなるというか…』
君島さんがすかさず邪魔をしてしまって、と
謝って来たので私はすぐに否定して
言うか迷ったけれどこれまでの経緯を話した。
私は、学校でいじめられている。
始まりは本当に唐突だった。
ある日いきなり上履きがなくなって
教科書類がなくなって
誰も口を効いてくれないようになって。
正確には、女子から無視されている。
リーダー格の女子になぜこんなことをするのかと聞いても
答えは返ってこなくて
その代わりに傍観している男子から
「僻みだろ」という答えが返ってきた。
僻み、と言われても、私は何もしていない。
私は基本的には一人行動が多くて
グループをつくったりせず
その日その日で行動していたのだけど
それが気に食わなかったのだろうか。
理由は明確にはわからないけど
流石に精神的にはストレスなわけで
ここでゆっくり過ごしているのだと、君島さんには説明した。
「そうですか…」
『そんなに申し訳ないこと聞いた、みたいな顔
しないでください。
なんか、ストレスではあるですけど
めんどくさいなあって感情が1番大きくて』
「教室での貴女を見たことはありませんけど
私も恐らく、僻みという醜い感情のせいだと思いますよ。
貴女が理不尽な思いをしているのは」
君島さんは、私を気遣ってのことか
いじめ、ではなく、理不尽な思いと表現してくれた。
その優しさが今はすごく身に沁みた。
『なんの僻み?』
「貴女が美しいから」
眼鏡の奥の瞳が、すっと細められ私を見つめる。
真っ直ぐな言葉が胸に響いて
美しい、という言葉を反芻してみた。
言われ慣れない言葉に、ドキドキする。
『美しくなんてない。
ただ自由にふらふらしてるだけ』
「その自由さが、美しく見えるんですよ。
他の人にはない、他の人がしたくてもできないことを
貴女は、[#dn=2#]さんは平気でやってのける。
生き方が美しくて、綺麗だから僻む。
きっと彼女達は僻むという感情に逃げるしかないのですよ」
『可哀想な人達ってことね』
「ふふっ、そういうところが美しいですね」
君島さんの言っていることは
わかるようで、わからないけれど
少なくとも、傍観している男子達との会話より
好感は持てるし
言葉一つ一つが詩的で、それこそ美しいと思った。
『君島さんは見た目もだけど
仕草も、言葉も、何もかも全部が美しいです。
あぁ、そっか。今はいいなあって思ったけど
これが拗れると僻む、になるのか…』
人間は、本当にめんどくさい生き物ですねって言ったら
君島さんは優しく微笑んで
「貴女は、蝶のような人ですね」と言ってくれた。
彼の言葉に、なぜか救われたような気がして
私はこれから先の「めんどくさい」も
楽しめるような気がしてきた。
私は、できることなら
毒々しく美しい蝶よりも
春の日差しをたっぷりと浴びて
ゆらゆら自由に揺らめく蝶のように
生きていきたい。
そして、たまには彼に
君島さんにふらっと会いに来たいなと思ったのだった。
(もしもし?お久しぶりですね。
久しぶりに声が聞けて嬉しいですよ)
(あ、うん。私も嬉しい…って
ねえ、育斗くんって芸能人だったの?)
(やっと気が付きましたか)
(この前テレビ見てたら育斗がCM出ててびっくりした)
(あぁ、コラビタのCMですかね。
[#dn=2#]さんに今度贈りましょう)
(ありがとう…じゃなくて、なんで隠してたの?
クラスの子達に教えてもらったら
めちゃくちゃ人気だって聞いて)
(おや、理不尽な環境はなくなったのですね。
良かったです)
(あ、そうなの。なんかいきなりもとに戻って…
じゃなくて……!
…まあいいや。育斗くんは、育斗くんだもんね)
(ふふっ、貴女のそういうところが好きですよ)