春うらら
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「何なんだよお、聞いてた話と違うじゃねーか」
『いやいや、狩り、でしょ?ちゃんと説明したじゃない』
ぶすっと不貞腐れた遠野くんを引っ張って受付に向かう。
嫌々そうにはしているが
彼のことだからきっとすぐに機嫌が良くなって
私よりもはしゃいでくれるだろう。
受付をすませビニールハウスの中に入ると
外気と遮断された空間に
甘酸っぱい苺の香りが満ちていた。
今日、私達は苺狩りに来ている。
TVで春のお出かけ特集をやっていて
遠野くんと一緒に行きたいなあと思って誘ったのだ。
だけど普通に誘っても来てくれなさそうだったので
『簡単に狩りの気持ちを味わえるイベントに行かない?
スリルがあって、遠野くんの処刑テニスに
なにか生かせるかもよ』
と、言っていたのだ。
「どこが生かせるんだよぉ?」
『生かせるかもって言ったの。
ほら、とにかく来ちゃったんだし楽しもうよ!
苺美味しそうだよ』
いつでもテニス三昧の彼は
合宿からたまに帰ってきたかと思えば
テニスの話や、ダブルスペアである君様のこと
それか処刑の話ばかりしてきて
あんまり恋人らしい時間を過ごせずにいた。
楽しそうに話をする遠野くんを見ていることは好きだけど
たまには、恋人らしいデートをして
甘くて楽しい時間を過ごしたい。
でも彼はテーマパークとか
オシャレなカフェとかあまり好きじゃなさそうだし
以前テーマパークの話をしたとき
面倒だって言っていた。
そんな彼に伝えても
嫌そうな顔をすることはわかっているから
今日は強行突破で連れてきたのだ。
「おい、[#dn=2#]!こっちのほうがデカいのがあるぜ!
早く来いよ!」
きっと彼の機嫌は良くなる、とは言ったけど
予想通りすぎて思わず笑う。
より大きな苺を見つけたいのか
遠野くんは大きな背を屈めながら
一緒懸命苺を見つめていて
私に向かって、こいこい、と手を振っている。
『大っきいのあったの?』
「これなんかでかいぜぇ!」
『ふふっ、ほんとだ。美味しそうだね』
「どんどん採っちゃうよぉ!」
こうやって、楽しそうにしている遠野くんを見ていたい。
一緒に過ごしていたい。
だけど、また彼はすぐに合宿へと戻ってしまう。
そう思うと、楽しいはずの時間を過ごすことより
この時間が終わってしまうことへの寂しさのほうが
私の中に広がっていった。
すると、唐突に私の目の前にずいっと
真っ赤な実が差し出された。
「お前が誘ったんだろ。辛気臭い顔してんじゃねえよ」
どうやら私が口を開けるのを待っているようで
彼は苺を差し出したままだ。
ちょっと恥ずかしいけれど、私は口を開けて
遠野くんが採ってくれ苺を頬張る。
甘さの酸味が口の中に広がって思わず顔がほころんだ。
『わあ、美味しいっ!』
「俺が採ってやったんだからなあ」
『あはは、遠野くんが採ってくれたから美味しさ倍増ね』
私はだんだんと、おかしくなってきて
思い切り笑ってしまった。
いつも殺伐としたテニスをして
嬉々として処刑の話をするような彼が
得意げな顔をして
春の日差しのもと苺片手に笑っているんだもの。
「・・・お前はさあ、笑ってろよ。
辛気臭い顔似合わねえし、調子狂うんだよ」
『ごめんごめん。
なんか、またすぐ合宿行っちゃうんだよなあって思ったら
少し寂しくなっちゃったの』
「はぁ?寂しがるの早すぎだろ」
『そうだけど、・・・もう、乙女心は複雑なんです~』
ふーん、って言いながらも
遠野くんは苺を採ってはまた
私に食べさせようとしてきた。
もしかしたら不器用な彼なりの
気遣いなのかもしれない。
私が『寂しい』って言ったから。
あぁ、もう、こういうところが好きなんだよなあと
遠野くんの綺麗な横顔を見上げて思った。
『いっぱい苺食べたね!美味しかった~』
「採った苺、ああやって加工してくれるんだな」
『どれも美味しかったね』
採った苺は、その場で食べてもいいし
スムージーや、ジュースにもしてもらえて
本当に今日は苺を堪能できた一日となった。
遠野くんも楽しんでたようだし、良かった。
『今日はありがとうね。
あと、変な誘い方してごめんなさい。
こうでも言わないと、来てくれないかと思って』
帰り道、笑いながら謝ると
彼はまた少し不機嫌そうな顔をした。
あれ?またなんか地雷踏んだかなって思っていたら
遠野くんは歩くのをやめて、私の目の前で立ち止まる。
「お前何勘違いしてんだ?
