春うらら
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3月3日。
今日は女の子のための、ひなまつり。
高校生にもなれば
ひなまつりなんてイベントは、何も関係ないけれど
やっぱり行事の日に彼氏とデートできることは
なんか特別感があって嬉しい。
いや、いつでも嬉しいんだけどさ、って
自分自身にツッコミを入れて
待ち合わせの場所へと向かおうとしたら
竜次から電話がかかってきた。
「春陽、頼む。助けてくれや…」
困ったような、弱々しい声で
竜次から電話を受け
私は急いで彼氏のもとへと向かう。
今日は一緒に古本屋巡りをしようと約束していたのだけど
私の委員会が長引いてしまって
竜次には先にお店へと向かってもらっていた。
なにがあったんだろう。
先ほどの電話からは、普段の落ち着いた様子は伺えず
とにかく彼のいる古本屋さんの近くに来てみたら
店頭に竜次が立っていた。
『竜次、お待たせ!どうした……の?』
振り向いた竜次の手には
小さな女の子の手が握られていた。
髭面、開襟シャツ、鋭い目つき…
あぁ、これはどう見ても職質案件レベルな絵面。
「お前、今失礼なこと考えただろ」
『えっ!?いや、そんなことないよ!
それよりその子はどうしたの?』
竜次には確か弟さんはいたけど
兄妹にしては幼すぎるし親戚の子供だろうか。
「はぁ…迷子だし…」
頭を抱える竜次とは正反対に
小さな女の子は、きょとんとした瞳で彼を見あげていた。
竜次曰く、古本屋に入ろうとした矢先
目の前でこの子が転びそうになったらしい。
彼は咄嗟に受け止め
目を離したであろう保護者に一言言ってやろうと
あたりを見渡してもそれらしき人はおらず。
しかも受け止められたことを
遊んでもらったと勘違いしたこの子は
そのまま竜次に懐いてしまったという。
「親を探そうにも情報がねぇ。
連れて周るにはちいせぇし、何より歩きたがらなくてな。
…それに、聞いて回るにしても、この絵面、怪しいだろ」
やっぱり自覚あったんだ、ってちょっと思ったけど
そこはスルーすることにした。
『ショッピングモールなら迷子センターとかあるけど
こんな商店街じゃ、どこに言えばいいんだろ…。
警察の人に連絡したがいいのかな?』
「それも考えたんだけどよ…
こんなにちいせぇんだ。怖くねぇかって思ってな」
竜次の言う通り
警察官の人って、職業柄威圧感もあるし
こんなに小さな女の子にとっては、少し怖いかもしれない。
彼がそこまで考えてあげていることに
とても優しい人なんだって、改めて感じた。
『じゃあさ、私竜次のカバン持つから
肩車か抱っこしてあげてよ。
高いとこから見ればお母さんに気づくかもしれないし。
それでお店回って聞いてみよう!』
「あぁ、そうするか。おい、抱えるし」
竜次の言葉がわかったのかはわからないけど
女の子は抱き上げられると、ニコッと笑って
嬉しそうにしている。
肩車は危ないから、抱えることにしたらしいけど
なんだかマスコットキャラのようで二人共かわいい。
私達はそれからスーパーやコンビニ
子供服のお店に行ってみたのだけど
誰もこの子に覚えがないという。
おとなしい子だから、騒いだり泣いたりはしないけれど
きっとお母さんは心配しているだろう。
早く、見つけてあげたい。
商店街を見渡し、どうしたらいいものか考えていたら
ふと、あるものが目に止まった。
写真館に飾ってある、着物を着た女の子の写真。
手には梅の花を握っている。
『そうだ!竜次!ひなまつりだよ!』
「あぁ?たしかに今日はひなまつりだけどよ。
それがどうしたし」
『お菓子屋さん・・・いや、ケーキ屋さんがあったよね?
お母さん、ひなまつりのケーキ買いに来たんじゃないかな?
あのお店古本屋さんの裏だし、もしかしたら・・・!』
「よし、行ってみるか」
私の予想は当たっていた。
ケーキ屋さんの店員さんが、女の子に見覚えがあって
お母さんの特徴まで覚えていたのだ。
私達は店員さんの情報をもとに
お母さんを探そうかと思ったのだけど
事情を話すと連絡先がわかるからといって電話してくれた。
ひなまつりのケーキを、予約していたらしい。
それからはあっという間だった。
慌てた様子のお母さんが来て、女の子を抱きしめ
何度も何度も、私達に頭を下げていた。
竜次は、保護者に一言言ってやると言っていたのだけど
安堵のため息をつくと、女の子の頭を撫で
「良かったな」って優しく微笑んでいた。
『竜次、お母さん見つかって良かったね』
「良かったけどよ・・・はぁ。疲れたし。
慣れないことはするもんじゃねえな」
『でも、ちょっと楽しそうに見えたよ?
なんだかお父さんみたいだった。
不器用だけど、優しいお父さんって感じ』
「勘弁しろし・・・もう懲り懲りだ」
でも本当に
竜次がお父さんになったら、こんな感じなのかなって思えた。
抱き上げる手つきも、頭を撫でる様子も
常に女の子が不安じゃないか気を配っていたところも
すごく素敵で
きっと良いお父さんになるんだろうな。
『竜次は、きっといいお父さんになるね。
奥さんになる人も幸せだろうなあ』
「…なんだよ、ロマンチックなセリフでも待ってんのか?」
『べつに〜。そんなんじゃなくて素直にそう思ったってこと』
「お前だって、一人っ子なのに
随分と子供の扱いに慣れてたじゃねえか」
『子供好きだからじゃない?』
そんなことを話しながらも
頭の隅っこでは、もし、竜次と結婚したら…
と少し考えていた。
まだ高校生なのだから
そんな先のことなんてわからないけど
やっぱり、今付き合っている人との結婚は
少なからず、想像してしまうものだ。
それとも、違う人と結婚するのかな。
今はそんなこと、竜次以外考えられないけど。
「なんつー顔してんだし」
『え?そんな変な顔してた?』
「一人百面相になってんぞ。なに考えてたんだ」
『えっと……』
言ったところでため息つかれる気がする。
そう思って、うーんと唸っていたら
竜次が私の手を握った。
「どうせ俺と結婚とか夢見てぇなこと思ってたんだろ」
『うっ……』
夢ってまで言わなくてもいいのに、って思っていたら
竜次がふいに、手の力をぎゅっと込めた。
「…この先どうなるかわからねぇけどよ
ここの指は、一応空けとけよ」
『えっ・・・?ここって、その・・・』
彼の無骨でたくましい指が、私の左の薬指を撫でる。
「俺はまだ金も持ってねぇガキだし。
だからよ、確実なことは言ってやれねぇ。
言えねぇが、予約ってくらいなら言っても許されるだろ」
真面目で、彼らしい言葉に
胸がぎゅうっと、締め付けられるような感じがして
なんだか泣きたくなってしまった。
ほんと、さっきから百面相だなって笑う竜次を見て
色んな気持ちが溢れる。
いつか、もし、彼と結婚することが出来たなら
その時は3月3日のこの日に夫婦になりたい。
結婚記念日として今日のことをずっと
思い出として話していけたら良いなって
私はひっそりと心に思ったのだった。
(ひなまつりってよ、調べたら奥が深いんだし)
(そうなの?
確かに昔からある行事ってイメージだったけど)
(今度ひなまつりについての本でも読んでみるか)
(面白そうだね。図書館で探してみようよ)
(あぁ。今まで日本の行事ごとについては
読んだことなかったしな)
(じゃあ、右手にひなまつり。
左手にはこどもの日の本ね)
(お。いいな、それ。本探すの手伝ってくれや)
(もちろん!)