俺がお前からの誘い断ったことあるかぁ?
いちいち回りくどい言い方してねぇで普通に誘えよな」
『え…どこでも来てくれるの?』
「だから、どこで勘違いしたんだよ」
『だって、前テーマパークは面倒って…
オシャレなカフェだって、苦手って言ってたじゃない』
遠野くんは私の話を聞くと
あー…と言ってその時の会話を思い出しているようだった。
「面倒っていうのは、並んだりすんのが面倒ってことだ。
カフェは苦手って言ったけどよ
行くのが嫌って言ったことねえだろお?」
呆れたように言われて
思い返すと、確かに「嫌だ」「行きたくない」
とは言われたことはなかった。
『でも、無理してない?私だけ楽しいっていうのは嫌だから…』
「お前だって、好きでもない処刑の話聞いてんだろぉ?
それと一緒だ。
…好きなやつのためなら、どこへでも付き合うからさぁ
ちゃんと誘え」
ビシッと軽くデコピンされて
遠野くんが笑い交じりのため息をついた瞬間
春風が吹き、彼の綺麗な髪をなびかせた。
甘いセリフと、彼の眼差しが優しくて
顔を見ることができないくらい
胸がドキドキとしている。
私は、遠野くんの手をとり、ぎゅっと、握りしめた。
『じゃあ、これからはちゃんと誘う。
だけど、嫌なことがあったらちゃんと言ってね。
…私だって、好きな人のこと、ちゃんと考えたいもの』
恥ずかしさの中で
なんとか絞り出した私のか細い声を聞いて
彼は
「さっきの苺みたいに真っ赤だぜぇ!」って笑ったのだった。
(あっ、もしかして不機嫌だったのは
私が変な誘い方したせい?)
(………)
(そうだったんだ…)
(毎回捻った誘われ方されれば
誰でも不機嫌になるだろーが。
なんで素直に言って甘えてこねぇんだって)
(じゃあこれからいっぱい甘える)
(好きにしな。寂しくねえくらいには構ってやるからさあ)
(あ、寂しいって言ったのも気にしてくれてたんだね)
(お前、何でもかんでも口に出すなよなあ!)
(言われた通らに素直に話してるのに…)
『いやいや、狩り、でしょ?ちゃんと説明したじゃない』
ぶすっと不貞腐れた遠野くんを引っ張って受付に向かう。
嫌々そうにはしているが
彼のことだからきっとすぐに機嫌が良くなって
私よりもはしゃいでくれるだろう。
受付をすませビニールハウスの中に入ると
外気と遮断された空間に
甘酸っぱい苺の香りが満ちていた。
今日、私達は苺狩りに来ている。
TVで春のお出かけ特集をやっていて
遠野くんと一緒に行きたいなあと思って誘ったのだ。
だけど普通に誘っても来てくれなさそうだったので
『簡単に狩りの気持ちを味わえるイベントに行かない?
スリルがあって、遠野くんの処刑テニスに
なにか生かせるかもよ』
と、言っていたのだ。
「どこが生かせるんだよぉ?」
『生かせるかもって言ったの。
ほら、とにかく来ちゃったんだし楽しもうよ!
苺美味しそうだよ』
いつでもテニス三昧の彼は
合宿からたまに帰ってきたかと思えば
テニスの話や、ダブルスペアである君様のこと
それか処刑の話ばかりしてきて
あんまり恋人らしい時間を過ごせずにいた。
楽しそうに話をする遠野くんを見ていることは好きだけど
たまには、恋人らしいデートをして
甘くて楽しい時間を過ごしたい。
でも彼はテーマパークとか
オシャレなカフェとかあまり好きじゃなさそうだし
以前テーマパークの話をしたとき
面倒だって言っていた。
そんな彼に伝えても
嫌そうな顔をすることはわかっているから
今日は強行突破で連れてきたのだ。
「おい、[#dn=2#]!こっちのほうがデカいのがあるぜ!