(・・・こういう話で楽しめるやつは、お前くらいだな)
今日は女の子のための、ひなまつり。
高校生にもなれば
ひなまつりなんてイベントは、何も関係ないけれど
やっぱり行事の日に彼氏とデートできることは
なんか特別感があって嬉しい。
いや、いつでも嬉しいんだけどさ、って
自分自身にツッコミを入れて
待ち合わせの場所へと向かおうとしたら
竜次から電話がかかってきた。
「春陽、頼む。助けてくれや…」
困ったような、弱々しい声で
竜次から電話を受け
私は急いで彼氏のもとへと向かう。
今日は一緒に古本屋巡りをしようと約束していたのだけど
私の委員会が長引いてしまって
竜次には先にお店へと向かってもらっていた。
なにがあったんだろう。
先ほどの電話からは、普段の落ち着いた様子は伺えず
とにかく彼のいる古本屋さんの近くに来てみたら
店頭に竜次が立っていた。
『竜次、お待たせ!どうした……の?』
振り向いた竜次の手には
小さな女の子の手が握られていた。
髭面、開襟シャツ、鋭い目つき…
あぁ、これはどう見ても職質案件レベルな絵面。
「お前、今失礼なこと考えただろ」
『えっ!?いや、そんなことないよ!
それよりその子はどうしたの?』
竜次には確か弟さんはいたけど
兄妹にしては幼すぎるし親戚の子供だろうか。
「はぁ…迷子だし…」
頭を抱える竜次とは正反対に
小さな女の子は、きょとんとした瞳で彼を見あげていた。
竜次曰く、古本屋に入ろうとした矢先
目の前でこの子が転びそうになったらしい。
彼は咄嗟に受け止め
目を離したであろう保護者に一言言ってやろうと
あたりを見渡してもそれらしき人はおらず。
しかも受け止められたことを
遊んでもらったと勘違いしたこの子は
そのまま竜次に懐いてしまったという。
「親を探そうにも情報がねぇ。
連れて周るにはちいせぇし、何より歩きたがらなくてな。
…それに、聞いて回るにしても、この絵面、怪しいだろ」
やっぱり自覚あったんだ、ってちょっと思ったけど
そこはスルーすることにした。
『ショッピングモールなら迷子センターとかあるけど
こんな商店街じゃ、どこに言えばいいんだろ…。
警察の人に連絡したがいいのかな?』
「それも考えたんだけどよ…
こんなにちいせぇんだ。怖くねぇかって思ってな」
竜次の言う通り
警察官の人って、職業柄威圧感もあるし
こんなに小さな女の子にとっては、少し怖いかもしれない。
彼がそこまで考えてあげていることに
とても優しい人なんだって、改めて感じた。
『じゃあさ、私竜次のカバン持つから
肩車か抱っこしてあげてよ。
高いとこから見ればお母さんに気づくかもしれないし。
それでお店回って聞いてみよう!』
「あぁ、そうするか。おい、抱えるし」
竜次の言葉がわかったのかはわからないけど
女の子は抱き上げられると、ニコッと笑って
嬉しそうにしている。
肩車は危ないから、抱えることにしたらしいけど
なんだかマスコットキャラのようで二人共かわいい。
私達はそれからスーパーやコンビニ
子供服のお店に行ってみたのだけど
誰もこの子に覚えがないという。
おとなしい子だから、騒いだり泣いたりはしないけれど
きっとお母さんは心配しているだろう。
早く、見つけてあげたい。
商店街を見渡し、どうしたらいいものか考えていたら
ふと、あるものが目に止まった。
写真館に飾ってある、着物を着た女の子の写真。
手には梅の花を握っている。
『そうだ!竜次!ひなまつりだよ!』
「あぁ?たしかに今日はひなまつりだけどよ。
それがどうしたし」
『お菓子屋さん・・・いや、ケーキ屋さんがあったよね?
お母さん、ひなまつりのケーキ買いに来たんじゃないかな?
あのお店古本屋さんの裏だし、もしかしたら・・・!』
「よし、行ってみるか」
私の予想は当たっていた。
ケーキ屋さんの店員さんが、女の子に見覚えがあって
お母さんの特徴まで覚えていたのだ。
私達は店員さんの情報をもとに
お母さんを探そうかと思ったのだけど
事情を話すと連絡先がわかるからといって電話してくれた。
ひなまつりのケーキを、予約していたらしい。
それからはあっという間だった。
慌てた様子のお母さんが来て、女の子を抱きしめ
何度も何度も、私達に頭を下げていた。
竜次は、保護者に一言言ってやると言っていたのだけど
安堵のため息をつくと、女の子の頭を撫で
「良かったな」って優しく微笑んでいた。
『竜次、お母さん見つかって良かったね』
「良かったけどよ・・・はぁ。疲れたし。
慣れないことはするもんじゃねえな」
『でも、ちょっと楽しそうに見えたよ?
なんだかお父さんみたいだった。
不器用だけど、優しいお父さんって感じ』
「勘弁しろし・・・もう懲り懲りだ」
でも本当に
竜次がお父さんになったら、こんな感じなのかなって思えた。
抱き上げる手つきも、頭を撫でる様子も
常に女の子が不安じゃないか気を配っていたところも
すごく素敵で
きっと良いお父さんになるんだろうな。
『竜次は、きっといいお父さんになるね。
奥さんになる人も幸せだろうなあ』
「…なんだよ、ロマンチックなセリフでも待ってんのか?」
『べつに〜。そんなんじゃなくて素直にそう思ったってこと』
「お前だって、一人っ子なのに
随分と子供の扱いに慣れてたじゃねえか」
『子供好きだからじゃない?』
そんなことを話しながらも
頭の隅っこでは、もし、竜次と結婚したら…
と少し考えていた。
まだ高校生なのだから
そんな先のことなんてわからないけど
やっぱり、今付き合っている人との結婚は
少なからず、想像してしまうものだ。
それとも、違う人と結婚するのかな。
今はそんなこと、竜次以外考えられないけど。
「なんつー顔してんだし」
『え?そんな変な顔してた?』
「一人百面相になってんぞ。なに考えてたんだ」
『えっと……』
言ったところでため息つかれる気がする。
そう思って、うーんと唸っていたら
竜次が私の手を握った。
「どうせ俺と結婚とか夢見てぇなこと思ってたんだろ」
『うっ……』
夢ってまで言わなくてもいいのに、って思っていたら
竜次がふいに、手の力をぎゅっと込めた。
「…この先どうなるかわからねぇけどよ
ここの指は、一応空けとけよ」
『えっ・・・?ここって、その・・・』
彼の無骨でたくましい指が、私の左の薬指を撫でる。
「俺はまだ金も持ってねぇガキだし。
だからよ、確実なことは言ってやれねぇ。
言えねぇが、予約ってくらいなら言っても許されるだろ」
真面目で、彼らしい言葉に
胸がぎゅうっと、締め付けられるような感じがして
なんだか泣きたくなってしまった。
ほんと、さっきから百面相だなって笑う竜次を見て
色んな気持ちが溢れる。
いつか、もし、彼と結婚することが出来たなら
その時は3月3日のこの日に夫婦になりたい。
結婚記念日として今日のことをずっと
思い出として話していけたら良いなって
私はひっそりと心に思ったのだった。
(ひなまつりってよ、調べたら奥が深いんだし)
(そうなの?
確かに昔からある行事ってイメージだったけど)
(今度ひなまつりについての本でも読んでみるか)
(面白そうだね。図書館で探してみようよ)
(あぁ。今まで日本の行事ごとについては
読んだことなかったしな)
(じゃあ、右手にひなまつり。
左手にはこどもの日の本ね)
(お。いいな、それ。本探すの手伝ってくれや)
(もちろん!)
(・・・こういう話で楽しめるやつは、お前くらいだな)