早く来いよ!」
きっと彼の機嫌は良くなる、とは言ったけど
予想通りすぎて思わず笑う。
より大きな苺を見つけたいのか
遠野くんは大きな背を屈めながら
一緒懸命苺を見つめていて
私に向かって、こいこい、と手を振っている。
『大っきいのあったの?』
「これなんかでかいぜぇ!」
『ふふっ、ほんとだ。美味しそうだね』
「どんどん採っちゃうよぉ!」
こうやって、楽しそうにしている遠野くんを見ていたい。
一緒に過ごしていたい。
だけど、また彼はすぐに合宿へと戻ってしまう。
そう思うと、楽しいはずの時間を過ごすことより
この時間が終わってしまうことへの寂しさのほうが
私の中に広がっていった。
すると、唐突に私の目の前にずいっと
真っ赤な実が差し出された。
「お前が誘ったんだろ。辛気臭い顔してんじゃねえよ」
どうやら私が口を開けるのを待っているようで
彼は苺を差し出したままだ。
ちょっと恥ずかしいけれど、私は口を開けて
遠野くんが採ってくれ苺を頬張る。
甘さの酸味が口の中に広がって思わず顔がほころんだ。
『わあ、美味しいっ!』
「俺が採ってやったんだからなあ」
『あはは、遠野くんが採ってくれたから美味しさ倍増ね』
私はだんだんと、おかしくなってきて
思い切り笑ってしまった。
いつも殺伐としたテニスをして
嬉々として処刑の話をするような彼が
得意げな顔をして
春の日差しのもと苺片手に笑っているんだもの。
「・・・お前はさあ、笑ってろよ。
辛気臭い顔似合わねえし、調子狂うんだよ」
『ごめんごめん。
なんか、またすぐ合宿行っちゃうんだよなあって思ったら
少し寂しくなっちゃったの』
「はぁ?寂しがるの早すぎだろ」
『そうだけど、・・・もう、乙女心は複雑なんです~』
ふーん、って言いながらも
遠野くんは苺を採ってはまた
私に食べさせようとしてきた。
もしかしたら不器用な彼なりの
気遣いなのかもしれない。
私が『寂しい』って言ったから。
あぁ、もう、こういうところが好きなんだよなあと
遠野くんの綺麗な横顔を見上げて思った。
『いっぱい苺食べたね!美味しかった~』
「採った苺、ああやって加工してくれるんだな」
『どれも美味しかったね』
採った苺は、その場で食べてもいいし
スムージーや、ジュースにもしてもらえて
本当に今日は苺を堪能できた一日となった。
遠野くんも楽しんでたようだし、良かった。
『今日はありがとうね。
あと、変な誘い方してごめんなさい。
こうでも言わないと、来てくれないかと思って』
帰り道、笑いながら謝ると
彼はまた少し不機嫌そうな顔をした。
あれ?またなんか地雷踏んだかなって思っていたら
遠野くんは歩くのをやめて、私の目の前で立ち止まる。
「お前何勘違いしてんだ?
俺がお前からの誘い断ったことあるかぁ?
いちいち回りくどい言い方してねぇで普通に誘えよな」
『え…どこでも来てくれるの?』
「だから、どこで勘違いしたんだよ」
『だって、前テーマパークは面倒って…
オシャレなカフェだって、苦手って言ってたじゃない』
遠野くんは私の話を聞くと
あー…と言ってその時の会話を思い出しているようだった。
「面倒っていうのは、並んだりすんのが面倒ってことだ。
カフェは苦手って言ったけどよ
行くのが嫌って言ったことねえだろお?」
呆れたように言われて
思い返すと、確かに「嫌だ」「行きたくない」
とは言われたことはなかった。
『でも、無理してない?私だけ楽しいっていうのは嫌だから…』
「お前だって、好きでもない処刑の話聞いてんだろぉ?
それと一緒だ。
…好きなやつのためなら、どこへでも付き合うからさぁ
ちゃんと誘え」
ビシッと軽くデコピンされて
遠野くんが笑い交じりのため息をついた瞬間
春風が吹き、彼の綺麗な髪をなびかせた。
甘いセリフと、彼の眼差しが優しくて
顔を見ることができないくらい
胸がドキドキとしている。
私は、遠野くんの手をとり、ぎゅっと、握りしめた。
『じゃあ、これからはちゃんと誘う。
だけど、嫌なことがあったらちゃんと言ってね。
…私だって、好きな人のこと、ちゃんと考えたいもの』
恥ずかしさの中で
なんとか絞り出した私のか細い声を聞いて
彼は
「さっきの苺みたいに真っ赤だぜぇ!」って笑ったのだった。
(あっ、もしかして不機嫌だったのは
私が変な誘い方したせい?)
(………)
(そうだったんだ…)
(毎回捻った誘われ方されれば
誰でも不機嫌になるだろーが。
なんで素直に言って甘えてこねぇんだって)
(じゃあこれからいっぱい甘える)
(好きにしな。寂しくねえくらいには構ってやるからさあ)
(あ、寂しいって言ったのも気にしてくれてたんだね)
(お前、何でもかんでも口に出すなよなあ!)
(言われた通らに素直に話してるのに…)